第14話 それは内緒の方向で

ユウゴが空に放ったファイヤーボールとウィンドボールが弾ける音に気付き、ダリスは人生で一番速く走った……と思える程の速さで音が聞こえた方向に向かって走った。


「邪魔だ!!!!」


「フゴっ!!??」


ユウゴと同じ様に道中で偶々遭遇してしまい、襲い掛かってきたボアは一蹴りで吹っ飛ばした。


引退したとはいえ、元Cランクの冒険者だった男。

ボアの突進など、一蹴りで十分。


そして音が聞こえた場所に到着すると……中々村に帰って来なかった五人が無事にユウゴと合流したと分り、緊張の糸が切れた。


「はぁ、はぁ……どうやら、無事だったみたいだな」


「えぇ、なんとか間に合いました。とはいっても、フォウたちを襲おうとしていたオークが遊んでなかったら、危なかったですけどね」


「そ、そうか……とりあえず、話は帰りながら聞かせてもらおうか」


日が暮れたら本気で不味い状態になるので、ダリスとユウゴは子供たちに万が一が起こらないように全力で周囲を警戒。


警戒しながらも……ユウゴはダリスが来るまで何があったのかを伝えた。


「といった感じです」


「なるほど……すまないな。貴重なポーションを子供たちに使ってもらって」


「いえいえ、構いませんよ。今回負った傷が元になって、後々厄介なことになる方が問題ですから」


ベスの計らいで通常のポーションはまだ後二十五個もあるので、五本使ったところで特に

問題はない。


(というか、ファストラーニングがあるから、回復魔法? みたいなスキルがあるなら是非とも習得したいところだな)


ユウゴはベスのお陰で魔力の量が同レベルの魔法使いと比べても多い方なので、戦闘中に強化スキルや攻撃魔法以外に回復魔法を使ったとしても、それなりに余裕がある。


「そうか……オークはどうだった?」


「そうですね……相手がちょっと油断してくれていた部分もあったからか、結構あっさり勝てました」


「ふむ、なるほど。まともにやれば、それなりに強い相手だった……ということか」


「そうですね……もし、オークが体や棍棒に魔力を纏えていれば、あっさりと勝てなかったと思います」


実戦でもサイキックを使う様にしているので、ユウゴのサイキックは徐々に強さを増している。


とはいえ、Dランクの中でもパワー系モンスターであるオークが全力を出せば、破られてしまう可能性は非常に高い。


レベルが二十を越えていれば、強化系のスキルなど関係無しに数秒程度で破られても不思議ではない。


「だが、ユウゴ君もそれが出来れば……やはり勝負はあっさり着いたんじゃないか?」


「ど、どうですかね。魔法を使ったりして良いのであれば、戦いを優位に進められるとは思いますけど、身体能力とロングソードだけで勝負するとなると……勝てるかどうかは怪しいですね」


「ふふ、そうか。自分の成長に慢心しないのは良いことだ」


自分の強さに自信がなさ過ぎるのも良くないが、逆に自信過剰になれば実戦で命取りのミスを犯す……もしくは、逃げれば助かったかもしれない命を落とすかもしれない。


そんな会話を続ける大人二人に子供たちは全てを理解出来ずとも、話に聞き入っていた。


「ふぅーーーー、日が暮れる前に付けましたね」


「あぁ、本当に良かった」


村の入り口前に着くと、警備をしている若者が子供たちが無事なのを確認し、ダッシュで心配している親たちの元へ無事を伝えに向かった。


「あらら……戻ってくるまでここで待つか」


警備の者が立っていないと、もしものことがあるかもしれない。

というわけで二人は子供たちと一緒に入り口の近くで待ち……直ぐに子供たちの親が猛ダッシュで現れ、子供たちを力の限り抱きしめた。


中には父親から拳骨を食らっている子供もいたが、両者とも無事に会えたことに涙を流した。


そしてダリスから親たちに子供たちの窮地を救ったのはユウゴだと伝えられ、フォウたちの両親は深々と頭を下げてユウゴに心の底から感謝の言葉を述べた。


「俺にとってフォウたちは兄弟弟子? みたいな感じなんで、危ない時は助けに行って当然ですよ」


歴で言えばフォウ達の方が上だが、強さはユウゴの方が断然上なので……決して言葉に間違いはない。


本来であれば、フォウたちの為に使ったポーションについて請求するのが当たり前……かもしれないが、それに関してはユウゴ自身がダリスも含めてご両親たちに伝えなくて良いと言ってある。


というわけで、ポーション代を徴収したりはせず、ユウゴは開けた場所に行き……完全に日が暮れてしまう前にオークの死体を解体し始めた。


(そういえば、ダリスさんがオークはクソみたいな生態だけど、肉は上手いって言ってたな……明日、昼に焼いてみんなで食べるか)


今日食べるのは我慢し、翌日の昼に道場に来た生徒たちと一緒に食べ……その美味さに思わず唸ってしまった。


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