第30話 ここでも遺憾なく発揮

「ふむ、これはこれは……ちょっど面倒な相手だ」


「見るからにそんな気がします」


二人の目の前に現れたモンスターはポイズンスパイダー。

ランクDのモンスターであり、毒を操る毒蜘蛛。


当然、糸も操るのでその辺りも厄介なモンスターではあるが、冒険者からすれば相手を状態異常にする攻撃を行う。

この要素を持つモンスターは基本的に厄介な相手認定される。


ポイズンスパイダーはランクがそこまで高くはないが、毒の攻撃を行えるので……一部の冒険者からは新人殺しと呼ばれている。


人型や四つ足のモンスターからは大きく体型が外れており、そこら辺もルーキーを少し抜けたあたりの冒険者たちを苦しめる要素となっている。


(蜘蛛って日本……地球にいた時はサイズが小さいからあんまり思わなかったけど、ポイズンスパイダーみたいに巨体だと、普通に気持ち悪いな)


総体的な体の大きさはオークよりも大きく、今のところ二人に攻撃は仕掛けてこないが、じっくり……ねっとりとした獲物を狩る目を二人に向けている。


昆虫なので表情に変化など無いが、少なくともユウゴは向けられる目が気持ち悪く感じた。

だが、こういった自分が今まで戦ったことがない相手が、成長する種となる。

真面目寄りのユウゴはここでも一歩前に出た。


「俺がやります」


「大丈夫か? オークと同じDランクではあるが、オークよりも断然厄介だ」


「…………危なくなったら、援護お願いします」


「ふふ、素直で良い答えだ」


少し自尊心やプライドが高い者であれば、ここで保護者からの援護を頼まないことが多い。

ただ、ユウゴは自分がチートスキルを持っていても、戦いに関してはまだまだ素人だと自覚している。

なにより……うっかり調子に乗って、折角のセカンドライフをあっさり終了させたくない。


「…………」


「…………」


ユウゴがじりじりとポイズンスパイダーとの距離を詰めていく中、当たり前だがポイズンスパイダーは全く動揺せずに淡々と機会を待ち……ユウゴが射程に入った瞬間、毒液が付いた拡散タイプの糸を吐いた。


「それは嫌だな!!」


ユウゴは惜しむことなくサイキックで毒液付きの糸をがっちり止め、直ぐにサイキックを解く。


放出された糸事態に速さはあっても、力はない。

空中で一瞬だけとはいえ、がっつり動きを止めてしまえば後は地面に落ちる。


「ウィンドアロー」


そしてお得意になりつつある風矢を十以上、一気に発射。

放たれた矢には勿論、オートエイムの効果が付いているので、ユウゴが思い描いた射線通りに飛んでいく。


だが、オークと比べて反応が良いポイズンスパイダーは半分程はきっちり躱した。

それでも、もう半分は狙い通りではないが……それでもぶっ刺さりはした。


「ちょこちょこと動くな……ふぅーーー。イライラしたら駄目だ」


先程戦ったオークの様にイライラしては、勝てる戦いも勝てなくなる。

そう自分に言い聞かせるユウゴ。


だが、ポイズンスパイダーの地面や木々を問題無く独特な足の動きで移動するため、牽制がてらに放った魔力の弾は殆ど躱されてしまう。


(スピードが足りないってのもあると思うが……いや、この段階で使うのは良くないな)


オートエイムにはまだ使っていない効果があるが、それを使ってしまうと自分の為にならないと判断。


遠距離からボチボチ撃ってもあまりダメージが入らないと判断したユウゴは気合を入れなおし、接近戦を仕掛ける。


ポイズンスパイダーは吐く糸だけではなく、脚にも毒液を纏えるため、毒の警戒は続けなければならない。


「ぐっ!!!」


そして、ポイズンスパイダーの脚による攻撃はユウゴが思っている以上に強い。


「ユウゴ! 前足二本を使った攻撃には気を付けろ!!」


「はい!!!」


基本的には八本ある脚の内、前方の二つを使って攻撃を行う。

ただ、それでも一本ずつ使って攻撃してくることが殆どだが……勝負を決めに来る時は、二つの脚をクロスさせるように攻撃を行う。


冒険者たちはこの攻撃をポイズンクロスと呼んでおり、爪技のスキルを持っているため、脚だが爪扱いの攻撃には少し威力が増加される。


当然、食らえば毒が体内を侵す。

致死性の毒ではないが、食らえば身体能力に影響が及ぶ。


(確かに見た目で侮ったら、この攻撃力はヤバい! でも……位置取りを身すらなければ、爪による攻撃は、解りやすい、か?)


まだ完全に断言は出来ないが、それでもポイズンスパイダーに一瞬の隙を突かれて背後に回られなければ、致命傷を受ける可能性は少ない。


時折、初撃と同じく口から糸を吐き出してくることもあるが、口の動きには注視しているので、そこはサイキックできっちり対処。

そして爪による攻撃は下から来ることはないので、意外とどの方向から攻撃が来るのか読むことが出来る。


そう、出来なくもないのだが……冒険者に成りたてのルーキーが行える動きではない。


だが、ユウゴはこの戦闘でもファストラーニングの性能を遺憾なく発揮。

徐々にポイズンスパイダーの攻撃の軌道、次の攻撃方法などを読み始めた。


(そろそろがっつり攻め、マジか!!!!)


完全に攻めに転じようと思ったところで、ポイズンスパイダーが毒魔法の魔法陣を展開。

魔法陣から放たれる魔法はポイズンランス。


威力は中級程度だが、勿論食らえば毒に侵される。

ポイズンスパイダーが使う毒液よりも効果が高く、今のユウゴが毒を食らえば早い段階で三途の川が見える。


ただ…………こういった場面でこそ、ユウゴのチートスキルが力を発揮する。


「それは食らいたくない!!!」


「ッ!!!!????」


「ッ!?」


ユウゴのアクションに、ポイズンスパイダーだけではなく、後ろで待機していたウルまでもが目の前の現象に驚いた。


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