第7話 狙うべき場所
ユウゴがダリスに長剣の振り方を教わり、何度もその型を繰り返し始めてから数時間ほどが経ち、お昼の時間になった。
(ユウゴ君だったか……とんでもない才能を持っているな)
まだロングソードを使った実戦や模擬戦は行っていないが、ユウゴの型が恐ろしいほどまでに上達していた。
武器を使ったことがないのは嘘なのではないか? 一瞬そんな考えが頭に浮かんだが、ユウゴの目からは嘘を感じられなかった。
加えて、確かに最初の方に素振りはド素人感が丸だし。
武器の扱いに関して素人という本人の言葉に間違いはない。
(長剣の扱いに長けた才を持っているのか……それとも武器全般の扱いに優れた才を持っているのか……ユウゴ君が冒険者になれば、直ぐに名声が聞こえてきそうだな)
冒険者を引退するまで、自分よりも大きな才能を持つ者たちに出会ってきた。
だが、その者たちと比べても……ユウゴの伸びは明らかに異常だった。
「ダリスさん、一緒に昼ご飯食べませんか」
「ん? あぁ、そうだな。では一緒に…………ユウゴ君、君はアイテムボックスのスキルを持っているのか」
「あ、はい。そうですね……偶々運が良かったと言いますか」
娯楽の神であるベスに存在を確認され、チートスキルを大量に貰ったという点を考えれば、偶々運が良かっただけという言葉は間違っていない。
「そ、そうか」
道場の近くで空いてる場所に焚火を設置し、今回の訓練に参加した子供たちの分までユウゴはせっせとボアの肉を焼いた。
そして毒味……という訳ではないが、出来上がった焼肉をまずはユウゴが大きな口で食べ……ユウゴに食べて良いぞと促された生徒たちは一斉に肉が刺さった串を手に取り、思いっきりかぶりついた。
「……美味い。ユウゴ君、もしかしたら君のアイテムボックスは……」
「やっぱりそういう反応になりますよね。だから、冒険者になったらなるべく信用出来る人とパーティー組みたいなって思ってるんですよ」
「そうか、ちゃんと解ってるんだな。それならば良い……直ぐに見つかるかは怪しいが、慎重になった方が君の為だ」
アイテムボックスの中から取り出されたボアの肉がとても新鮮……その点が気になったダリスは、出来上がった焼肉を実際に食べて確信した。
ユウゴの冒険者としての才能は学習能力の高さだけではないと。
(…………冒険者を辞めた身ではあるが、正直羨ましい限りだ)
アイテムボックスという収納スキルを持っているだけでも羨ましいというのに、中に入れた物の時間を止めてしまう。
ハッキリ言って、どのパーティーも……トップレベルのパーティーでさえ、ユウゴの様な人材は欲しい。
「ユウゴはさ、魔法と剣。どっちの方が得意なんだ?」
生徒たちの中で一番歳が近い男の子が、ユウゴにどちら方が得意なのかと問うた。
ユウゴは歳下からの呼び捨てを気にせずに答えた。
「ん~~~~……どっちだろうな。まだ、どっちの方が得意とは断言出来ない」
男の子から見ても、木剣を振り始めた時と……振り始めてから数時間経った時の動きは雲泥の差。
だが、歳下のラスたちを襲おうとしたゴブリンやホブゴブリンを倒した方法は、攻撃魔法
だったと聞いている。
故にどちらが得意なのかと問うたが……ファストラーニングというチート学習スキルを持っているユウゴからすれば、まだまだどちらが得意なのか……もっと経験を積んでからではないと分らない。
「ユウゴ君ぐらいの年齢でも、まだどちらが得意なのか分からない場合は多いぞ。でも、モンスターとの戦い方は分かってそうだな」
ダリスは直感的にユウゴは普通の十五歳の子供ではないというのは理解しており、他の十五歳と比べて賢い部類だと思っている。
「賢いかどうか分からないですけど……まぁ、モンスターと遭遇したらこんな風に戦うのが良いかなって方法はパッと浮かびますね」
「その方法を聞かせてもらっても良いか」
「えっと……目を潰して視界を奪うか、脚を潰して機動力を奪う、ですかね。そう簡単に出来ることではないと思いますけど、自分より格上の敵に遭遇したら、そうやって相手の動きを封じていくのが良いと思います」
「はっはっは!!!! 素晴らしい回答だ」
話を聞くだけだと、少々卑怯な戦い方に思えてしまうかもしれないが……いざ命懸けの戦いに身を投じれば、卑怯だのなんだの言ってられないのが現実。
「正々堂々と実力で押し勝つ力も大事だけど、勝って生き残る力も大切……だと思います」
「本当に冒険者じゃないのか、疑ってしまうぐらい満点の回答だ。俺が生徒たちに今後教えていく回答を全て話してくれたな」
今はまだ多くの生徒に基礎しか教えていないが、今後はユウゴが言葉にした勝って生き残るための手段も話していくつもりだった。
ユウゴの話を聞き、実際にモンスターと戦ってみたいと思いが燃え上がった子供たちがいたが、そこは上手い感じにダリスが一喝。
先生としては、生徒に未熟な状態でモンスターと戦ってほしくない……という当然の思いがある。
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