第16話 勝ったのはどっち?

「ん? 今人とモンスターの声が聞こえた様な……」


アリステラまでかなり近くなってきたところで、ユウゴの耳に人とモンスターの声……加えて、戦闘音が耳に入ってきた。


道中でダッシュボアやポイズンスネークを相手にしても全戦全勝してきたユウゴだが、どんな敵でも時間さえあれば余裕で勝てる……なんて慢心はしていない。


だが、いったいどんな人とモンスターが戦ってるのか気になり、声と音が聞こえた方へと向かった。


(戦闘音、結構激しかった気がするな。もう一応街が見える距離まで来たんだけど……結構強い感じのモンスターが偶々いたのか?)


モンスターの生態は様々だが、人の村や街を狙う個体も珍しくない。

モンスターは人の肉も食べるので、そんなモンスターたちにとって村や街は食料が食べ放題な場所。


狙って襲いに来るモンスターがいても不思議ではない。


「なんか……音が止んだな。ん~~~……ちょっと急ぐか」


人側が勝ったのであれば問題無しだが、モンスター側が勝利を収めたのであれば、非常にまずい状態。


ユウゴは極力を足音を小さくしながら走る速度を上げ、ようやく戦闘音が聞こえてきた場所へと到着。


すると……そこには地面に転がるオークよりも数倍大きい虎のモンスター。

そして、大量の血を流している狼の耳が付いている狼人族の女性が倒れ伏していた。


「ッ!!! え、えっと……こ、こっちだ!!!!」


血の匂いで気持ち悪くなる……なんて素人臭い戸惑いはなく、ユウゴはランク六のハイポーションかランク八のエリクサーを使うか迷った結果、流石に流している血の量が多過ぎると思い、エリクサーを使用。


ビンに入っている半分を女性の口に入れ、もう半分大きな傷の部分に垂らしていく。


すると……まだ狼人族の女性は息があり、ユウゴが最強の回復薬であるエリクサーを使用したことで、死の淵の一歩手前から戻った。


「う、ん……私は、生きてるのか。はっ!!! ヴァイスタイガーはっ!!!!」


意識を取り戻した女性は直ぐに立ち上がり、先程まで戦っていた超強敵……Aランクモンスターであるヴァイスタイガーの生死を確認。


「はぁ~~~~~、良かった。本当に良かった……ん、君は……誰だ?」


「あ、どうも。その……あなたが死にかけみたいだったので、勝手ながら回復させてもらいました」


「……ッ!!?? す、すまない!!!!」


狼人族の女性……ウルは先程まで自分が死にかけだったのを思い出し、目の前の男性の手にポーションが入っていたであろうビンを持っているのを確認し、事態を直ぐに飲み込んだ。


「えっと……まず、こいつをアイテムボックスか何かに入れた方がよろしいのでは?」


「あっ、すまない」


ヴァイスタイガーの様な高ランクのモンスターは血まで素材として高く売れる、なんてこまかい知識は知らないユウゴだが、なんとく垂れ流しになっている違勿体ないと思った。


ウルは慌ててアイテムバッグにヴァイスタイガーを入れ、再び命の恩人であるユウゴと向き合った。


「ふぅーーーー……君の名を、訊かせてもらっても良いか」


「ユウゴです、よろしくお願いします」


「ユウゴか。良い名前だな。私の名前はウル。見ての通り狼人族だ。今回は命の危機から救って頂き、まことに感謝する」


既に血だまりの場所から移動し、ウルは地面に膝を付き……美しいと感じてしまうほど、綺麗な所作で……感謝の意を込め、頭に地面を付けた。


異世界に来てから始めて動物の耳を持ち、尻に尻尾がある獣人といった存在を見たユウゴはしばしば綺麗な……土下座体制を行っているウルに見惚れた。


「…………ッ!! ど、どうも!! 感謝の気持ちは伝わったので、頭を上げてください!!!!」


とんでもない美女に土下座をさせてしまっていると状況を理解し、とにかく頭を上げてもらう様に伝えた。


「そうか……ん? すまない、ユウゴ。そのビンを少し借りても良いかな」


「え? あ、はい。大丈夫ですよ」


言われるがままにユウゴは使用済みのビンをウルに渡した。


「すんすん…………ゆ、ユウゴ。これはもしかして、エリクサーじゃないのか!?」


「えっと……はい、そうですね」


鑑定を使えば、エリクサーが入っていたビンだとバレる。

そもそもウルの表情からして、誤魔化すのは無駄だと思い、ユウゴは正直に答えた。


「そ、そうなのか……いや、うん……こんな貴重な回復薬を使ってくれて、嬉しい限りだ」


口ではそう言いながらも、自身に使用された薬の名前を聞いて……美人な顔がやや崩れるほど、引き攣った笑みを浮かべた。


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