第33話 集中しているからこその汗

朝食を食べ終えた後、二人は予定通りギルドの訓練場へと向かった。


(……ギルドの中じゃなくても、ちょいちょい視線を感じるな)


冒険者ギルドの中に入れば、否が応でも同じ冒険者たちから様々な目線を……感情を向けられる。


しかし、見た目が良く……若いのに強い。

そんな冒険者でなくとも興味を惹かれるような人物とパーティーを組んだユウゴに、街ですれ違う人たちはどんな人物なのかと気になり、チラッと目線を向ける。


だが……全ての人たちが何故、ユウゴの様な男がウルとパーティーを組めたのか……その理由が全く分からなかった。


「さて、まずは体を軽く動かそうか」


冒険者ギルドに到着し、訓練場に入ってからも視線を向けられる状況は変わらないが……既に気にしても意味がないと解っているユウゴはウルの言葉に頷き、準備運動を行う。


しっかりと体をほぐしていなければ、どこかでうっかりやらかしてしまう。


準備運動をしっかり行っていたとしても、大怪我をしてしまう可能性がある……というのは過去の経験から知っているので、その辺は抜かりなく行う。


「よし、それでは……まずは素振りから行うか」


「はい!!!」


気合が入った返事をし、訓練場に置かれている木剣を握り……ダリスの教えを思い出しながら振るう。


(ふむ……やはり、もう隙という隙はない……な)


応用に活かせるほどの腕がある訳ではないが、基本の型は殆ど乱れることはない。


勿論、モンスターは人間と違うので、素振りが完全に実戦に活かされるとは限らないが……体に染み込ませた動きは咄嗟に表に出る。


戦いに慣れていけば、訓練中に行っている動きを実戦で上手い具合に使えるようになる。


「はぁ、はぁ、はぁ……よし」


一通り木剣を振るう中、ウルからのアドバイスが数回と……新しい型を教えてもらい、木剣の訓練は一旦終了。


次は木槍の素振りに移る。


(……私もやっておくか)


ウルのメイン武器は双剣と刀。

槍は普段から使うことがなく、経験は少し触った程度。


今後実戦で使う可能性は高くないが、使えるようになっておいて損はないと思い、ユウゴと一緒に木槍を振るう。


(まだ実戦では一度も使うところを見ていないが……人並み以上は扱えるだろうな)


専門外の武器ではあるが、負けてられないという思いが燃え上がり、木槍を握る力が強くなる。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…………」


「お疲れ。ほら、水だ」


「あ、ありがとうございます」


木剣と差別することなく、木槍の素振りも真剣に行った結果……ユウゴは既に汗だく状態。

地面に腰を下ろし、ウルから貰った水を一気に飲み干した。


「ウルさんは……全然平気そうですね」


「ふふ、これでもユウゴよりは冒険者歴が長い。当然、スタミナの量もユウゴより多いさ」


「そ、それもそうです、ね」


ウルの言葉は至極当然の内容。


だが、ウルとしてはユウゴが他の新人よりも集中して訓練に取り込んだ結果、素振りの時点で超汗だくになっている様に感じた。


(有能なスキルを多く持っていても、訓練に対する集中力は高い……私もうかうかしていられないな)


実戦的な実力でいえば、まだまだウルの方が断然高い。

しかし、ユウゴの訓練に対する集中力は尊敬に値する。


ユウゴが熱中症にならないように少し休憩を取っている中、ウルは目の前に敵がいると想定し……シャドーを始めた。


「……当たり前だけど、俺より超速いよな」


体は既に暖まっているので、遠慮なしに……ちょっと熱くなり過ぎない程度の速さで動く。


本気の速さではないが……それでもユウゴから見て、目で追うのがやっとだと感じた。


(レベルってのは凄いな)


この世界ではレベルによる身体能力の向上だけではなく、スキルやマジックアイテムによる身体能力の向上も存在する為、ウルが全てもフル活用して動けば……ユウゴは全く目で追うことが出来なくなる。


(もっと頑張らないとな)


呼吸を整え、腰を上げて今度は実戦を想定した動きを何度も繰り返す。


そしてウルのシャドーが終わるころには……また超汗だく、息切れ状態。

今度は二人そろって休憩を取るが……今になって、ユウゴはようやく同じ訓練場にレンと、そのパーティーメンバーがいることに気付いた。


(げっ……頼むから、そんなバチバチな目を向けないでくれよ。若干殺気が漏れてる気がするし)


ユウゴはバトルジャンキーではないので、そういった類の視線を向けられて闘争心が

燃え上がることはない。


だが、自分が行ったことを考えれば……そんな視線を向けられるのも仕方ないと思ってしまう。


「ん? レンたちか。確か昨日は依頼を受けていた筈だが……休日に訓練を行うとは、感心だな」


「そうですね」


会話の内容としてはレンたちを褒めているのだが……獣人族の耳でも会話が拾えない距離にいる為、レンからすれば二人がイチャついているようにしか思えず、嫉妬の炎を滾らせるてしまった。


「そろそろ模擬戦を行おうか」


「はい。よろしくお願いします」


鬱陶しいが、気にしては訓練に集中できない。

気合を入れなおし、ウルとの模擬戦に臨む。


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