第23話 豪快に一本

(……普通に勝ってそれで終わりって思ってたんだけど……物凄い形相でこっちを見てるな)


先程の勝負、紛れもなくユウゴの勝利だった。


レンが初めから全力で倒しにいかなかったという点はあるが、それはユウゴを嘗めてたレンが悪い。

ベテラン陣はそれを良く理解しており、ユウゴがウルとパーティーを組むのは未だによろしくないと思っているが、模擬戦の勝者は紛れもなくユウゴだったと認めている。


ただ、レンと同じルーキーの中には……先程レンが転んだ要因がスキルによるものだと解っておらず、転ばなければレンの勝ちだった。

大きな声でそう発現する者もいる。


実際に転んだレンも……自分の足に違和感は確かにあったが、それでも転ばなければ自分が勝っていたという思いが強く残っている。


そんな状態では、諦めように諦められない。


(なんか口から血を出す程噛んでる? それに、血涙を流しそうな眼力だな……しょうがない。もう一度勝っておくか)


身体能力にそこまで大きく差が開いていない相手との模擬戦は、良い経験になるからもう一戦だけ戦ってあげよう。


なんて優しい思いはなく、確実に勝てる算段があるからこそ、もう一度模擬戦に勝ってあと腐れをなくそうと決めた。


「不満があるなら、もう一度だけ戦うけど……どうする。なんなら、今度は君の得意な接近戦で戦うよ」


「っ!! ユウゴ、無理する必要はないぞ」


「大丈夫、無理してませんよ。ただ、こいつの顔を見てると……模擬戦の結果に不満がある状態にしていると、夜か冒険中に後ろから刺されそうな気がするんで」


「そ、そんなことする訳ないだろ!!!!!」


さすがにそこまで腐ってはいないと叫ぶレンだが、血涙を流しそうな表情で睨まれていたユウゴからすれば、そんな言葉……はいそうですかと簡単には信じられない。


「だったら俺を親の仇みたいに睨むのは止めてくれないか。そんな顔を向けられたら、不意打ちで殺されるのかと思ってしまうぞ」


戦いを観戦していたルーキーたちは気まずそうな表情をしていたが、ベテラン達は容赦なく、ウンウンと頷いてユウゴの言葉を肯定した。


「うぐっ!」


「それで、どうするんだ?」


「ッ……やるに決まってるだろ!!!」


「よし、それじゃあ開始線に戻るぞ」


何はともあれ、もう一度模擬戦を行うことに決定。

決まりかけていた賭けの決着が無効となり、しかも今度はユウゴが接近戦で相手をすると宣言した。


レンの勝ちに賭けていた者たちはこの流れに感謝し、先程よりも大きな声でレンを応援し始めた。

応援というよりも、脅迫に近い言葉もあるが……何はともあれ、ユウゴよりは断然声援の量が多い。


(さて……早い段階で視とくか。てか……不味いな)


ユウゴは亜空間から通常のマジックポーションを取り出し、サクッと魔力を補給。


「……お前は回復しなくて良いのか?」


「へっ!!! お前みたいに貧弱じゃないんだよ!!」


「…………あっそ。後で文句言うなよ」


先程と同じ者が審判を務め、再度模擬戦が行われた。


「はぁぁあああああああッ!!!!!!」


レンは開始と同時に駆け出し、身体強化と脚力強化のスキルを同時使用。

全身に魔力を纏って更に強化し、自身が出せる最大速度でユウゴに迫る。


勿論、その速度はユウゴの最大速度よりも速い。

真っ向から対応するには、いささか分が悪いが……ユウゴのチートスキルはオートエイムやサイキックだけではない。


(なるほど、そう来る感じか)


ユウゴは魔眼の能力の一つ……未来予知を使用。


レンのまずは右手に持つ双剣から攻撃しようとしているのを……体を後ろに反らしながら躱し、右足で重さが乗った蹴りを放つ。


「がっ!? ぐ、は!!??」


「ふんっ! はっ、おらっ!!!!」


ユウゴも最初から身体強化のスキルを使用しており、最初に綺麗に入れた蹴りのダメージが抜ける前にジャブ、フック、ローキックを決め……一気に攻め続ける。


現状では確かにレンの方が速いが、先手を取られた状態になると……ユウゴの動きを読み、カウンターを決めることが出来ない。


それ程までにユウゴの素手による攻撃の繋ぎは悪くなかった。


(……まだ目が死んでない!!!)


根性で自分の攻撃を耐え、カウンターを狙って来る。

そう予測したユウゴはもう一度未来予知を使い……先程と同じく右手に持つ双剣で攻撃してくるのビジョンが脳内に浮かぶ。


「よ、せいっ!!!!」


「のわっ! がはっ!!??」


斬撃を前に進みながら躱したユウゴはレンの右腕を両手で掴み、そのまま豪快に一本背負いを決めた。


「ふんっ!!!!!」


「ッ!!!???」


そしてぶん投げられ、地面に叩きつけられたレンの顔の横を思いっきり踏みつけた。


「さっきと同じ状況……ってことで良いよな」


「ッ!!…………クソがッ!!!!!!」


ただただ吠えることだけしか出来ず、レンは涙を流し……それが決着の合図となった。


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