第38話 疲れてるからこその一閃
勝ちを確信した時、経験が浅い者ほど表情に出る。
それが解っている経験豊富なウルは……少しユウゴの行動を不安に思った。
思ったが……ユウゴが普通の人は手に入れることが出来ない強力なスキルを複数有している事を知っている為、今ここで手助けは必要ないと判断。
だが、何が起こっても大丈夫なように、一瞬で武器を抜けるように手を掛けていた。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「……」
時間にすれば五分も経っていないが、それでも疲労度はここ最近で一番。
しかしそれはユウゴだけではなく、グレートウルフも同じ感想だった。
後ろの女だけではなく、目の前の男も十分自分の命に届きうる力を持っている。
それを感じ取ったからこそ……今までで最高のダッシュで、最速のスピードでユウゴの背後に回り込んだ。
速さはこの戦いの中でベスト。
だが……攻撃パターンは何度も見せた動きであり、ユウゴはそれを読んでいた。
つまり、このタイミングで殺される可能性は十二分にある。
あまり決定打といえる攻撃をまだ持っていないユウゴだが、それでも今のグレートウルフであれば……決定打ではなくとも、良い一撃が入れば倒せる。
ただ……このタイミングでグレートウルフは気付いたのか、それとも野生の勘がこのまま攻撃したらヤバいと判断したのか……背後に回り、ユウゴがこちらを向いた瞬間にもう一度背後に回ろうと決めていた。
つまり、ユウゴが攻撃を読んだと思い込んで後ろを振り向いた瞬間……そこにグレートウルフはおらず、背後から爪撃を決められてしまう。
「ッ!!??」
「はっ!!!!!!」
だが……もう一度背後に回ろうと思った瞬間、グレートウルフは背後に回り込むことが出来なかった。
何が起こったのか……意識が薄れゆく中……理解は出来た。
理解は出来たが、それでも首を斬り飛ばされては……もう巻き返すことは不可能。
(やっぱり、見えてなくとも場所が解ればいけれるな)
ユウゴはグレートウルフが目の前で動こうとしたタイミングで魔眼の未来予知を使用。
その後……どう動くはさておき、自身の背後に回ってくることは分った。
であれば、自身の後方を狙ってサイキックを発動。
Cランクのグレートウルフであれば、身体強化と脚力強化も使っているので簡単に抜け出すことが可能。
しかしそれでも、抜け出すための一瞬が必要になる。
距離的にはその一瞬があれば十分であり、ユウゴは寸分狂わずに疾風を振るった。
刃には風の魔力を纏い、見事な一閃で切断。
思わずウルも拍手を送るほどの斬撃だった。
まさに疲れで体力が失われている時に放つことが出来る、無駄のない……極限の一閃。
まさか自分が斬られるとは思っていなかったグレートウルフには、十分過ぎる攻撃だった。
「はぁ、はぁ、はぁーーーーーーー……勝ったん、ですよね」
「あぁ、勿論だ。ユウゴ、君の勝ちだ」
グレートウルフは再生のスキルなどは持っておらず、首を切断されてから回復する術を持っていない。
多くの切り傷を負いながらも、ユウゴは見事……格上の相手に勝利を収めた。
だが、魔法攻撃とオートエイム、サイキックの多用。
そして未来予知を使用したこともあり、それなりに魔力を使用してしまい……かなり疲労感が溜まっていた。
そこでとりあえずグレートウルフの死体はアイテムボックスの中に入れ、マジックポーションなどを飲んで回復。
少し休憩した後に、グレートウルフの解体を始めた。
ウルはユウゴに変わって解体を行おうと提案したが、今他のモンスターと戦って制圧できる自信がないユウゴは見張りをウルに頼んだ。
(いや、本当に今は無理そうだな~~~)
解体ぐらいであれば、集中すればなんとか出来る。
だが、魔力を回復させたとはいえ……今、仮にグレートウルフの様なモンスターに襲われたら、倒せる自信は一ミリも無い。
(燃え尽き症候群ではないけど、ちょっと何も出来ないって感覚だな)
ウルに甘える訳にはいかないので解体は全力で行うが、見張りに関しては完全に任せている。
モンスターの血は……意外と他のモンスターを引き寄せる。
人間ほどではないが、モンスターにも楽に食料が手に入るに越したことはないという考えはある。
故に、冒険者がモンスターの死体を解体している最中に、他のモンスターが襲って来て解体する量が増える……なんてことは珍しくない。
「ふぅーーーー、終わりました」
「お疲れ……うん、解体の腕はかなり上達してきているな」
「本当ですか?」
「あぁ、本当だ」
上達は自分では中々気づかないもの……だが、ファストラーニングに加えて短期間の中で実戦する機会が多い。
ウルという確かな指導者がいることもあり、解体の腕はメキメキと上がっていた。
(無理かもしれないけど、今日はもう戦いたくないな)
そんなユウゴの想いが通じたのか、街に帰るまでモンスターと遭遇することはなく、無事にアリステラに帰ることができた。
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