第36話 使うのを躊躇わない

ユウゴがウルと一緒にパーティーを組んでから一か月後……ようやく冒険者らしい雰囲気が身に付いてきた。


相変わらず同じルーキーには厳しい目を向けられているが、変に絡まれることはない。


依頼の細かい説明をする時や、素材を買取所で売る際にユウゴがどのモンスターを倒したかを説明するので、日に日にユウゴが強くなっているが広まる。


ルーキーの中にはウルの力を借りて倒していると思っている者もいるが、ある程度鑑定などのスキルを使わずとも相手の実力が解るベテランからすれば、ユウゴの実力が本物だと見抜ける。


「ユウゴ、そろそろ別の街に行くか?」


「……急ですね」


冒険を終えた夕食時に、そんな提案をされた。

突然の提案に、直ぐに答えることは出来ない。


「ユウゴの実力を考えれば、この辺りで戦うモンスターは少し物足りないと感じ始めているんじゃないかと思ってな」


「それは…………どうでしょう」


謙虚に答えたが、実際のところ……ユウゴの実力は確かに上がっており、技術力も向上している。


Dランクのモンスターが複数相手でも、上手く立ち回れるようになった。


アリステラの周辺では最高でもCランクのモンスターが、遭遇するモンスターの中で一番強い。

ウルが倒したヴァイスタイガーは例外だが、基本的にCランク以上のモンスターが出現することはない。


「ふっ、謙虚だな。だが、最近ユウゴの戦いぶりを見ていると、余裕が生まれているのは間違いない」


「まぁ、確かに余裕を持って倒せるようになった気はします」


チートスキルを使わずとも、技術力が上がったことで戦力は上昇。


ウルの見立てでは、Cランクのモンスターでもチートスキルを使えば、倒すのは難しくないと思っている。


(敵のレベルにもよるが、不可能ではない……いや、寧ろ高確率で倒せるだろう……万が一のことを考えると、一人にはさせられないが)


冒険者としての技量が上がってきているとはいえ、まだまだ周囲への警戒などに関しては隙がある。


(ずっと同じ街に居たいとは思わないし……そろそろって感じか)


ユウゴとしても不満はなかったので、数日後に別の街に出発することが決定した。


「さぁ、今日も行くぞ」


「はい!」


とはいえ、残り数日をダラダラと過ごすつもりはなく、二人はいつも通り冒険者ギルドで依頼を受け、森の中へと入った。


ウルが旅の準備についてはバッチリであり、ユウゴも一か月の間に必要な物は自腹で購入済みなので、後から焦ることはない。


食料に関してもユウゴのアイテムボックスのお陰で、肉や果物に関しては既に一か月分が……二人で食べることを考えると、一か月分以上の食料が入っている。


「よっ、ほっ!!」


四体のホーンラビットが同時に襲い掛かってくるが、攻撃を上手く回避し……挟まれることなく脳天に拳や脚を下ろして撃墜。


ホーンラビットも食料として優秀なので、きっちり解体してアイテムボックスの中に放り込む。


「ガァァアアアアアッ!!!!」


「せいっ!!!」


自慢の両腕を振り回しながら攻撃するDランク、レベル十六のグレーグリズリーに対し、ユウゴは身体強化のスキルを使いながら攻撃を避け、空いた隙を狙ってロングソードで一閃。


(もっと斬らないとな)


グレーグリズリーの毛皮もやわではないので、さすがに一斬りだけでは終わらず、何度も斬ることになったが……今回の戦いも無傷で切り抜けることが出来た。


「お見事。良い戦いだった」


「ありがとうございます。でも……こいつぐらいの相手が複数現れると、普通に戦ったら勝てないかもしれません」


早速解体を始めながら冷静に自分の実力と相手の実力を分析。


現時点での身体能力と技術力を考えると……ユウゴの分析は間違ってはいない。


「そうなった時は、迷わず有能なスキル……それと、疾風を使えば良い。使うか否かを迷って死ぬよりはよっぽど良い。奥の手は普段から使わないからこそ奥の手だが、いざという時に使わなければ無駄死にしてしまうだけだ」


アホ、バカ、間抜け……そう思われても仕方ないかもしれないが、世の中には奥の手を残して死んでしまう者がいる。


人によって奥の手とは様々だが、自身の魔力や体力を使う場合……大きく消耗してしまうパターンが多い。


道具を使うにしても、そが使い捨ての場合もある。

冒険者とは、常に最悪の状況を想像して行動する。


つまり……目の前の危険をクリアしたとしても、また直ぐに別の危機が迫るのではないか……そう考えてしまう。


勿論、全員が全員最後まで奥手を残して死にはしないが……それを発動するタイミングを逃し、殺されてしまう例があるのは事実。


(なるほど。無駄死にだけは確かに避けたいな)


ユウゴに危機が迫れば、仲間であるウルは当然反応する。

だが、仲間におんぶ抱っこはユウゴの求めるスタイルではない。


そしてグレーグリズリーの解体を終えてから数時間後……直ぐに奥の手を隠していられない相手と遭遇した。


「ユウゴ、どうする。私は前に出ようか」


「……いや、俺が前に出ます」


現れたモンスターは……グレートウルフ。

大型狼タイプのCランクモンスター。


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