第21話 勇者、姫巫女、猪三傑
先日裴泉の
数年間
しかし名とは関係無く、
『塔』のある
華津の東、最初の
竜津
「『竜津』は、元は『
先頭を行く舟の
「その
裴通が右手で前を指しつつ振り返った。小さく細い指の先――
竜津島はより大きな島にほぼ
裴泉の話の通り、竜津へ来ることで『
竜津の小さな邑――『ムラ』の
「ただ、我々がここで
と裴通を通して
玉英、琥珀、
「
「たくさん獲るぞ!」
琥珀も玲も
「獲り過ぎぬようにな」
小刀で
四半刻(約三十分)
「ふむ……この独特の
「ああ、
「玲も好きだぞ! ご
川の流れにも
幼い裴通には少々苦過ぎるようだったが、「裴泉様の教えですから」と食べ切っていた。
『ムラ』から西北西へ
舟の
森の中にあって坂の上は
明らかに蓬莱の建築
もしこの『塔』が周華の
「母上のような者が住んでおるんじゃろうか」
琥珀が見上げながら
坂を登り切り、『塔』まであと五丈(約九メートル)というところで、
姿を現した、とは
玉英
「止まれ」
「
玉英がすぐさま
警告を聞いた瞬間に
「
ほぼ全身を
玉英は、
――
という疑問は
「私は玉英。この蓬莱の西、周華の王女です。ここには、あなたのお
真っ直ぐ男の目を見て言った。
続けろ、の意だと受け取った。
「八年前、我が
と言い掛けて、玉英の瞳の奥に
「――いえ、父母の
「……お貸し、下さるのですか?」
玉英が目を見開いて問うと、
「そう言っている」
男は
「国がどう、と言われても俺の知ったことではないが、仇を討つためであれば――」
「――
「ありがとうございます!」
玉英の
「気にするな。
玉英は男の瞳に言葉と
「それでも、ありがとうございます。……ところで、何とお呼びすれば
「
裴泉の手の者が伝えたのと同じ言葉だ。
「わかりました、袁泥殿。しかし、だとすれば、この美しい『塔』から離れてしまっても
袁泥の目の前――『塔』から二丈(約三・六メートル)に満たない距離では、『塔』の表面は、
代わりの門番が居なければ、いずれ
「美しい、か。――そう評してもらえるのは、嬉しい」
袁泥は再び胸元に目を
「問題無い。どこへなりと連れて行け」
表情を消し、ぶっきらぼうに答えた。
「はい。よろしくお願いします」
玉英は笑顔で応え、頭を下げる。
「嗚呼、しっかり護ってやるよ」
袁泥が口の中で「今度こそ」と付け足したのを、琥珀の耳だけが
初日の昼過ぎにふと振り返って見れば『塔』が消えていたのには
竜津を離れていた四日間、残った者達の働きは
北に川を見ながら山を登り、その川が北寄りに曲がった四日目からは北東へ。
「華津より栄えておるようじゃのう」
最後の坂を下る
東側の海――津付近の舟は華津と比べれば少なかったが、『クニ』全体へ
玉英等が
「ようこそいらっしゃいました。どうぞこちらへ。姫巫女様がお待ちです」
……とは、裴通が言い換えているのだが、
裴泉は
「
玉英は女に言い、左の裴通に目で
玉英
柱の一本一本が直径五尺(約九十センチメートル)はあり、支えとして、水平の柱が縦横異なる高さで各々の柱を
その上へ、下から
各壁面の窓から差し込む
「よく来てくれたね」
玉英
背丈は琥珀より三寸(約五・四センチメートル)近く大きいだろうか。
「そんなところで止まっていないで、もっと近くへおいでよ」
玉英と琥珀は言われるが
「どうぞ、座って」
やはり
少女は
「
と階段付近、
下がって良い、という
少女は視線を戻し、八つ数える程の
「さて……君達は、
首を傾げ、
「私は、玉英と申します」
玉英が
「琥珀じゃ」
