第19話 青山の戦い
兵は、民である。
その点、
相手のあることなのだ。
──今回の結果は、
──いつでも同じようにやれる、
玉英は、丸くなった
玉英
燕薊を支配することになった……それは良い。
ただ、これまで基本的には
夕刻前、燕薊へ入城した玉英の姿に、周囲一定範囲内の
「立つが良い。我が軍は
と
仮にも王家直轄地『三つ子半島』、その中心都市の住民達である。いくら
──
玉英は一つ深呼吸し、陽光に照らされ輝く
「周華の正統なる王女、玉英である!
と、一度間を置いて声と表情を
「私のことは、外の者には広めずにおいてくれ。周華を取り戻す力を、
玉英の笑顔は民から見えるはずもなかったが、声の響きだけでも
周囲の民が、
「
礼の上ではあり得べからざることだったが、更に繰り返し声を掛けられたことで齢十かそこらの少年が応じ、その無事を察して
なお、進んだ先でも同じ光景が
そうして顔と名を
しかし、
距離だけで言えば、南西か南東へ五、六百里(約二百から二百四十キロメートル)も行けば、それぞれに
幸い、
「玉英……?」
雪よりも白い耳を
「ごめん琥珀、起こしちゃった?」
「うむ……ぅ……じゃが、良い。また、寝るのじゃ」
そう言って
「うん。おやすみ、琥珀」
「おやすみ、なのじゃ、玉英」
琥珀の背へ回した腕に、柔らかな尾が
早朝の
この日は、執務室に先客があった。
「おはようございます、
「
「嬢ちゃんはやめよと言っておろう!」
「はっは、すまねぇな、口癖だ。他のことで
唇を尖らせる琥珀と、
そちらの
子祐につられて、というわけではないが、玉英も頭を下げ、
「お待たせしてすみません」
「気にすんな、退屈はしてねぇからな」
「ありがとうございます」
玉英も笑顔を返し、
突雨は部屋の左側──奥から見れば右側──にあった大きくしっかりした椅子へ音を立てて身を預け、子祐は玉英の
「さて、報告、っつっても、特に問題ねぇんだけどよ」
突雨軍は、
旧燕薊軍
戦が決着してからは、元居た監視に加わる形で燕薊周辺から寿原、
今回は二度目の直接報告である。
「聞いてた通り、
「ええ、ありがとうございます」
玉英は目を細め、口角を上げて頷いた。
上越一家は、
相毅が玉英の情報を
主要構成員は
その一部を、王城都市
「
「はい、必ず」
玉英は笑顔を深め、頷いた。
突雨が任務に戻ってからも来客、もとい
特に、無理に
全体は、燕薊で
うち、
別の四万二千は元の生活へ戻れそうだったため、
残りの四千五百は、事情に応じて百から五百程度ずつの
夕刻、そうした代表者の最後の一名を、執務室へ招き入れた。──燕薊には王族の滞在を前提とした謁見の間も在るが、そちらは
入室して早々に
「
「ハッ……
葉網は、普段から見開いたようになっている目を一段と大きく見開いた。
黒髪黒目、四十過ぎの、若干
「当然であろう。それとも、『実は双子の兄』とでも言うのか?」
「いいえ、
せっかく上げた顔をもう一度伏せ、額を地に擦り付ける。
「良い。そなたの話を聞くために来て貰ったのだ。そこへ座れ」
と、突雨も座った椅子を右手で示す。
この葉網、身体の厚みでは及ばないものの、背丈では突雨に
「ハッ、いえ、ですがね」
「良いから座れ。命令だ」
「ハッ! では、失礼して……」
おっかなびっくり、といった様子で席に着いた。
「良し。では、そなた
「ハッ! そいじゃあ、
と葉網が語り出したのは、
妻や子供が何かの
玉英が
「
漁師の息子達である。徴兵すら受けない程に若くとも、舟の操作はお手の物。
食い詰めた
「ご支援ってぇのに、こんなこたぁ入っちゃあねぇたぁ存じやすが、
自分達の暮らしもそっちのけで、息子達のことを
切ない
「良かろう。出来る限りのことはすると約束する」
頷く玉英に、
「ありがとうごぜぇやす!」
葉網は、椅子の
翌日、
玉英自身が、
