第19話 当然、視線が集まる
「すいません、冒険者登録をしたいんですけど」
「かしこまりました」
これまたベルが気を利かせてくれたお陰で、この世界での読み書きは特に問題無い。
用紙を渡され、記入欄に自分の名前や年齢などを記入していく。
(……馬鹿正直に書く必要はないな)
自身の特技、習得しているスキルなどを記入する欄にはチートスキルについて殆ど書かなかった。
(てか……やっぱり、受付嬢さんってかなり可愛いという美人というか……綺麗どころが揃ってるんだな)
超絶美人であるウルを先に見ていたのでドキマギすることはなかったが、それでもチラッと受付嬢達の顔を見て……どれだけレベルが高いんだと驚かされた。
「はい、書き終わりました」
「ありがとうございます……あら。もしかして……実戦経験がおありで?」
「まぁ、色々と事情があって」
「そうですか。有望な新人さんはギルドとしても大歓迎です」
受付嬢の言葉が耳に入った冒険者たちは、少し……ほんの少しではあるが、ユウゴを見る目が変わった。
「それでは冒険者という職業に就いて説明しますね」
「よろしくお願いします」
素直に説明を聞こうとするユウゴに対し、受付嬢は良い印象を持った。
(ウルさんと一緒にいる方だからか、とても礼儀正しいですね。記入欄に書かれている通りの実力があるなら……普通は少しお調子者の方たちが多いのですが、この新人さんはどうやら違うようですね)
ある程度モンスターと戦ったことがある、元兵士や冒険者に稽古を付けてもらった事がある。
そういった者たちは総じて、自分は他のルーキーたちと違って強いんだ!!
といった強気な態度が顔に……程度に出ることが多い。
勿論、強い新人はギルドとしても大歓迎だが…………話を聞かない冒険者は非常に面倒で厄介。
(……なんだか、物凄い丁寧というか腰が低いというか……もしかして、貴族の令息? でも苗字はないようですし……今考えても仕方ありませんね)
没落、もしくは追放された貴族の令息や令嬢が冒険者となって第二の人生を送る、といったケースは珍しくない。
そんなことを考えながらも、ユウゴへの説明を終了。
これで終わり……といったところでユウゴが下がらず、そのままウルが受付嬢に話しかけた。
「私はこのユウゴとパーティーを組む。だから、パーティー申請をしたい」
「…………えっ!!??」
受付嬢は思わず、腹の底から驚きの声を出してしまった。
だが、それは受付嬢だけではなく……周囲の冒険者達も同じだった。
「な、なにぃ~~~~~~~~!!!!」
「う、嘘だろ!!!!」
「な、なんであんなヒョロっちぃ奴がウルと!!!!」
主に……パーティー申請をしたいと申し出たウルではなく、隣のユウゴに対して猛烈に非難が飛ぶ。
「え、えっと……それは、どうしてでしょうか」
「強敵と戦った際に、うっかり死にかけてしまってな。その時に偶然ユウゴが通りかかって、高級なポーションを使ってくれたのだ」
ここでこれ以上ユウゴに視線が集まらないようにするため、ポーションの中身がエリクサーだということは伏せた。
「な、なるほど。そういうことでしたか……わ、分かりました」
受付嬢はウルが助けてもらった恩と、才能がある新人を育てる為にユウゴとパーティーを組むのだろうと思い、パーティー申請を了承。
申請書にウルとユウゴが名前を書こうとすると……当然、それを止めに入る者が現れた。
「ちょっと待ってくれ、ウルさん!!! なんでそんなヒョロガリな奴なんかとパーティーを組むんだよ!!!」
一人の冒険者……ウルと同じ、狼人族の青年にヒョロガリと言われたユウゴは怒りはせず、自分の腹や腕などを触ってそんなにひょろいのかと確認する。
(……確かに線は細いと思うけど、別にヒョロヒョロって訳ではないと思うんだけどな)
確かにユウゴはインドア派だったとはいえ、体を動かして遊ぶのも嫌いではなかったので、怠惰な体はしていない。
ただ……目の前の狼人族の青年……レンの肉付きを見ると、そう言われても仕方ないかと思えた。
「レン……聞こえてなかったのか? 私はこのユウゴに死の淵から助けてもらった恩を返すためにパーティーを組むんだ」
ウルの言葉に嘘偽りは一つもなく、ユウゴが音に気付いて現場に向かい……エリクサーを使っていなければ大怪我出血多量で確実に死んでいた。
レンにとって……同じ狼人族であり、年齢が殆ど変わらないにもかかわらず、トップクラスの冒険者として活躍しているウルはほんのり恋心を抱きつつも、憧れの対象。
そんな憧れが命を救われたからといって、名も知らない男とパーティーを組む……なんてふざけるなという話。
ウルの表情から、死の淵から助けてもらったという話に嘘があるとは思えないが……それでも、そう簡単に納得出来る者ではない。
それはレンだけではなく……彼と一緒にパーティーを組んでいるメンバーも同じだった。
(これは……あれだよな。最終的に俺が何とかしないといけないやつだよな)
なんて考えていると、先程と同じくレンが吠えた。
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