第43話 だからって納得出来るか

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」


「…………」


ユウゴとレンがぶつかり合った結果……当然ではあるが、勝者はユウゴという状態になった。


まだ実際には決着は着いていないが、どこからどう見てもユウゴの勝ち。


実際に二人の身体能力には大きな差はない。

差はないが、魔力の総量に関しては大きな差がある。


そして身体強化や脚力強化、武器に魔力を纏っていれば……当然、自身の魔力量はどんどん減っていく。


ユウゴはチートスキルを使わずに倒したいと思いながら対応していたため、魔力消費量が多い未来予知などは使わず、自力でレンを攻めた。


ただ、中身を見ると……レンに良い感じの攻撃を入れられたのは数撃程度。

良い一撃を入れても、アドレナリンがドバドバ状態であるレンは直ぐに起き上がり、次のユウゴの攻撃を躱すどころか反撃まで行う。


しかしそんなレンのガッツある対応も限界が近づき……もう魔力は殆ど切れた状態。

そして体力も結構ヤバく……アドレナリンドバドバ状態が切れ、鈍痛が体に響き始めていた。


(なんで、なんで……なんで俺が見下ろされてるんだよ!!!!!)


体の底から根性を絞り出し、膝を付いた状態から見事立ち上がった。

その根性ある行動に観客達は拍手を送るが、目の前の模擬戦でどちらが勝つのかは明白。


(なんか……若干悪役感が出てきてる気がするし、もう終わらせるか)


お互いに全力の状態だと、チートスキルなしでは中々攻めきれないということだけは分かった。


それが解っただけでも収穫。

そしてもう、レンがこれ以上全力で戦えないのが明らかなので、ユウゴはここで身体強化と脚力強化を同時使用。


「ッ!!??」


「もう終わりで良いよな」


グレートウルフが使った手と同じく、最速の脚力で相手の背後に回り込み……剣先を後頭部に突き付けた。


ただ、レンもギリギリ反応はしていた。

反応は出来ていたが……疲労がかなり溜まっているのもあり、ユウゴの動きに体が反応することはなかった。


「そこまで、勝者はユウゴだ」


途中からギャラリーも増え、模擬戦が終わると少し盛り上がり……ギャラリーたちは二人の戦闘内容について話し始めた。


(結構良い感じに腹が凹んだ……いや、かなりがっつり動いたから、ちょっと腹が減ってきたような…………め、飯を食べるのは夕食まで我慢しよう)


今中途半端に食べてしまうと、夕食をしっかり食べられないと思い、今すぐ何かを意に放り込むのは我慢。


夕食時まで何をしようか考えながらギルドから出ていった。


「……クソッ!!!! なんで……なんでなんだよ!!!!!!」


悔しさを抑えきれず、何度も何度も地面を殴りつける。


「レン、それぐらいにしておけ」


友達がこれ以上自身の拳を傷付けるのを放っておけず、ゴウルはレンの拳を止めた。


「ッ!!! …………くそ」


先程までの強気な態度が嘘だったかのように、小さな声が漏れた。


(どう考えても……完敗じゃねぇか)


ユウゴに負けてからの約一か月、レンはずっとユウゴをタイマンで倒すことを意識し続けてきた。


自分でも最初にユウゴと模擬戦を行った時と比べて、少しは強くなれたと感じていた。


だが、それでも結果は完敗。

途中までは良い勝負をしていた……ように思えるかもしれないが、結果としてはスタミナ切れでレンが負けた形。


そしてユウゴの表情から察するに……まだまだ余裕がる様に……今回の模擬戦で使っていない手札がある。

明確な根拠はないが、直感的にそう感じた。


そしてそれは間違っておらず、ユウゴは以前行った模擬戦の時とは違い……全くチートスキルを使わずに戦っていた。


結果としてレンのスタミナ切れを待つ形として決着が着いたが、それでも試合中にオートエイムやサイキック、未来予知を使うことは一切なく……攻撃魔法すら使っていない。


ユウゴが有能なスキルや素早く攻撃魔法を発動出来ることを知っているウルからすれば、かなり手加減して戦った……という印象を持つ。


(俺とあいつの……何がそんなに違うんだ!!!!)


どしようもない思いが胸の中を駆け巡るが……その違いはただ一つ。

ユウゴが娯楽の神であるベスからチートスキルを大量にもらった事。


意外にもユウゴの戦闘センスがそれなりにあるという部分が無きにしも非ずではあるが、大抵の理由はそこ。


そもそもファストラーニングという成長チートスキルがなければ、ユウゴはレンに戦闘技術でボロ負けになっていた。

人種的にもレンが有利なのは変わりないが……大きな差はそこのみ。


そして、残念ながらも……その差は簡単に覆せない部分。


「レン、あんまり気を落とすな。ありゃ完全に化け物の部類……っていうのは失礼だな。傑物ってやつだ。自分と比較するもんじゃない」


ここ最近、レンの特訓に付き合っていた先輩冒険者が近づき、優しい言葉をかけた。

だが……化け物、傑物の部類だからといって、簡単に納得出来る話ではない。


「才能が違うからって、諦めろって言いうのかよ!!!!!」


「…………」


普段は最低限残っている敬語が完全に吹き飛んでいる。

それだけで先輩冒険者はレンがこの戦いにどれだけ想いを賭け、負けて悔しいのかを理解した。


そしてその日の夜、バーでレンが潰れるまで愚痴を聞き続けた。


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