向かう先の滄水は、寿原中央付近から
「なあ、相毅。なんで俺
いつものように、右を行く相毅へ
玉英麾下は
「一つには、茗将軍と私を試されたいの
微笑む相毅。
「試すったって、俺等が裏切ったら、終わりだろ?」
茗節は
「その場合は、私達が、終わりですね」
微笑みは、揺るがない。
「三千と、八千だぞ?」
「敢えて
相毅は
茗節は両の眉を上げる。
「そんなにか?」
「はい。
「別にやろうと思っちゃいねぇって」
「子祐殿に首を飛ばされてから言い訳しても遅いですからね」
「おい、やめろよ! ありゃ本気で
今度は
茗節は、毎日玉英と子祐の
「だからこそ申し上げています」
相毅も共に参加していたが、体格と種族の差もあり、茗節程には
「第一、試すというのは別の意味
「なんだよ?」
「殿下の指揮へ的確に従えるか、ということ
「つったって、兵の質が全然
「ですから、私達の指揮が試されるのです」
「そりゃあつまり、お前の指揮ってことじゃねぇか」
「
「んなことねぇし、大体今回はそんな場面自体ねぇだろ」
「はい、
茗節は
「面の皮が厚いってなぁこのことだな?」
「
正しく
「そりゃあ知って……はぁ。で、俺はどうすりゃいい?」
息と共に気が抜けて、
「絶対に
滄水上流は凍ってこそいないが、通常あり得ない程の
水中では単なる冷気とは段違いに身体の力を奪われる。
「わあったよ。あとは?」
「死なないで下さい」
「はっ、当然だろ」
茗節は、腹から声を出して笑った。
笑う茗節を、相毅は笑顔のまま、静かに見つめていた。
燕薊から北北西へ六日。
大型
森を抜けた先、滄水上流域の
兵達と共に愛馬の世話と夕食とを終え、玉英と琥珀は
「
ひたすら景色を楽しんで
実際、麾下だけで三千、やや下流へ配した茗節軍が八千。せいぜい三、四百に過ぎない少年川賊を相手にするだけならば、明らかに
「全員生かして捕えたいっていうのもあるけど、せっかくだから、滄水の調査も兼ねて、ね」
凍り付かない……といっても他の河川からの流入が少ない部分のみだが、調べる価値はあると踏んだ。
「ふむ……
「多分、そうだね」
西王母の邑では湯が湧き出ていた。滄水も岩から湧き出ているということだが、湯ではないらしい。
「むぅ……わからんのう」
「だからこそ、調べたら楽しそうだよね」
「確かにそうじゃな!」
耳を立てて琥珀が笑い、玉英も笑った。
翌朝。
玉英麾下の騎馬隊一千は滄水西側、小さな丘のようになっている部分を回り込み、北側へ向かった。
昨夜のうちに、川賊の根拠地は北側のようだ、と報告があったのだ。その、
無論、他の軍も、ただ待っていたわけではない。麾下歩兵のうち一千は西側を
いくら少年川賊でも
最初は五
残りの二百名程は北岸のちょっとした拠点を出て北へ走り、先回りしていた玉英隊に半数以上が軽く突き倒され──全軍が調練用の棒を使った──早々に降伏した。
滄水が、夕日を反射して輝いている。
川賊の拠点、その小屋の一つで、丸太の椅子に座った玉英の前、
「オレが
身の丈十尺三寸(約百八十五・四センチメートル)近い男が、雲儼の手で地に押さえ付けられたままいくらか見上げるようにして、
身体は大きいが、顔付きからすれば
「雲儼、放してやれ」
「ハッ!」
「面を上げよ」
玉英の声が聞こえないはずも無かったが、少年は姿勢を変えようともしなかった。
引き起こそうとする雲儼を玉英は
「そなたが葉網の子、
「あん? 親父を知ってんのかよ。ご立派な軍の将校サマが、よくもまぁオレらなんぞを捕えに来たと思ったら」
葉棹は目を細めつつ両眉を上げ、右の口角を歪ませて笑った。
「親父にどんな弱みを
葉網は漁師の
「心して答えよ、葉棹。そなたの言葉次第で、そなたの仲間全員の首が飛ぶ」
玉英は外の空気よりも冷たく言い放った。
「なっ、オレの答えがまずかったら、オレの首一つでいいだろ!?」
「心して答えよ、と言った」
