第39話 未だ消えない悔しさ

「こちらは……ウルさんが倒したのでしょうか」


「いや、これはユウゴが一人で倒した」


「えっ!!??」


二人はアリステラに戻ると冒険者ギルドに直行。

依頼完了の手続きを終わらせ、次は素材の買取。


そこでユウゴはグレートウルフの毛皮や内臓、血を取り出した。


ユウゴにとって日本で生活していた頃は考えられなかったが、この世界では狼の肉は普通に食べられているので、保管

牙や爪に魔石は武器の素材に使えるので保管。


そして受付嬢は毛皮を調べた結果……グレートウルフのものだと解り、少しドキドキしながらも倒した者がウルだと思っていた。


だが、声を掛けられたウルが討伐者はユウゴだと答え、素で驚きの声尾が出てしまった。


「あの、それは……本当ですか」


「勿論だ。嘘ではない。見事にユウゴが一人で倒した」


ウルが嘘を付いているとは思えない……思えないが、それでも異例の快挙であるため……受付嬢はそっとユウゴの方に顔を向けた。


「まぁ、一応俺一人で倒せました。運が良かっただけってのもあると思いますけど」


謙虚に答えるユウゴだが、相手がCランクともなれば……運が良かっただけで倒せる訳がない。


それは受付嬢と……ベテランの冒険者であれば、直ぐに解る。

ルーキーの中には「なんだよ、やっぱり運が良いだけじゃねぇか」なんて思っている者もいる。


ただ、ユウゴがグレートウルフを倒せたのは紛れもなく……運だけではない。

短期間ではあるものの、実戦を重ね……休みの日にはウルと訓練をし続けた成果。


チートスキルを使ったが、それもユウゴの立派な武器。

最後の一閃に関してはウルも賛辞を贈るものだった。


「そ、そうでしたか……そ、それでは査定を行いますね」


まさかの成果にほんの少し思考が停止した受付嬢だが、直ぐに我に返って仕事を行う。

モンスターのランクが上がれば、それだけ需要が……価値が高くなる。


という訳で、本日もガッポリ稼いだ。

ただ、倒した割合はユウゴが多いので、素材の買取金額は多めにユウゴが貰う。


(……いや、頑張って倒したから……命懸けで倒したから当たり前の報酬かもしれないけど、凄いな)


一応バイト経験があるユウゴは、お金を稼ぐのがどれだけ大変なのか……身に染みて知っている。


バイトなので一日に稼げた額が最高一万円。

学生にしては充分な額だが……本日は日本円にして数十万円ほど稼いでしまった。


(こんな大金を一度にって考えると……恐ろしいな)


大量の金貨を手にして恐ろしいと感じたが、それでも金銭感覚が狂いそうになる……とは思わなかった。


毎日宿に泊まり、基本的に朝と夜は外食。

冒険者と活動するうえで、砥石や新しい武器などを買う機会は多い。


他にもポーション増強剤など、万が一を考えて買わなければいけない物が多く……一日で大金を稼いだとしても、あっさりと消えてしまうのは珍しくない。


(つか……ほんと、あいつだけは毎日視線を向けてくるというか……殺す気か? って思ってしまうな)



ユウゴがアリステラに来てから初日にぶっ倒した狼人族の青年、レン。


ユウゴとの勝負に二度も敗北してから約一か月……レンもユウゴと同じ様にモンスター

を狩り、休日には訓練場にいる先輩冒険者に頼み込み、訓練を付けてもらう。


そんな日々を繰り返し、幅は大きくないが……それでも確実に成長していた。


だが、そんな今の自分がソロでCランクのモンスターを倒せるか?

一口にCランクモンスターと言っても、強さには当然幅がある。


しかし、Dランクのモンスターより強いのは間違いない。

今のところDランクのオークでさえ、同じ前衛の熊人族のゴウルと一緒に戦えば……そこまで無理をせずに戦えるといった状況。


これはレンが弱いのではなく……動きを止めずとも魔法陣を展開して攻撃魔法を放ち、相手の動きを止められるユウゴがチート過ぎるだけ。

レンは決して弱くはない。


Dランクのモンスターも熱くなり過ぎず、冷静さを保つことができれば絶対に勝てない相手ではない。


ただ……Cランクのモンスターが相手となると、どう頑張っても……奇跡中の奇跡が起きなければ勝てない。

仮にそんな奇跡が起きたとしても、レンが勝負に勝って生きている保証はない。


「……くそが」


唇から血が出るほど歯を食いしばり、皮膚が傷付いてしまうほど拳を握る力が強くなる。


「れ、レン。血が!」


「えっ、あぁ……これくらい大丈夫だ」


「だ、大丈夫って」


「本当に大丈夫だから、気にすんな」


気にすんな……そう言われて、はいそうですかと納得できる訳がない程に……同じパーティーメンバーのゴウルや猫人族のリラから見ても頑張り過ぎているように感じた。


このまま突っ走り過ぎて、いつか大きな怪我に繋がるのではないか……今のレンからはそんな不安を感じてしまう。


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