第45話 覚悟を持っていても……
二日間かけてようやくアルゴンブルグに到着。
待ちの規模はアリステラに比べて少し大きい程度、そこまで大差はない。
「ウルさん、明日から直ぐにコボルトの群れを探す感じですか」
「……いや、その前にあれだな。ユウゴはDランクの昇格試験を受けるんだ」
「昇格試験……ですか?」
Eランクまではサクッと上がれることが出来るが、Dランクを含めてそれ以上のランクは全て試験を受ける必要がある。
「俺、一応冒険者になってまだ一か月程度なんですけど、受けられるんですか」
「珍しい例だとは思うが、安心しろ。私も同じようなタイミングでDランクの昇格試験を受けた」
「あっ……そうなんですね」
目の前に前例がいたので、そういうのも超例外ではないのだと納得した。
「でも、そんなサクッと受けられるものなんですか?」
「ユウゴが今まで受けて達成してきた依頼や、買取所で提出したモンスターの種類などはギルドがしっかりと把握している。ユウゴ、最近倒した強敵はなんだ」
「強敵は……グレートウルフです」
「そう、Cランクモンスターのグレートウルフだ。ソロでCランクのモンスターを倒す冒険者が、Dランク昇格試験を受けられないと思うか?」
「思わない、です」
よくよく考えればその通りなのだ。
確かに冒険者としての活動歴は短く、経験は浅いかもしれない。
だが、ファストラーニングにお陰で学習能力は非常に高い。
スキルはもちろん秘密に……というより、ユウゴはベスから鑑定無効のスキルも貰っているので、チートスキルたちが他人にバレることはない。
(将来性はある……って考えれば、もう昇格試験を受けられてもおかしくないか……まぁ、出世が早いことに越したことはないか)
出世が早ければ、それだけ他の冒険者やギルドから……もしくは貴族から注目される可能性が高い。
色々と絡まれるのが嫌であれば、昇格試験のチャンスは遠慮した方が良いかもしれないが……既にCランクモンスターのグレートウルフをソロで討伐するという快挙を成し遂げてしまっている。
そして隣には圧倒的な速さで出世し……見た目だけを多くの視線を引き寄せてしまうウルがいる。
目立たたないように生活を……というのは、もう無理な話。
「ユウゴなら一発で合格できるだろう」
「だと良いですけど……ちなみに、Dランクの昇格試験はどんな内容なんですか」
「基本的には盗賊を相手にする」
「盗賊……あぁ、なるほど」
ユウゴは何故盗賊を相手にするのか、なんとなく理解した。
「ユウゴは驚かないんだな」
「いや、そりゃ人を相手にするのは驚くというか、凄く緊張しますけど……冒険者として生き続けるなら、いずれは戦わなければいけないんだろうなとは思ってたんで」
冒険者として活動し続けるのであれば、どこかでモンスターではなく人と殺し合わなければならない時が来る。
同じ宿に泊まっている冒険者たちの会話から、今日は偶々盗賊と遭遇して殺り合った……なんて話を聞いていたので、覚悟はしていた。
(攻撃する感触? とかはモンスターを相手にするのと変わらないと思うけど……やっぱり、緊張するな)
ベスから様々なチートスキルを貰っているユウゴだが、精神耐性系のスキルは持っていない。
なので……人を殺した感触をどう思い、感じるのか……それはユウゴの意思次第。
「ふっ、流石だ。一つ、先輩からアドバイスをすると……戦いが始まれば、立ち止まらず……とにかく動いて戦い続けることだ」
「止まらずに戦い続ける、ですか」
「そうだ。個人によって感じる差はあると思うが……初めて人を殺せば、少なからず動揺があると思う」
ウルは過去の体験を思い出しながら、ゆっくりと語った。
「私も覚悟を決めていたつもりだった。だが、最初に一人……切り殺すと、べっとりとした思い何かが体に圧し掛かり、気持ち悪さが体の中を駆け巡った」
「……」
「その気持ち悪さと、べっとりとした重い何かに打ち勝つために、とにかく動き続けた。盗賊の頭を殺すまで……ずっと動き続けた」
今では盗賊を殺す際に、特にそんな気味悪い何かを感じることはない。
だが……初めて人を殺す者は大なり小なり、そういった言葉に言い表しにくい何かと戦わなければならない。
「…………分かりました。とにかく動き続けます」
「そうした方が良い。後、一つ言っておく……あのバカ共が頭を下げ、命乞いをしても絶対に気を抜くな」
「人の良心を利用して、隙を狙って殺しに来るから、ですか」
「ふふ、本当に優秀だな。その通りだ……過去にその隙を突かれ、殺されてしまった冒険者の話を聞いたことがある。生きていく為に、仕方なく盗賊になった。誰かの為に盗賊になった……そんな者は一人もいない」
ウルからすれば、盗賊として生きていく力があるのであれば、真面目に冒険者として活動すれば良いだろという話。
それが出来ない時点で、盗賊といった連中は盛れなく腐っている。
貴重な先輩からのアドバイスを聞いたユウゴの表情は、良い感じに引き締まった。
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