何か言い掛けて、飲み込む葉棹。
「そなた
川賊はほんの三百六十程度だったが、されど三百六十。
民の多い鬼族領域においては
にも
「そりゃあ、周りの邑を
「そうしていないことは、確認済みだ」
戦闘を終えたのは朝。
今、夕刻になって問うているのは、以前から先行させていた
「もっと遠い邑から──
「つい最近まで我が軍が行き来していた中で、か?」
一例を挙げるなら、現在地から西へ三、四日も行けば寿原での決戦地である。
「それは……それは……」
視線が宙に迷う。
「心して、答えよ」
三度、繰り返した。
「どう、生計を立てていた?」
「……塩だよ。塩と食糧を交換してもらって、あとは獣を狩って、食ってたんだ」
「どうやって塩を得た?」
「滄水の水を煮たり、西の丘を掘ったりだよ」
「掘ると、何がある?」
「岩みてぇな、塩の塊だ。……これで満足かよ」
「まだだ。……そなた等、元々凍らぬ水のことを
「……ここいら出身の奴に聞いてな」
「塩が採れることも?」
玉英は僅かに眉を上げて尋ねる。
「水が
だから、
「なあ、もういいだろ、ここまで吐いたんだ。オレの首一つで手を打ってくれ」
伏せたまま、力無く首を垂れる。
「そうはいかない。もう一つある」
「なんだよ」
微かに顔を上げた葉棹に、声を和らげて言う。
「そなた等全員の命、私に預けよ」
「オレらみてぇなもんに何させようって──
「ここの塩を、任せたい」
「はっ、密売かよ、将校サマも結局は──
「密売ではない。燕薊を統べる王族の権限において、命ずるのだ」
「今の王サマは裏切り
玉英は目を見開き、数瞬、言葉が出なかった。
「そなたのような子供が、そう言って、くれるのか」
「子供扱いすんじゃねぇ! ってか、どういう意味だそりゃ」
「こういう意味だ」
玉英は立ち上がり、葉棹の両肩を自ら支え起こして、思わず視線を上げた葉棹の目を見つめた。
「なっ……あっ……赤いっ、瞳っ……」
葉棹はこれ以上無い程に目を見開き、口まで開いたままになった。
玉英はゆっくりと言い聞かせる。
「正統なる周華の王女、玉英である。葉棹、私に仕えよ」
「あっ……はっ……ハハアッ!」
勢い余って鼻を地に打ち付けつつ、葉棹は
葉棹
他の民を襲うわけではなく、単に塩に関する法を破っていただけなのだ。
無論、法を破ること自体は問題であり、塩に関する場合は
「そなた
「ハッ!」
塩賊
葉棹等から塩を買っていた近隣の民も、
ただ、燕薊の許可を得た商売──正式な事業である、という告知だけはしておいた。もう
「良し。……燕薊へ戻りたい者が居ればいつなりと申し出よ」
「ハッ! ありがとうございます!」
必死に頭を下げる葉棹を見て、玉英の頬が緩んだ。
「値付けに関しては、他の者達を苦しめぬようにせよ。……
「ハッ! わかりました!」
「うむ。それと、周辺の調査を進めつつ、そなた等の邑を作る。差配は茗節──
玉英は視線を左へ遣った。
「──そこな男だ。万事協力せよ」
「ハッ!」
「茗節も、良いな?」
「ハッ!」
子供の前とあってか、あるいは言葉以上に重い責務を知ってか、姿勢を正した茗節の表情も
十日後の夕刻。玉英は燕薊に戻っていた。
三日間は滄水近辺の調査を自らも行い──琥珀と共に遊んでいるような瞬間もあったが──後のことは茗節や葉棹に任せて麾下と共に帰ったのだ。
いつものように夕照を
不在の間に
黒貂族の女である。齢は子祐と同程度。背丈は玉英より四寸(約七・二センチメートル)ばかり小さい。浅黒い肌、
「面を上げよ」
「ハッ! 殿下、長らく
女は一度頭を上げ、また下げた。
「
玉英は椅子から立ち上がり、光扇へ歩み寄ってその両肩に手を置いた。
「
光扇は頭も上げず、
「滅相も御座いません! 楽家こそ、
玉英は微笑み、
「では、互いに
「ですが……」
「良いな?」
ほんの僅か、命令としての圧力を
「ハッ!
