第32話 下手に絡む前に

冒険から戻ってきた二人はそのままギルドに直行。


そして討伐証明のダッシュボアの牙を見せ、オークの肉一体分を提出。


「はい、確認させていただきました。因みに、どういった感じで戦われましたか?」


「私がダッシュボアを一体。ユウゴがダッシュボア一体とオーク一体だ」


冒険者ギルドとしては、なるべく冒険者たちの戦力を把握しておきたい。

そういった意味があり、受付嬢は誰がどのモンスターを倒したのか尋ねた。


「な、なるほど。ありがとうございます」


冒険者登録したばかりの者が、Dランクのモンスターを二体倒した。

それは、それなりに衝撃的な内容。


だが、受付嬢は先日……ユウゴがタイマンで期待のルーキーであるDランクのレンを倒したという情報を知っているので、ウルの言葉を疑いはしなかった。


「チッ!!!」


「本当かよ……」


ルーキーの中にはユウゴが本当にダッシュボアとオークを一人で倒したのか疑う者もいたが……全員、それを疑うということはウルの言葉を疑っているということに気付いていなかった。


だが、そんなユウゴの実力を認められないルーキーたちと違い、ベテラン組はユウゴならそれぐらいはやれるだろうと思っていた。


ただ……ユウゴがアイテムボックスの中から取り出した買取を頼む量には、さすがにベテラン組も驚かされた。


「これ、買取お願いします」


「……ぜ、全部ユウゴさんが、倒したんですか?」


「いえいえ、さすがにそれは無理ですよ」


今回の冒険ではCランクのモンスターには全く出会わなかったので、倒そうと思えばユウゴが全て倒せなくもなかった。


「大体半々ぐらいですね」


何てことはないといった顔で答えるが、カウンターの上に出された量を考えれば、半分でもそれなりに凄い。


「ポイズンスパイダーに関しては、ユウゴ一人で倒したぞ」


「「「「ッ!!!???」」」」


今回もギルドにユウゴの実力を伝える為にウルは事実を報告した。


だが、それはルーキーたちにとって無視できる言葉ではなかった。


ポイズンスパイダーがこの辺りでは新人殺しと呼ばれていることは、当然ルーキーたちも知っている。

よほど実力に自信がなければ、撤退するべきと先輩たちから教えられている。


そんな一つの超えるべき壁を……先日冒険者に成ったばかりのド素人が乗り越えた。

その事実は、そう簡単に認められなかった。


「まぁ、なんとか倒せたって感じですけどね」


「そ、そうなんですね。いや、でもポイズンスパイダーをソロで狩れることは充分に凄いですよ」


ユウゴの戦績を心の底から褒めながらも、素材の状態を確認しながら査定を進める受付嬢。


(……ちっ。そろそろ爆発しそうだな。ったく、昨日レンがあっさりと負けたのを忘れたのかよ)


一人のベテラン冒険者がルーキーたちの表情を見て、嘆息しながらも口を開いた。


「いや~~~、流石はレンに圧勝したやつはちげぇな」


「……はは、確かにその通りだな」


「そうね。状態異常攻撃を持つポイズンスパイダーに勝てるなんて、本当に将来有望じゃない」


「いきなりEランクからのスタートだからな……やっぱり頭一つか二つ抜けてるな」


男の周りのベテラン達は何かを察し、同意するかのようにレンの実力を褒め始めた。


言葉の真意は……お前たちとは実力が違うから、絡んで喧嘩売っても無駄。

だから、潔く大人しくしてろ。


ルーキーたちの記憶には自分たちの世代でトップクラスの強さを持つレンが倒された記憶に残っており、血が頭に登り過ぎていた者たちはそこで一旦冷静になった。


「こちらが買取金額になります」


「有難うございます」


受付嬢から渡された金額を丁度半分にし、懐に入れて……とりあえず、今日の仕事は終わり。


「ユウゴ、酒は飲める方か」


「……多分飲める方だと思います」


大学生の頃に二十歳を迎え、友達内の中では一番強かった。

だが、異世界に来て体が一新された感があるため、少し不安だったが……全く心配はいらなかった。


寧ろ、徐々にウルと飲み比べをする流れになり……最終的にはそれなりに呑めるウルを負かす結果となった。


「ありゃ……ウルさん、完全に潰れたか」


これは仕方ないと思い、ささっと部屋に運んでベッドに置き、ユウゴもさすがに飲み過ぎたので……倒れるようにベッドに転がり、眠りについた。


そして翌日……早起きなウルが若干二日酔い状態となり、奇跡的にユウゴの方が先に起きることになった。


「ふぅ~~~~……すまない。先日は少し呑み過ぎた」


「途中から呑み比べみたいになりましたからね」


時刻は既に十時を過ぎている。


まだ若干のボケているウルはアイテムバックから一つの丸薬を取り出し、口に放り込んだ。


「うっ……ふぅーーーー。やはりこれは効くな」


「えっと……眠気覚まし的なものですか?」


一発キメたような雰囲気を出すウルだが、口に入れた丸薬は決して違法的な物ではない。


「いや、その効果も含まれて入るが、二日酔い治しがメインの丸薬……さて、目が覚めたし……朝食を食べたら、今日は訓練場で訓練でもしようか」


「良いですね。よろしくお願いします」


先日、それなりに戦い……夜にはかなり酒を呑んだが、ユウゴは二日酔いにはなっておらず、特に休日でも何かやりたい事がある訳でもないので、ウルの提案を受けた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る