第24話 事例が少ない偉業

「勝者、ユウゴ!!!」


「「「「「…………」」」」」


今度こそ、完璧な勝利だった。

先程までは遠距離ばかりから攻めていたが、今度はキッチリと相手の接近戦という土俵に付き合った。


それにもかかわらず、ユウゴはレンの攻撃を一度も食らわずに何度も攻撃を決め、最後は綺麗にぶん投げて地面に叩きつけた。


(おいおい、マジかよ……あのレンを素手で倒すのか)


(普通に考えれば、ウルがパーティーを組んでも良いと思ってるんだから、当然っちゃ当然なのかもしれねぇけど……それでもびっくりだぜ)


ルーキーたちだけではなく、ベテラン陣も目の前の結果には流石に驚かされた。


レンは確かにまだDランク。

ひよっことしての域は抜けたが、まだ完全なプロとは呼べない。


しかし、それでも戦闘力だけを見れば中々の者。

確かな指導者に教えを請うた貴族の令息や令嬢であっても、先程の二戦のように圧勝は出来ない。


場合によっては、その気迫に圧されて負ける場合も大いにあり得る。


「はは、ウルと同じく……スーパールーキーって奴か」


あんな戦いを見せられては、納得するしかない。


「ふぅーーーーー」


「お疲れ様……接近戦はさすがに緊張したか?」


「緊張というか……ちょっと疲れましたね」


相手の数秒先の動きが分る。

それはとんでもない能力だが、サイキックよりも断然魔力を消費する。


(でも、あの気迫にだけは少し緊張させられたかな)


単純な実力だけならダリスの方が上だが、向かい合った時に気迫……レンが絶対に

負けられないと思っているからというのもあるが、ギラついた目からはダリス以上の気迫を感じた。


「そうか。腹は減ってるか? 用事が終われば、夕食にしよう」


「良いですね。結構お腹空いてます」


もう既に二人は仲間……そんな雰囲気が駄々洩れであり、それを見ていたレンは更に涙が止まらなくなった。


「あっ、そうだ」


ユウゴは自分の勝ちに賭けていたことを思い出し、同元から勝った金額を貰った。

殆どの者がレンに賭けていたので、ユウゴの倍率は三十倍。

賭けた金額が銀貨一枚だったので、銀貨三十枚をゲット。


ウルに至っては臆することなく金貨一枚を賭けていたので、あっさりと金貨三十枚をゲットした。


今回の一件、ルーキーやベテラン関係無しにアリステラに滞在している冒険者たちに大きな衝撃を与えた。


だが……この後、ウルが買取所でアイテムバッグの中から取り出したモンスターの死体が……更に大きな衝撃を与えることになる。


「う、ウルさん。これって、もしかして……」


「あぁ、これはヴァイスタイガーだ。偶々というか……運悪く遭遇してしまってね。逃げられそうもなかったから、戦うしかなかったんだ」


ウルは当然レベルが高く、四十三と十七歳では異例の高レベル。

そして持っている武器の性能も高く、一つはランク五の双剣、風葬。

付与効果は脚力と斬撃の強化。そして敵の首を斬る際には、更に切れ味が強化される。


もう一つの武器は刀、雷光。ランクは六。

付与効果は高い身体強化の上昇と、付与技の脚に雷を纏って強化する迅脚。

更にもう一つ、雷の居合……迅雷閃光。


他にも装備している皮鎧や手甲、ブーツも性能が高い。

マジックアイテムも脚力強化の指輪を一つと、自身の斬撃攻撃で相手の魔力を吸い取る効果が付与された指輪を身に着けている。


まさに強者の装備……なのだが、それでもAランクという圧倒的なまでの恐ろしい力を

持つモンスターに勝つのは……困難を極める。


「言っただろう。死にかけのところをユウゴに助けてもらったと」


この瞬間、いったいどんな手段でユウゴが助けたのかは知らないが……死にかけのところを助けてもらったという話を殆どの者が信用した。


(なるほどなぁ……そりゃAランクのモンスターを相手に一人で挑めば、死にかけてもおかしくないぜ)


(ウルが強いのは解ってたが、まさかAランクのモンスターを一人で倒すとはな……もう、Aランクになるのは秒読みか?)


Bランクの冒険者が十数人集まり、一体のAランクモンスターを倒したという事例なら、過去にいくつもある。


だが、まだBランクの冒険者が一人でAランクモンスターを倒したという事例はそう多くはない。


(……やっぱり、ウルさんはすげぇな)


まだ冒険者ギルドに残っていたレンは、やはり自分の目指す目標は間違っていないと再確認した。


ただ……そんな若干十七歳で偉業を成し遂げたウルの隣に、自分に勝ったとはいえユウゴの様な者が立つというのは……納得しかねる。


先程のレンとの模擬戦をギルドの職員が見ており、素人以上の戦闘力が十分にあると判断され、Eランクからのスタート。

ウルの偉業と比べれば薄れるが、それはそれで十分褒められてもおかしくないスタートだが……ガチで嫉妬している男は、その程度の実績で黙ることは出来ない。


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