第25話 いつもの様に騒げない
「こちらが、買取の金額になります」
「ありがとう」
ウルは倒したヴァイスタイガーの内臓や目玉など、基本的に使わない部分をギルドに売却。
しかし売る個人としては使わない素材であっても、錬金術の素材としては物凄く価値が高いため、白金貨数枚がウルに渡された。
「こちらがユウゴさんの買取金額になります」
「どうも」
ユウゴが受け取る金額はウルのものに比べたら塵と思える程度かもしれないが、それでも魔石や売れる素材はキッチリ回収しており、肉に関しては全て回収している。
冒険者にとって、例え食える肉だったとしても……持ち運びできる量の制限による、肉を放棄しなければならない場合が多い。
しかしユウゴのアイテムボックスの容量は無限大。
際限がないため、ゲットした肉を全て保管し……自分で食べて良し、ギルドに売って良しとなる。
ウルが持っているアイテムバックではヴァイスタイガーの肉は時間が経つにつれて劣化してしまうが、ユウゴからアイテムボックスの情報を聞いているため、肉はほんの少しだけ売って後は自分の物にした。
(宿に戻ったら、一つ料理を作ってもらおうか)
宿によるが、料理人に食材を渡せば、そのまま料理を作ってくれる。
「それじゃ、まずは宿を取ろう」
「分かりました」
こうして二人がギルドで用事を済ませてから出た後……ギルド内には嵐が去った静けさが残った。
「Aランクのモンスターをソロで倒す、か……強いのは前々から解ってたけど、とんでもねぇな」
「マジでそれな。俺らが束になっても敵わないし……死にかけたっつっても、生き残ったんなら更に強くなったろ」
「普通に考えればそうだろうな。レベルがかなり上がりずらい段階だったと思うけど……一気に二とか三は上がったんじゃないか?」
「全然あり得そうだな」
一人がウルの功績を褒め、更に傍にいた一人がそれに同意。
波紋が広がるように、ギルドにいる冒険者全員がウルのことを褒め始めた。
十数人でAランクのモンスターを倒したという内容でも十分に快挙だが、たった一人で倒したとなれば……まさに英雄と呼べるレベルにまで達したことになる。
ギルド内には酒場も併設されているので、仕事を終えた冒険者たちが酒を呑みながらワイワイと今日の出来事について語り合うが……その殆どがウルがヴァイスタイガーを倒したことについて。
実際に戦ったところを観た者は誰一人としていないが、倒した証拠である死体があればそれで十分。
同業者たちは、いったいどの様にしてウルがヴァイスタイガーを倒したのかについて酒を味わないながらも真剣に話し合った。
そんな中……本日、もう一つの大きな出来事。
Aランクモンスターを死にかけたとはいえ、ソロで倒したウルが今日冒険者になったばかりの男とパーティーを組んだことについて、誰かが話し始めた。
「……ユウゴって小僧も、中々凄かったよな」
「「「「「ッ!!」」」」」
ユウゴの名前が出た瞬間、一部の冒険者たちが思わず動きを止めた。
「あぁ、レンと模擬戦した小僧か」
「そういえばそんなのがあったらしいな。そんなに凄かったのか、そのユウゴって奴は」
「本当に今日冒険者登録したばっかりだったんだが、レンのやつを圧倒してたな」
「圧倒って……それ本当か」
「あぁ、本当だぞ、なぁ」
男の声に同意するように、あの模擬戦を観ていた冒険者たちは頷いた。
「一回目は自分の持ち味を生かして戦って勝った。まぁ、あれはちょっと卑怯と思われるかもしれねぇけどな」
「魔力の弾を使って勝ったんだったか」
「まぁ、それがメインだったな」
最後はサイキックを使って被弾覚悟で突進してくるレンを止めたが、その部分については誰も知らない。
「転んだのは不幸だったかもしれないが、それも実力のうちだな」
「そりゃその通りだ。つか、全く納得してないレンの気持ちを汲んでか、今度は接近戦で勝負してやるって言ったんだぜ」
「か~~~~~、それは随分と男前じゃねぇか」
「言葉で騙すことなく、本当に接近戦で……素手で双剣のレンに勝ったからな」
まるで相手の動きを読んで動いていたと言う者がいたが、さすがにそんな段階ではないだろうと否定される。
動きが読めていたのではと口にした本人も、確かにそうだなと思ったが……実際のところは未来予知を使い、本当に動きを読んでいた。
「それでレンは二回とも負けちまったのか」
「そうだ。レンの奴もルーキーの中じゃ優秀……ってか、他の三人も同じように優秀だな。まぁ、でも……冒険者になったばかりでも強い奴は強いし、相手が悪かったってところだな」
「はっはっは!! 話を聞く限り、まさにその通りだな。戦い方はウルと違うだろうが……いずれは俺たちの耳にも入る功績を上げてもおかしくなさそうだ」
気の良いベテラン達は、未来ある若い才能の出現を肴にして酒と飯を楽しむが……同じ場所で夕食を食べていたルーキーはとてもいつも通り呑んで食って騒ぐ気にはならなかった。
兎にも角にも、この場にレンが居なかったことは幸いだった。
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