第44話 それは……無理じゃね
レンとの最後の模擬戦を終えたユウゴは……もう一度レンに勝負を挑まれることはなく無事に過ごし、ようやく次の街……アルゴンブルグに向かい始めた。
ウルがその街に向かうと決めた理由は……その街の周辺でコボルトの群れを良く見かけるという情報が手に入り、ユウゴが集団戦に慣れるという訓練も含めて……アルゴンブルグに向かうことになった。
(確かに、きっちり集団戦って言える戦いはまだ体験したことないな~)
アルゴンブルグに向かう目的を聞かされ、ユウゴは思わず「えっ、脳筋過ぎない?」と、心の中で呟いてしまった。
ただ……ユウゴも今では大学生若干ニートではなく、立派な冒険者。
元の世界の基準で考えれば……マジの社会人。
本来であれば、後二年ほどは遊べるはずだったが……今では立派な働き者。
そして冒険者の仕事といえば……種類はあれど、モンスターを倒すのがメインと言えなくもない。
「…………」
「…………」
アルゴンブルグに向かう理由には一先ず納得した。
納得したが……あまり話すことがなく、スマホや音楽を聴くことができないので、会話がない時間がとてつもなく辛い。
(陽キャって訳じゃないからな……というか、普通にバイクみたいな楽々移動できるマジックアイテムとかないのか? あるなら絶対に金貯めて買うんだけど)
残念だが、そんなマジックアイテムは存在しない。
だが……ユウゴの頑張り次第では造れなくもない。
しかし今のユウゴにそんなことを考えている余裕はなく、必死で話が広がりそうな話題を探していた。
「……ウルさんはさ、気になる人とかいないんですか」
「それは恋愛的な意味でか?」
「勿論恋愛的な意味でです」
「ふむ……………」
ウルはユウゴの質問に対し、じっくり考え始めた。
ユウゴは特に急かすことなく、ウルの答えを持つ。
約一分後、ようやくウルの口が開いた。
「昔、そんな感情を持っていた……気がする」
「気がするってことは、本当に結構昔だったってことですか?」
「かなり昔だったというのもあるが、そもそも考えてみれば恋をしていたというより、強い憧れみたいな想いを持っていた……という気がするな」
「…………なるほど、なんとなく解ります」
相手がかなり歳上なので、好きという気持ちは確かにありながらも……それは同年代のガキンチョからは感じられない良さがある。
そこに憧れていた……そうなんだろうと、勝手に納得した。
「ユウゴも同じような体験があるのか」
「えっ? えっと……そう、ですね。あった気がします」
適当に話を合わせたのではなく、実際にリアルガチでそういった体験をしたことがあった。
そして、それは憧れよりも恋愛的な意味で好きという気持ちが強かったのだが……その人物が全く知らない野郎と手を繋いでいるところを見てしまい、呆気なく想いは砕け散った。
(あれは結構堪えたというか……確か、家に帰ってから泣いた?)
もう十年以上も前の話だが、意外と記憶に残っていた。
「その、ウルさんは凄いモテると思うんですけど、やっぱり告白とかされますよね」
「……そうだな。ゼロとは言わない」
謙虚に答えるが、本当はたった数人とかではなく……余裕で五十は超えている。
冒険者になる前の話も含めるが、そこそこの人数に告白されている。
クールな見た目から近寄りがたいと思われ、意外と告白された回数は少ないと思われがちだが……結構がっつりモテモテな美女。
「その中で、この人だったら彼氏にしても良いな~~~って思う人はいなかったんですか」
顔だけの男も近寄ってくるかもしれないが、実力もあるイケメンも多く寄って来る。
そんなユウゴの予想は決して間違ってはいない。
「……私より弱い男とは、あまりそういう気持ちにならないな」
「あっ、なるほど……そういう感じなんですね」
ユウゴは心の中で「そりゃ絶対に無理だろ!!」と、盛大にツッコんだ。
いや、決してその条件を満たす男がゼロという訳ではないが……ウルは先日死にかけたとはいえ、Aランクのモンスターを一人で倒した。
ソロでAランクのモンスターを倒せる男は世の中に多くなく、努力でなんとか出来るレベルではない。
(そこら辺の若干脳筋なんだな……てことは、レンとか絶対に敵わない恋をしてるってことか)
間違ってはない……間違ってはいないが、今ユウゴは物凄い失礼なことを考えてしまった。
本人の目の前で言えば、グーパンチが飛んで来ても百パーセントユウゴが悪い状況。
とはいえ、ウルに異性として認められるには努力だけでは足りないのは事実だった。
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