第42話 対人戦なら分はある?
暇していた冒険者や休憩中のギルド職員が集まり、先日の模擬戦時よりは少ないが……それでも観客の数としては中々。
(……また俺かレンが勝つかで賭けてるみたいだな)
ベテランたちからは意外にも勝利を願う声援が飛んでくるが……当然、それはユウゴが負ければ賭けた金が帰ってこないから。
ただ、今回の賭けの比率はユウゴの方がやや上回っている。
ユウゴが冒険者に成ってから短期間で快挙を成し遂げたのは、アリステラに滞在する冒険者であれば周知の事実。
しかし対人戦の経験であれば……レンの方が上ではないかという意見がそこそこある。
確かに先の模擬戦では結局連続で二敗したが、ユウゴの実力を理解していなかった……そして二回戦目に関してはかなり熱くなり過ぎていた。
これらの理由から、もう一度模擬戦を行えば決してレンの勝率は低くはないのでは? というのが観戦しようとしている冒険者たちの考え。
元々休みの日にはよく訓練を取り込んでいるので、同じ冒険者たちからの評価は高い。
(……良い感じに集中してるって感じ……なのか?)
目の前で上手くリラックスし、もう直ぐ始まる模擬戦に深く集中していた。
(周りの声は聞こえてない、のか? ゾーンに入ってるみたいな?)
これはレンに対する警戒レベルを上げた方が良いなと思い、気合を入れなおす。
「それじゃ、悔いないようにやれよ……始め!!!!」
審判を務めるベテラン冒険者の合図と共に、レンはいきなり全力ダッシュでユウゴとの距離を詰める。
脚力強化はまだ使っていないが、それでも身体強化は使用しており……完全にユウゴを強敵と認めたうえでの攻め。
Dランクの中でも種族的にスピード……脚力に優れており、その速さはルーキーの中では一級品と言える。
だが、先日グレートウルフと戦ったユウゴからすると……全然目で追える速さ。
姿を見失い、勘で攻撃を避ける必要がない。
そう考えると凄く楽であり……警戒レベルは下げていないが、これ以上上げる必要はないと思えた。
「ちっ!!!!」
先日の模擬戦時と同じく木製の双剣で攻めるレンに対し、ユウゴは木剣で対応。
手数で言えば双剣を使っているレンの方が有利だが、ユウゴも既に身体強化は使用しており、迫る攻撃を全て躱すか防ぐかで全対応し……未だに無傷。
(前戦った時よりも粗さは……なくなった、か。しっかりと基礎をメインにした攻撃……と思ったら!!! って、流れだな!!!!)
オーソドックスな攻めを続けるのかと思えば、急にセオリーを無視した斬撃を連続で繰り出し、ユウゴの防御を崩しに来る。
(でも、これ……コボルトとか、ウルフ系と同じか)
上下左右関係無く、体勢もセオリーを無視して行われる斬撃に少々驚いたが、よくよく過去の戦闘経験を思い返せば、獣系モンスターの攻撃に似ている。
実戦では直ぐにチートスキルを使って倒すことは少なく、じっくりロングソードや自腹で買った槍や素手で戦っているので、それなりの対処法は心得ている。
「お前、本当に! 人間、か!!!」
「悪いけど、人間では、ある!」
元異世界人ではあり、娯楽の神から大量のチートスキルを貰ったズル人間ではあるが……人間という人種に間違いはない。
寧ろ、ユウゴからすれば獣の耳や尻尾を持つレンやゴウルの方が、本当に人間なのかと尋ねたくなる。
(人種はただの人間だから、特筆すべき能力はないけど……ウルさんもレンも獣人だから、身体能力は高いよな)
レンの攻撃を未だに一撃も食らっていない人間が言っても信用できないかもしれないが、ユウゴは心の底から本当にそう思っている。
「これなら、どうだ!!!!」
「ッ!!! いきなりは、危ないな」
双剣に風の魔力を纏い、切れ味が格段に上がった双剣を向けられ……直接斬ると見せかけて、風の斬撃を飛ばされるかもしれないと思い、ひとまず距離を取る。
そしてレンと同じく、木剣に風の魔力を纏い、対抗しようとした。
「ッ!!?? お前も、出来るのかよ」
「出来るって言っても、まだまだ不格好だけどな」
体や武器に纏う技術に関しては、まだまだ一流とは呼べない。
だが、それが出来るのと出来ないとでは実戦での戦力が大きく変わる。
レンはこの技術をここ数か月で習得。
前の模擬戦ではコントロールの不安定を考慮して使わなかったが、ここ最近……訓練の成果が実り、まだ綺麗な纏い方は出来ないが……それでもコントロールは安定するようになった。
(くそ、くそ、くそ!!!! クソクソクソクソクソォォオオオオオオオッ!!!!!)
コントロールを安定させたことで、ユウゴを上回る一手を手に入れたと思った。
しかしユウゴは既にその技術を一応は習得しており……この差はなんなんだという怒りがこみ上げ……まさに獣の様な形相でユウゴに斬りかかった。
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