第37話 塵も積もればなんとやら
(こいつは……初めて武器を持って、コボルトと対峙した時の感覚……いや、それ以上の恐ろしさだな)
ユウゴは目の前のグレートウルフに対し、明確な恐怖を感じた。
恐怖ゆえに、直ぐに自ら動く気にはなれなかった。
高さはオークより下だが、体長はオークより大きい。
今までウルフ系のモンスターとの戦闘経験がゼロではないが……そんな今までの経験が無意味だと思えるぐらい、グレートウルフの大きさはユウゴに威圧感を与えていた。
(今、この場面だろうな)
ユウゴはウルに言われるまでもなく、先日プレゼントとして貰った疾風を抜いた。
(良い判断だ)
ウルはユウゴに賛辞を送った。
確かにユウゴのチートスキルを考えれば、疾風を使わずともいけるかもしれない。
成功率は決して低くはない。
だが、疾風を使わずに倒そうとした場合の失敗率も、低くはない。
それらを考えれば、直ぐに疾風を抜いたのは良い判断だと言える。
「…………ッ!!!!」
グレートウルフは目の前の男よりも、奥の狼人族の女の方が危険だと察知していた。
ユウゴのチートスキルが脅威であることに間違いはないが、総合的な実力を考えると……まだまだウルの方が脅威度は高い。
だが、目の前の男も決して油断出来るほど弱くない。
冷静な判断を下したグレートウルフは……一先ず様子見として、爪撃による斬撃刃を放った。
「危なっ!!!」
防ぐのはアウト、躱すのがベストだと判断。
横に跳び、斬撃刃を食らうことはなく……掠りもしなかった。
(視といて良かった)
見た目から分かってはいたが、鑑定を使って調べ……爪撃のスキルを有していることは分っていた。
「ッ!!??」
「ちっ、簡単に引っ掛からないか」
自身が避けた先にグレートウルフが飛び込んでくると読み、風矢と雷矢の魔法陣を予め展開。
読み通りに飛び込もうとしてきたグレートウルフだが、驚異的な反応速度であっさりと回避。
お互いに今のところノーダメージだが、両者とも敵への警戒心を更に引き上げる。
(疾風ならグレートウルフの毛皮もスパッと斬れそうだけど、グレーグリズリーみたいに一斬りじゃ倒せないだろうな)
首を切断することが出来れば速攻で勝負は終るが、グレートウルフも自分の急所がどこなのかぐらいは解っている。
(待ってても仕方ないし……自分から攻めるしかないか)
ユウゴは相手がCランクのモンスターだと分かりながらも、果敢に攻め始めた。
だが、先程戦ったグレーグリズリーの様に一方的に攻め続けることは出来ない。
まずスピードがグレーグリズリーと比べて断然速く、一度攻めても直ぐに防御に徹しなければならない展開に変わる。
今のところグレートウルフとガチで殺り合い、ユウゴは奇跡的に大きなダメージを食らっていない。
小さな切り傷などはあるが、グレートウルフの爪には毒などはないので、傷が悪化することはない。
だが、速さが速さなのでポーションを飲んで傷を癒す暇はない。
(ちっ!! 本当に体力が削られるというか、精神が削られるというか……本当にしんどい相手だな!!!)
今まで戦ってきたモンスターの中で、どのモンスターよりも速い。
偶に見失いそうになる時もあるが、そこは根性でなんとか食らいつく。
(ダメージは与えてると思うけど……全然致命傷って感じじゃない、な!!)
激しい接近戦を行いながらも、魔法陣を展開し……更にはオートエイムを追加して確実にダメージを与えている。
ボールやアロー程度の攻撃であれば、無視しても構わない……最初はそう感じていたグレートウルフだが、塵も積もれば山となる。
ユウゴのオートエイムは狙った箇所を正確に何度も射貫く。
グレートウルフの毛皮が堅くとも、何度も同じ個所を叩かれれば、いずれは穴が空く。
その危機を察し、直ぐに自身に迫る魔法を撃墜。
だが、その撃墜する時間がユウゴに攻める時間を与える。
(なるほど、こんな感じの流れで攻めれば良いのか)
少しずつではあるが、グレートウルフに連続で確実にダメージを与えられる戦法を覚え、直ぐに連続で使用。
グレートウルフもユウゴが戦法を確立させてきたことには気づいたが……それが分かったからといって、そう簡単に対処は出来ない。
「……グルルゥアアア!!!!」
このままでは不味いと思ったグレートウルフは身体強化に脚力強化を重ねた。
「ッ!!!」
背後から濃密な殺気を感じたユウゴは咄嗟に前方へ大ジャンプ。
その勘は見事に的中し、後方にグレートウルフが回り込んでいた。
(……まだ、問題無いか)
グレートウルフがユウゴの後方に回り込んだ瞬間、ウルは風葬に手を掛けていたが……もう敵の速さがやや追いつけない速度に達したのを感じ取ったユウゴはサイキックなどのチートスキルを解禁。
「おらっ!!!!」
「ッ!!??」
サイキックで一瞬だけ動きを止め、魔法攻撃と疾風を使った斬撃攻撃。
(そういう、感じか!!!)
数度の攻防で速さを活かして敵の背後を狙う、それがグレートウルフのセオリー攻撃なのだと理解。
となれば、グレートウルフが視界から消えた瞬間、前方に跳べば少なくとも致命傷を受けることはない。
その流れが解り……ユウゴは勝ちを確信し、無意識に口端を吊り上げていた。
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