第21話 冷静に考えてこその攻撃
「お前……何やってんだ」
「何って、自分が勝つのに銀貨一枚賭けただけじゃん。別にお前に賭けて、八百長しようとか考えてないから安心しろって」
そもそもレンの勝ちに賭けたところで、オッズを考えれば大して金は帰って来ない。
自分が勝つという自信もあるので、持ち金を増やすために自分の勝ちに賭けた。
その行為が悪いとは一ミリも思っていない。
「ッ!!!!!」
だが、対戦相手のレンからすれば、これから始める模擬戦に対して全く集中していないと思えるような行為……許せる訳がなかった。
(調子に乗り過ぎだ!!!!!)
そう思い、激怒するのも無理はないだろう。
ただ……ここで何人かの冒険者は気付いた。
ユウゴの余裕そうな表情は……開き直っているとか、そういった類のものではない。
単純に策が……レイに勝つ手段があるからこそ、あんな態度を取れるのかもしれない。
そもそも落ち着いて考えれば、自分たちよりランクが高いウルが恩を感じたからとはいえ、自分の行動を制限するような真似をするのか?
そう考えると、本当にウルに賭けて良かったのかと悩み始めた。
だが、答えを出す前に両者が開始線に立ち……審判を務める冒険者が開始の合図を行った。
「始め!!!」
勝負が始まった瞬間……両者ともその場から動かなかった。
「先手はくれてやるよ」
先輩から後輩への善意……といった優しいものではなく、単純に先手を与えたうえで完膚なきまでに潰す。
それがレンの目的だった。
ただ、ユウゴとしては別に先手があってもなくても、どちらでも構わない。
構わないのだが……そんな上から目線のレイの態度が気に入らなかった。
(……高校生相手にイキられるってのはこんな感じか……うん、ウザいな)
単純にそう思ったユウゴはやり返した。
「それはこっちのセリフだな。後で先手を譲ったから負けたんだって言われても面倒だから、先手は譲るよ」
「ッ!! そうかい、後悔すんなよ!!!!!」
ユウゴの言葉にブチ切れたレンは全力ダッシュでユウゴとの距離を詰める。
レンが扱う武器は双剣。
これはウルに憧れた影響でもあるが、定期性は充分にある。
現在使っている双剣は訓練場に置いてある木製のものだが、レンの腕力があれば
……当たり所が悪ければ、人を殺してしまう可能性はある。
(とりあえず、今のところダリスさんよりは遅いな)
強化系のスキルはまだ使っていないものの、少し前まで稽古を付けてもらっていたダリスの速さには及ばない。
「ッ!! チッ!!」
初激をあっさりと躱され、更に怒りが増すが……二撃目もあっさりと躱されてしまう。
十回目の攻撃が続くまではレンへの声援が多かったが……それ以降になると、疑問の声が上がり始める。
なんでレンの攻撃が新人に当らないのか。
レンが手が抜いているのか?
手を抜く意味がない……ということは?
「ちっ!!!!! 少しはやるみたいだな」
「随分大きな舌打ちだな。別にウルさんの前だからって、そんな強者ぶる必要はないと思うぞ。ダサいだけだし」
「ッ!!! 黙れ!!!」
一応レベル的には上であり、身体能力も殆ど上回れている。
それが分かっているからこそ、ユウゴは油断せずにレンを挑発した。
挑発に乗ってくれれば、攻撃が単調になって避けやすくなると思ったのだが……効果抜群だった。
(ちょっと卑怯なのは分かってるけど……面白いぐらいに引っ掛かるな)
先程よりも攻撃に振りが単調になり、魔眼の未来予知を使わずとも、次にどんな斬撃が飛んでくるのか予想出来る。
(にしても……なんで強化系のスキルを使わないんだ? 身体強化だけじゃなくて、脚力強化のスキルも持ってる。多分、魔力を体や武器に纏わせて強化する技術は、まだ俺より上)
ここから形勢逆転させる術を持っている筈なのに、頑なにそれらを使おうとしない。
(もしかして、さっき先手を譲ろうとしたのと同じで……自分の方が完全に格上だと思い知らせて勝とうとしてるのか?)
レンの心までは分らないので、真意を知ることは出来ない。
確かに素の状態でもレンの身体能力はユウゴより上。
レベルや種族としての特性を考えれば当然の内容。
だが、ユウゴはレンよりも素早い人と模擬戦を行ったことがある。
加えて……今のレンの動きは非常に読みやすい。
そういった点から、ユウゴも身体強化を使わずとも戦いについていけている。
ただ、そろそろ躱し続けるのも疲れてきたので、ユウゴは攻撃に移った。
手に持つ木製のロングソードを使うのではなく……手のひらから魔弾を生み出し、それを連続で放ち続けた。
「ッ!! く、そが!!!!」
見てる者からすれば、それは安全圏から遠距離攻撃を放つだけの、卑怯な戦い方に思えるかもしれない。
だが、自分の強さがまだまだだと解っているからこそ……ユウゴは接近戦が得意であろうレンに対し、迂闊には近づかなかった。
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