第26話 素材のレベルが違う
「……美味い」
「そう、だな。私も多くのモンスターの肉を食べてきたつもりだが、これは本当に美味い」
ウルは羽休めという名の宿に泊まっており、ユウゴもそこに止まることにした。
そしてそこの料理長である大将にヴァイスタイガーの肉を渡し、一品造ってもらった。
勿論、ヴァイスタイガーの肉をウルから渡された時、大将は若干腰を抜かす程驚いた。
しかしそこは長年料理人を務めているプライドが燃え、自身が作れる最高の料理を二人に振舞った。
「でも……俺も食べて良かったんですか」
「ふっ、今更だぞユウゴ。この肉は、君が私を助けてくれなければ、食べられなかった。故に、君にはこの肉料理を食べる権利がある」
「そ、そうですか……それでは遠慮く頂きます」
「あぁ、存分に食べてくれ」
テーブルの上には肉料理以外もあり、ユウゴは腹八分目を無視して食い続けた。
(いや、本当に美味い……美味過ぎるな。黒毛和牛の肉とか食べたことないけど、絶対にそれとかより美味いだろ。なんだろうな……料理長さんの腕が低いと高いとではなくて、素材のレベルが日本……地球と比べて高いんだろうな)
なんて事を考えながらも、ユウゴの食べる手は全く止まらない。
「……かなりお腹が空いていたようだな」
「え? い、いやぁ。何と言いますか……料理が凄く美味しくて」
はは、と苦笑いを浮かべるユウゴ。
この世界に来てからしっかりと調理された料理を食べるのは初めてだったこともあり、無限に食べ続けられそうな感覚だった。
そんなお世辞ではない言葉が耳に入った料理長は陰に隠れて、小さくガッツポーズをしていた。
「ふふ、確かにこの宿の料理は美味い。それにしてもユウゴ、君は素手での戦いもいけるんだな」
「あぁ~~~~……あれに関しては偶々上手くいったというか、レンの動きは読みやすかったので」
「ふむ……まぁ、その点は正しいかもしれないな」
ウルの目から見て、レンは確かに成長はしているが……まだまだ読みやすい直線的な動きが多い。
だが、スピードはそれなりのものなので、そう簡単に避けられる攻撃ではない。
それにもかかわらず、ユウゴはまるで攻撃が予めそこに来ることが解っていたかのように躱し、カウンターに繋げた。
(レンの初撃を躱してからの蹴り。そして、更に右の斬撃を躱してからの投げ……あれは綺麗だった)
ウルも万が一のことを考えて素手での戦いは行えるが、攻撃の選択肢として投げというものはない。
だが、投げられたレンの状態をみて……決まれば効果的な技だと思えた。
(投げられたレンの様子を見る限り、あれは肺から空気が全て抜けてしまい、息が詰まる感覚に似ている。あの状態に追い込まれると、中々咄嗟に反応出来ない)
過去にモンスターに投げつけられ、同じ経験を何度も体験したことがあるウルにとって、その状態は中々に避けたい。
「あの投げも見事だったぞ」
「ありがとうございます。ただ、不安からああいった攻撃を多用しているわけではないんで、決まるかどうか少し不安でしたよ」
言葉通り、普段から一本背負いで敵を倒すようなことはしておらず、魔法やサイキック、ロングソード……偶に強化した拳や脚で倒すのがメインだ。
だが、あの時は体が吸い込まれるように動き……自然に投げることが出来た。
「でも、初日からあんなことをしたら、他の冒険者とは仲良くなれなさそうですね」
「……同じルーキーの者たちはあれだが、ベテラン達は最初こそ悪意ある目線をぶつけていたが、模擬戦を観てからは直ぐに目が変わっていた。面倒な絡まれ方をすることはないだろう」
「それは良かったです。けど、俺としては同じルーキーとも仲良くしたかったんですけどね」
相手を納得させるためとはいえ、多くの同じルーキーがいる前でレンを二度も倒してしまった。
模擬戦が終わった後も、ルーキーたちだけはユウゴに鋭い目を向けていたので、当分仲良くはなれなさそうだと思った。
(超絶美人な冒険者と仲間になれたことは嬉しいんだけど、まさかあんな展開になるとはな……いや、当然と言えば当然かもしれないけど……まっ、仲間になったんだし仕方ないか)
ユウゴとしては、レンたちから鋭い目を向けられるよりも、ウルと仲間になれたことの方がよっぽど利点が高かった。
「それにしても……ウルさんはやっぱりモテモテでしたね」
「む…………自惚れでなければ、そうなのかもしれない。だが、そういった感情と憧れの感情が混ざっている者も多い筈。それを考えれば、真の好意を抱いている者は多くないだろう」
「ん~~~~~……それはどうでしょう。少なくとも、俺が今日戦ったレンは完全にウルさんに惚れていた筈ですよ」
憧れの想いは確かに持っているが、ユウゴの目からは明らかにそれよりも惚れている想いの方が大きいと感じた。
「そ、そうか……そういった想いを向けられて悪い気はしないが、今はそういった相手をつくろうとは思わないからな」
「そうなんですね」
レンや他の惚れている面子は苦労するだろうな……なんて思いながら、ユウゴは更に食べ続け……食後、少しの間横になって唸る羽目になった。
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