第41話 愛しの相手を攫う悪役?
その日は夕食時まで二人で街中をブラブラと歩き回り、その翌日……ユウゴは一人で街中を歩いていた。
(……改めて、俺って異世界に来たんだな)
今まで観たことがなかった建物に、光景……人種。
異世界に来て……元の世界の環境や物が恋しいと思ったことはあるが、それでも中々飽きない世界。
そう思い……無意識の内に口角を上げていた。
「すんすん……美味そうな匂いだな」
食欲をそそる匂いに釣られ、露店の料理を頂き……同じことを数度ほど繰り返し、腹が満腹になった。
「……ちょっと食べ過ぎたか?」
食材の質に関しては元の世界と比べて圧倒的に高く、どれも美味く感じるので……ついつい食べ過ぎてしまった。
(野営だと、あんまり美味しい料理が食べられないって言ってたけど……それを考えると、超便利なアイテムボックスをくれたベス様には感謝しかないな)
自分に超高性能なチートスキルを多数くれた娯楽の神に感謝しながら……ユウゴは冒険者ギルドへと足を運んだ。
食べ過ぎた腹を元に戻すには、体を動かすのが一番。
単純な発想だが、間違ってはいない。
それに……ゲームや漫画の様に暇を潰せる物がないので、最終的に体を動かして暇をつぶすことに行き着く。
(……もう、そんなに珍しくなくなってきたみたいだな)
ユウゴがギルドに入ると、少しだけ視線が集まるが、直ぐに視線を元に戻す。
冒険者たちはここ最近、確かにユウゴの偉業に驚かされることが多かった。
だが、ベテランからすれば偶に現れる運も実力も兼ね備えるスーパールーキー。
同じルーキーたちからすれば、強くて美人な仲間が傍にいて……本人の実力もずば抜けている。
どうせ強くて美人な仲間の力を借りてるのだろう……そう思いたいが、それを羨ましいと……嫉妬してしまうことに変わりない。
もしくは、同じルーキーでも自分たちとは立っているステージが違う人間。
そうとしか思えないルーキーもいる。
自信を無くしそうなルーキーは先輩に相談するが、そんなもんだと……受け入れて自分のペースで前に進むしかないと教えられる。
そんな先輩のアドバイスを受け入れ……あまりユウゴというおかしい存在を気にしないように過ごすようになる。
(何しようか……つっても、木剣か木槍。もしくは双剣の素振りをするしかないか)
最近では訓練の時間にウルから双剣の扱いを教えてもらっており、少し前に双剣技のスキルを習得した。
とりあえず木剣で素振りを行おうと、鉾の中から木剣を取り出そうとすると……朝から訓練場で汗を流していた男が声を掛けてきた。
「よう」
「……おぅ」
その人物は……勿論、この街で唯一ユウゴとの因縁を持つ男、レン。
後ろには同じく朝から訓練していた三人の仲間が立っている。
(これはもしかして……リンチされる? さすがに一対四はな……いや、そもそも戦わずに逃げれば良いだけか)
リンチをしようとしてくる奴らを、まともに相手する必要はない。
なんてことを考えていたユウゴだが、レンたちはそんなつもりで声を掛けた訳ではなかった。
「お前……もう直ぐこの街を出るんだったな」
「あぁ、ウルさんと相談してそうなった……それで、それがどうしたんだ」
自分とウルが決めた話。
レンたちには関係無い……と思ったユウゴだが、直ぐにレンには関係あるのだと思い出した。
(うわぁ……殺気はないけど、敵意? をビンビンに発してるよ。まぁ、こいつからすれば、俺は惚れた憧れの人を連れ去る卑怯な奴? ってイメージなんだろうな)
同じルーキーとはなるべく仲良くなりたいと思っているが、どう考えても目の前のレンとは仲良くなれない。
ユウゴがレンのことを嫌っているのではなく、レンが一方的にユウゴを敵視しているので、仲良くなることは不可能。
「ッ……クソが」
「なんだよ、ったく……俺、素振りしたいんだけど、もう良いか」
「……よくねぇ。俺と戦え」
「戦えって、お前……」
ユウゴにとって、レンとの戦いはあまり得られるものがないと思っている。
だが、それよりも前に……レンの汗の量と疲労度が気になった。
(いや、いくらなんでも汗流し過ぎだろ)
ユウゴのコンディションも万全ではないので、一先ず模擬戦を受ける代わりに休めと伝えた。
「ふざけるな。俺は今からでもやれる」
「あぁ、そうかよ。でも、俺はさっきまで露店で飯を食ってたから腹がタプタプなんだよ。だから少し動いてから相手になる。だから、それはまでは好きなように過ごしてろ」
いきなり申し込んだ模擬戦を受けてもらった事もあり、レンはそれ以上強くは言えず……ユウゴの言う通り、水分を取って少し休息を取った。
(多分、この先どこかで俺と会っても、あの態度が変わることは一生なさそうだな)
喧嘩腰でないと話せない相手。
レンにとってその対象が自分なのだと思い、もうその態度は諦めるしかないと決めた。
そして約十分後……この街で二人が行う最後の模擬戦が始まる。
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