第13話 大切な武器
フォウたちを襲おうとしていたオークの動きをチートスキル、サイキックで動きを止めてから首を斬り落としたユウゴは直ぐに死体をアイテムボックスの中に入れた。
そして一緒にフォウたちを探していたダリスに居場所を知らせる為に、上空に向かってファイヤーボールとウィンドボールを放ち、空中で音を鳴らした。
「もう少ししたら、ダリスさんもこっちに来るはずだ。そうしたら一緒に村に帰ろう」
ユウゴが自分たちを襲おうとしていたオークを一瞬で倒し、もう大丈夫なのだと解ると……フォウも含めて子供たちは一斉に涙を流し始めた。
大きな声で泣く子はいなかったが、泣き声がモンスターを引き寄せるかもしれない。
ただ、運悪くオークと遭遇して死ぬかもしれない……といった恐怖を味わった子供たちに、泣かずに黙ってろ。
なんて酷な事をユウゴは言えなかった。
(まぁ、仕方ないよな。にしても、オークが子供たちを直ぐに殺す気がなくて良かった)
傷こそ負っていたが、それでも通常のポーションで治る傷だった。
オークの力を考えれば一撃で子供たちは殺されていたかもしれない……それを考えると、嬲ろうとしていたオークの性格に感謝。
(にしても……あのオーク、体に魔力は纏えなかったのか? 素の状態であれば動きを縛れてた……いや、身体強化のスキルを使用していたか? まだそこら辺はちゃんと見ないと分らないんだよな)
ベテランの域に達すると、鑑定を使わずとも相手が強化系のスキルを使っているのか否かが解る。
だが、まだまだ成長速度が早くてもバリバリのルーキーであるユウゴは、鑑定を使わなければ分からない。
(魔力を纏って身体能力を上げられてたら、もしかしたらサイキックを破られてたかもしれないな……そう考えると、もっと使いどころを考えた方が良いか)
ユウゴが今後のサイキックの使い道について考えてると、フォウが使い終えたポーションのビンを渡してきた。
「ユウゴさん、ありがとうございました」
「おう、皆の怪我は治ったか」
「「「あ、ありがとうございました!!」」」
「気にするな。お前たちが生きてたなら、それで良い」
いくらユウゴがオークぐらいなら一人で倒せたとしても、到着する前に殺されてしまっていては、どうすることも出来ない
なので、全員の命が無事だった。
この事実だけで、心の底から安心出来た。
「その、オークの動きが途中で止まった気がしたんですけど、あれはユウゴさんが何かしたんですか?」
「良く見ていたな。まぁ……あれは俺のスキルの一つだ。オークが油断してたからか、全力じゃなかったから、上手く止められたんだ」
「す、凄いですね」
「凄いかもな……でも、フォウも凄かったぞ。俺は扱いやすいスキルを持っていたからオークに挑めたが、お前はまだ子供だ……にも関わらず、友達を守ろうとオークに立ち向かった。そんなお前の勇気の方が、よっぽど凄いと俺は思うぞ」
「そ、そんな……結局、何も出来ませんでした」
友達を守りたいという気持ちは、確かにフォウの中にあった。
だが、結局はオークに軽く吹き飛ばされただけで何も出来なかった。
その事実が、フォウに無力感を感じさせる。
「……フォウ、お前って随分と欲張りなんだな」
「よ、欲張りですか?」
「あぁ、欲張りだな。フォウや……そっちの四人も道場に通っている時は、一生懸命に訓練をしてると思う。でも、実戦を……モンスターと戦うのは今回が初めて。もしくはFランクのモンスターとしか戦ってなかっただろ」
ユウゴの言葉通り、五人の内……殆どがモンスターと一度も戦ったことがない、レベル一。
一人だけスライムと戦ったことがあったが、それでもレベルは同じ一。
「そんなお前らが、普通に考えてDランクの……レベル十二のオークに勝てると思うか?」
ベスから大量のチートスキルを貰ったユウゴでさえ、最初は体があまり大きくないモンスターとの戦いばかり選択していた。
オークと戦うのも今回が初めてであり、それなりに緊張はしていた。
緊張していたが……最初からがっつりチートスキルを使うつもりだったので、勝負はあっという間に終わってしまった。
「む、無理ですね」
「そうだろ。俺だって、最初は戦う相手を選んでた。だからな……相手がどんな奴でも、友達を……仲間を守るために前に出れた、フォウの勇気。そこが凄いんだ」
「勇気、ですか」
「そうだ。俺はまだ体験したことはないけど……いざって時に、その勇気が出てくるか否か……そこで、その後の人生が変わると思う。そこで勇気を出せなかったら、大切な仲間を失うかもしれない。フォウは既に、友達を守るためにその勇気を振り絞ることが出来る」
まさに、まだユウゴにはなく……フォウが先に得た大切な武器だった。
「だから今日、振り絞った勇気は誇って良いと思うぞ。カッコ良かったぞ、フォウ」
「う、うっ」
憧れとなりつつあったユウゴに自身の勇気を褒められ、フォウはもう一度……流したはずの涙が零れた。
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