琥珀もすぐに続けた。――子祐と裴通は立場上、口を出さない。特に裴通は、今回
「うんうん、
少女――紫がまた笑顔を見せる。
「はい。紫様に願い
「あ、ちょっと玉英」
「はい」
「様、はやめて欲しいな。あと奉るとかさ、別に紫は『カミ』様じゃないからね」
「……違うのですか?」
「です、もやめてよ」
と、紫は息を大きく吸い込んで、
「紫は紫。明後日には雨が降るな~みたいなことを
「ですが……」
紫が玉英をわざとらしく
「いえ、いや、でも、それは
「ううん、こんなの、みんなが何日か
紫は眉尻を下げて笑い、
「大体ね、紫は一番強く感じるから『姫巫女』なんて言われてる
ここへ来るまでに見掛けた他の民は――夜のこと
「その、
「そうだよ~。重くてしょうがないけどね?」
玉英と琥珀も
「『巫女』の名は後から決めるものなのかや?」
「お、
「元の名もあるんじゃろ?」
「うん。でも、家族以外は呼ばなくなるね」
「『巫女様』じゃから?」
「そういうこと」
「ふむ……」
『琥珀様』として親しまれ、可愛がられてはいても、対等な者は居ない。――玉英と
ましてや『姫巫女』として『巫女』の中ですら
「紫、
「えー、ありがと!」
「何やら軽いのじゃ!?」
「そんなことないってば~。嬉しいよ。それとも、琥珀が紫と
微笑みの中、紫の瞳が怪しく光る。
「そういうわけには……いかんのじゃが……」
勢いを
「なら玉英が?」
紫の視線が動く。
「それもダメなのじゃ! 玉英は妾の番になるのじゃ!!」
勢いだけは取り戻した。
「じゃあ、
「うむ、それなら、無論じゃ! のう?」
左の玉英に笑い掛ける琥珀。
「
玉英の答えは決まっていた。
紫が
友達として。
蓬莱と故郷――周華との違い
「ところで、結局聞いてなかったけど、どんな用で来てくれたの?」
紫が切り出した。
「二つ、いや、三つある」
玉英は表情を
なお、周華の王女である、ということは流れの中で話してある。紫は「ふーん、そうなんだ。改めて、
「一つ目は、交易の許可。紫の『クニ』や西の王――裴泉の『クニ』と……どちらにも属していないところがあるなら、その『クニ』ないし『ムラ』とも」
「いいよ。
紫は
「ありがとう。二つ目は、
「それもいいよ。
――琥珀が
と瞬間考えたが、それよりも確認すべきことがあった。
「先程も名を出した、裴泉については――」
「気にしなくて良いよ。『お
と紫は身に纏う絹を
「そうか……わかった。では、三つ目……と言っても、可能なら、だが……」
「うんうん、何でも言ってよ!」
玉英も笑顔を返し、しかし眉尻を下げて、
「遅くとも二年後、私達は強大な敵との決戦に
袁泥
「うーんと、
紫にしては
「出せる、つもりでいる。周華の
当面の
「そっか、それなら大丈夫。
森での
「会ってみなければわからないが、そうしたいとは思う」
「
紫が満面の笑みを見せた……かと思えば、表情が微かに
「ただ、迎えに行って貰わないといけないんだけど……」
「どこへ?」
「
「用意なら任せておいて!」と言われていたため、翌日は八松内をいくらか見て
更に翌日、
房葉へ上陸したのは、昼過ぎである。
八松の者達を番に残し、浜辺から小さな坂を上がってみれば、
「
玉英の右、首を傾げる琥珀に、反対側――左の裴通が見上げつつ答える。
「『すま
「ふむ、それでここまでやるのかや?」
全力の立ち合い、と言った方が良いくらいには
「鹿族も
「ならば当然じゃな。
「そう……ですね」
幼い裴通はそこまで思い切れないのか、困ったように笑った。
話している間に『すまひ』は決着し、両者が
