第8話 まるでスポンジ
「……ユウゴってさ、実は貴族の令息? だったりするのか?」
「?? 随分いきなりな質問だな。なんでそう思ったんだ?」
直ぐには答えず、何故そう思ったのかを尋ねる。
ちなみに、日本で生活していた時も高貴な生まれではなく、ただのゲーム好きな一般人。
「いや、何て言うかさ……俺たちより凄い落ち着いてるというか、頭も賢いし魔法も
使えるしさ」
「別に賢くはないと思うぞ。さっきのモンスターを相手に堂々と戦う以外の方法については、頭を柔らかくして考えたというか……広い視点を持って考えただけだ」
元々モンスターなどが生息している世界に住んでいなかったが、それでもこの世界の子供と比べて元々の年齢が二十歳ということもあり、それぐらいの方法は直ぐに思い付く。
「魔法に関しては……ダリスさん、俺は世間知らずなんて分からないんですけど、魔法は貴族の血筋以外は使えないんですか?」
「そんなことはないぞ。俺も火と土の魔法が使える。まっ、本職の魔法使いには及ばないがな。ただ、世の中の一般的な常識として、魔法の才が高い者同士を婚約させる傾向が高い貴族の方が、魔法が得意とされている」
この世界の常識をまだまだ知らないユウゴにとっては初聞きの情報。
(貴族、ねぇ……漫画やラノベだとあんまり良い印象がない連中が多いけど……この世界ではどうなんだろうな)
平民と比べて特別な力……権力を持つ存在。
現在のユウゴの地位は当たり前だが、ただの平民。
大量のチートスキルこそ持っているが、まだ何も広く知れ渡る功績を獲得していないので、素人にしては少し強い一般人という立場。
(というか、既に五つも魔法スキルを習得してるってのがバレたら……揉めるか?)
努力でなんとか習得出来る範囲でも……限りはあり、五属性の基本魔法を習得するのは中々難しい。
「ユウゴ君は言わなくても解ってると思うけど、あまり貴族に喧嘩を売るような真似はしない方が良いぞ」
「はは、意味もないのにそんなことはしませんよ」
おそらく……多分、そんなことは起こらない。
昼食を食べ終えた生徒たちは道場に戻り、再び訓練を行う。
ロングソードの素振りに関しては、もうダリスの目から視て基礎は出来ている。
という訳で、今度は槍の扱いについて指導を行った。
何度が細かく指導を行うことはあるが、ユウゴはダリスの指導をスポンジのように吸収していく。
(ふむ……本当に物凄い成長スピードだ。これが天賦の才か)
過去の冒険者人生で、そういった才を持っている者たちと出会ってきたが……その者たちに申し訳ないと思いながらも、目の前のユウゴと比べたら小さな才能だと思ってしまう。
(教えられたことをふてくされず実行する性格もあってか、どんどん基礎が身に付いて行く……これほどの才を持ちながら、魔法まで使えるのを考えると……生徒がもしや貴族の令息なのでは? と思ってしまうのも無理はないな)
道場に通い始めた一日目はずっとロングソードと槍の素振りばかりを行っていたユウゴだが、不思議とめんどくさい……つまらないといった思いは湧いてこなかった。
チート成長スキルであるファストラーニングがしっかりと仕事をし、徐々に素振りの制度が上がり……それをユウゴ自身がしっかりと感じられている。
ユウゴはその感覚が楽しく、二日目も朝から道場に顔を出し……運動部の様に汗を流す。
そして昼食を食べ終えてからは、いよいよ他の生徒たちと寸止めで模擬戦を行い始めた。
道場に通っている歴は生徒たち方が長いが、ユウゴには生徒たちがまだ上がっていない……いや、環境が上げることを許してくれないレベルによる身体能力の差がある。
それはユウゴも解っているので、うっかり怪我をさせないように慎重に動く。
「せいっ!!! やっ!!!」
ユウゴとほぼ背丈が同じである男の子は、先日の光景を……ユウゴが一気にダリスの教えを吸収している様子を見ているので、遠慮なしに剣を振るう。
(うぉっ!? っと!? これは、腕が痺れるな)
攻撃を躱すという選択肢もあるが、ダリスから武器を使った者同士の戦いに慣れるには、なるべく相手の攻撃を防御した方が良い。
そう教わったので、男の攻撃を全て上手い具合に木剣を動かして防ぐ。
腕力はユウゴの方が上だが、それでも確かに伝わってくる衝撃に序盤はやや動きがぎこちなくなる。
ただ、男の子の動きに眼が慣れてくると……今度はユウゴの方から仕掛ける。
男の子も今までの訓練を上手く活かして戦うが、最終的にはレベルの差が現れ……ユウゴが一本を取る形になった。
「そこまで!!」
まだ訓練を初めて一日ほどしか経っていないユウゴが勝ってしまったことに驚く子供が多かったが、負けてしまった男の子はレベルの差というものがどれだけ勝負に影響するか理解していたので、不貞腐れることはなかった。
(明日は森の中に入って手頃のモンスターでも狩ろうかな)
先日と同じく夕食前まで道場で体を動かし続け、宿に帰ろうとしてると……一人の男の子に声を掛けられた。
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