「先程も言ったが、私こそ嬉しい。頼らせて
「ハッ!これより
光扇が一層頭を下げた。
玉英は息を吸って、
「ゆっくり話がしたい。こちらへ来て座ってくれ。それと、もっと
「ハッ! しかし、世話
「私がそう思っていると、知っていてくれれば良い。……さあ」
突雨や葉網が座った椅子
光扇が席へ
黄金に輝く瞳。全身が吸い寄せられるような感覚。
──この方と同じように椅子へ座っていること
──座っておくことは殿下の命だ。
「私の
「婚約者」「私の半身」の言葉に合わせて少女の瞳の輝きが増し、次いで可憐な声が響いた。
「琥珀じゃ。光扇、で良いかや?」
「どうぞ
限界まで頭を下げる。
「うむ。光扇、そなた、玉英の
「臣に御座います」
迷いなく答える。
「ふむ……面を上げよ」
素直に従った。
「妾を見よ」
「ハッ!」
再び目が合い、巨大な獣の
ふっ、と琥珀の瞳から黄金の光が消えたと同時に、光扇を
「光扇、よろしく頼むのじゃ」
琥珀が穏やかに微笑む。
「ハッ!」
光扇は、限界以上に頭を下げる
琥珀と光扇のやり取りの
「春までは止め続けられるでしょうが……」
燕薊の情報の流出についてである。──楽にしてくれ、と言われたため、光扇は
「このまま春になってしまえば、海上の行き来を制止するのは難しいでしょう」
「五百を超える漁師達が全面的に協力してくれるなら、どうだ?」
「でしたら……直接の往来は止め得るかもしれません」
光扇は微かに頷きながら言った。
「直接で
「殿下もご存知の通り、海上で頭を突き合わせる
『三つ子半島』の由来である。
各半島同士を地図上で見るならば、順に北、西、南東。先端部の位置だけで言えば、北西から南東に掛けてほぼ一直線。──遼南半島と百漁半島の
なお百漁半島は実のところ、遼南の東を起点として南へ伸びている極めて巨大な半島の一部に過ぎず、そちらは別に
麗羅半島南部から
「──『三つ子半島』全域を支配下に置ければ
青陰は青東半島
二百九十里(約百十六キロメートル)ばかりの
民は五十万にはやや欠けるが、燕薊のことを踏まえれば想定すべき兵力は十二万から二十四万。──青東半島は竜爪族領域と接しているため、
青陰を、
「策があるのか?」
青陰程の大都市を大軍で万全に守られた場合、
何かしら、
「私の知る限りでは、『三つ子半島』各
「そなたが声を掛ければ、協力してくれるやもしれぬ、か」
「
光扇が一礼した。
「しかし、青淄も従わぬのであれば、半島での大勢はあちらであろう?」
青淄は青東半島北側の付け根、
青淄の南には京洛東方の平野部では最も高い
「
各
玉英は一旦目を伏せ、数瞬の
「
燕薊での当初の計画に近いが、青陰から攻めた場合、陸側の
一歩間違えれば、寄せ集めの五万が、仮にも大都市の
「鬼族軍を
「ハッ!
燕薊が
現在、玉英に協力ないし従っている軍は、鎮戎公領域の守備軍を除くとおよそ二十万。うち鬼族はいくらかの選別を経た上で十三万六千。それと──
「光扇、そなたの軍は
「
長城付近で備えていたためだと言う。
「
「ハッ!