勝者だけでなく敗者も称えるのは、生き残ったことに対してか、はたまた先の
思案する玉英に、
「あんたら、どこのもんだ」
と、今回は、裴通が
「私は玉英。八松の紫に紹介されて来た」
周華から、
「紫? 紫っていやぁ……ムラサキだから……姫巫女様じゃねぇか!? 舐めてんのかてめぇぶっ殺すぞ!!」
裴通が驚きつつも
どうやら紫は相当に
「紫がそう呼べと言ったのだ、仕方あるまい。
と琥珀の肩を抱き、左手では他の者達に「待て」と合図を送っている。
「友ってこたぁ……ダチ……だと……いや……ですか」
急に
「で……何の用で?」
「この地では力を
若者は背丈こそ子祐より二寸近く小さい――
ただ、出来れば一度試して――
「はっ、姫巫女様のダチだとしても関係ねぇ! 俺を従えようってんなら、俺を倒してみな!!」
おきたかった。
「剣で良いか?」
どうせなら、自ら確かめようと思った。
「あん? 剣……?」
若者は玉英の腰に目を遣り、
「俺はそんな
「……自分か?」
玉英のすぐ後ろに居た、
「よろしいですか? 玉英様」
「ああ、頼む」
玉英は振り向いて頷く。
「ハッ。……
「どっちでもいいけどよ、脱いだ方が
「わかった。いい奴だな、お前」
「んなこと言っても手加減しねぇぞ」
「当然だ」
梁水は話しながら腰の剣といくつかの道具袋を置き、着物と靴を脱いで、
「向こうが
「ああ」
若者に誘われて、先程まで『すまひ』の行われていた
周囲に居た者達は若者と玉英等の様子を見守っていたが、どうやら
「決まり事は?」
「
「死ぬなよ」
「あんたこそな!」
と言うが早いか、若者が突進。
梁水は
足はいくらか
若者は座り込んで深く息を吐き、問うた。
「あんた、強えな……俺は
梁水は手を伸ばし、若者――雷を助け起こす。
「梁水。……他の者達は、もっと強いぞ」
「嘘だろそりゃ」
「本当だ」
一部は嘘、もとい言葉足らずで、一部は本当だった。
玉英と出逢ってからの二年半、梁水とて可能な限り鍛錬し、また
剣や槍、弓の腕となると他の熟練者達に及ぶべくもないが、こと単純な膂力と『受け』――止めるにせよ、流すにせよ――に限って言えば、
「梁水、あんたが従う相手なら、ええと……」
「玉英様だ」
「ぎょくえいさま? なら、俺は従う」
気持ちの良い
「しかし、梁水なら兄貴にも勝てるかもしれねぇな。俺とそこまで変わらねぇし」
「誰が変わらねぇって?」
「兄貴!」
「お前が負けたからって俺も負けるってか? あん?」
「多分負けるって!」
「こんにゃろ~うりうり」
さして背の変わらない雷の頭を
「やめろって!」
じゃれ合いを眺めつつ玉牙のことを思い出し、玉英は笑みを
結局、雷の兄――
「負けちまったぜ!」
「だから言っただろ!」
じゃれ合いが続いたところへ、また別の男がやって来た。
「雷も迅も負けたんなら、俺の出番ってことになるな」
「「
迅と雷の兄弟が揃って声を上げた。
広常は迅、雷へ左の口角だけを上げて見せた
「どうだい?」
受けて動かした梁水の視線に玉英が頷いて返し、
「ああ」
三戦目が決まった。
広常
重心を低く
その
三十を
体格で優る広常にとって本来
かと言って梁水から攻め切ることも出来ず、互いに
「
玉英が声を掛けた。ここまで
梁水と広常は視線を
示し合わせたかのように
「本当に強いな、あんた」
「お前もな」
「広常」
「梁水だ」
双方、既に名を聞いてはいたが改めて名乗り、微笑んで、
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