「私
玉英は両の眉尻を下げて笑う。
「ハッ!」
光扇が頭を上げたところで、
「ところで、兄上のことは何か知らぬか」
青東半島のすぐ南、傳水を渉れば、竜爪族の都──龍邪がある。
玉英の兄、
「残念ながら、何も……力及ばず申し訳御座いません」
「いや、良いのだ。竜爪族が
鎮戎公、
竜爪族からすれば――仮に玉牙を迎えていたとすれば――玉牙を旗印に京洛を陥すまでは、一切の
「では、編制と行軍についての意見はあるか?」
話を戻した。
「ハッ! 先ずは前提として周辺の
話し合いは、その後も様々な条件を突き合わせながら、二刻(約四時間)は続いた。
光扇との
劫海や太水、竜河の氷が
玉英は軍を率い、燕薊を発した。
歩兵九万ニ千、騎兵四万。
燕薊の津から太水を渡渉後、東へ三日、南へ一日。竜河河口付近を渉り、更に南へ二日で青淄へ辿り着く。
ただし、全軍の渡渉には
七日目の夕刻、青淄の正門で
旧燕薊軍では
「『三つ子半島』代官、董将軍の命で
「はっはぁ、流石は代官様だなぁ、もうお聞き及びたぁ」
鬼族としては一般的な体格の門番が
青東連合軍が玉英の――光扇の
「っといけねぇ、失礼いたしやした将軍。
「わかった。兵を休ませたい。通るぞ」
やや強引だが、『三つ子半島』代官の派遣した将軍とただの門番とでは天地の差がある。
「へぇ、どうぞ、どうぞ」
止める権限
全軍で
問題は、この
波舵に青淄を任せ、
「
被り物を目深に被ったまま、玉英は夕照と共に先頭へ立った。琥珀と
青東連合軍が待つはずの地──青山へ向かう。騎兵ばかり一万。
最低限の休息を挟みつつ
若干ながら高所へ陣取った
比較的平坦な場所に居る連合軍
――
瞬間、夕照に
「全軍続け!」
一段上の速度で、駆け出した。
視界に入っていた距離である。
相手も一部は反応していたが、足並みが揃わないようでは
主に
反転し、
故に、玉英軍の半ばには、
どれ
これを一段深く考えれば、如何に相手の
例えば、相手を戦場から逃さないためには「有利だ」と思わせておけば良い。欲張らせ、
その点、青淄軍は見事に
まだ数の上では二万以上の優位があると
【
――
と。
「残る騎馬隊を潰す! 続け!」
連合軍の後ろ、僅かに
左に目を
歩兵同士の命の削り合いは激しくなり、地の利はあるものの数に劣る連合軍が徐々に苦しくなってきている。
見れば見る
一万は居た連合軍右翼歩兵が、半数以下に減らされていた。
その正面には青淄軍歩兵一万三千、やや左に同歩兵七千、右側面に同騎兵九千、後背にも同騎兵五千。
連合軍騎兵三千の援護により完全な包囲とはなっておらず、相手にも数千の損害を与えているが、いずれ全滅することは目に見えていた。
にも
――私を、待ってくれている。
玉英は目の奥に熱いものを、同時に胸の奥に重く沈むものを感じ、すぐさま両者を
光扇が飛ばした檄は、表現そのものは
王家直轄地の民である。意図するところは当然通じ、
その民の一部――四千余りとなった歩兵が、ほんの二里(約八百メートル)先で、後背の騎馬隊に再度突入されようとしていた。
「雲儼、玲、先行するぞ!」
「ハッ!」「
麾下一千騎が、これまで
捕虜を馬と武器から離した頃、正面に、青淄軍左翼の九千騎――いくらか削れて八千五百騎――が姿を見せた。
青淄軍の指揮官は、玉英軍こそが
玉英軍の左後方……連合軍中央歩兵一万一千、右翼歩兵四千弱の間を、青淄軍歩兵二万近くが
一般的な前提として歩兵では騎兵に追い付けないため、
玉英としては、連合軍右翼歩兵を見捨てれば
数瞬の思考。青淄軍の強気な姿勢が
玉英は
攻撃
移動中のこと、
慌てて青淄軍騎馬隊が
先頭で大剣を
が、大剣の男が青淄軍全体の指揮官にして将軍だったらしく、残る青淄軍も
あっさりと降伏した要因の一つとして、青淄軍が騎馬隊を完全に失っていたことが挙げられる。双方が失っているならまだしも、相手方のみに
乗り手を失った馬と捕虜の武器を集め、
四万五千三百に及ぶ
対して、連合軍の生き残りは二万一千七百。士気は高かったが、兵力差と
玉英軍の犠牲は当たり方と実力差により最小限に抑えられたが、
――すまない。
顔と名を知る玉英軍の者達、
両軍は開戦時「九万と五万余りだった」とのことなので、合計では七万三千以上が死んだことになる。玉英が青東攻略を指示しなければ、少なくともここ何日かで死ぬようなことは無かったであろう者達だ。遅れて来る他の軍の手も借りて、帰せる者は帰してやりたかった。
背に……
――だが、それでも、私は。
ゆっくりと開いた目の奥で、
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