第17話 恵陽
太水、恵水共に中流域で鬼族領域へ入り、太水は大きく東へ転じてから、恵水は
その代表こそが鎮戎公──
朝の日差しは暑過ぎず、寒過ぎず、
三日間の準備を経て
「
形の上では
「ハッ! 私には、荷が重いです」
いくらか
何しろ、朔原軍の半数以上に当たる大軍である。
種族で言えば、
ただし、全軍が共に恵陽を目指すわけではなく、大半の兵の
協力者として、旅慣れた
そうした大集団の中で、玉英
「大丈夫だ!
──雲儼の妻にして熊族の姫、
「ええ、そうですね、玲。よろしくお願いします」
「いいぞ! 任せろ!」
玲の満面の笑みに、雲儼の余分な力が抜けた。
朔原から東の
軍の規模が大きくなり、特に輜重隊が多くなったことで動きに
そこで軍を分け、
朔原東の津を便宜的に
一の津ではまず玉英麾下一万一千が渡渉。北岸の
三の津では三万と
なお、移民計画の
計画は
太西二十
無論、二千以上が暮らすための建築が即座に終わるわけもなく、玉英に率いられた移民が
近場で手に入らない物が必要となれば、各邑の輜重隊と各地を
防備に関しては、太東は鬼族領域との間に相当の高低差があり──鎮戎公領域は全体が高原ないし山岳地帯である──
とは言え、全ての予定地を
恵陽へ到着したのは、朔原を
夏が過ぎ、秋も終わり、冬の
地名に用いる
また、
以上に
これは、
「──こうした
雲儼が、雲理や田額から教わった内容を玉英等に説明していた。
恵陽の
空は晴れ渡り、太陽は真南に近付きつつあるが、冬の装いでなければ耐え難い程度には冷え込んでいた。
輜重隊が
「朔原や
恵陽も、都市の周囲に堀を
「はい。父や
設計した当事者達である。これ以上の証言は無かった。
皆が
「
恵陽までに
「申し訳ありません梁水殿。あれ等については私は存じません。以前見たものとは
と、苦笑して続ける。
「──異なっているようです。城か屋敷で、
教えて貰えるだろう、ということだった。
「
頭を下げる梁水に、
「いえ、その際は
笑顔で答える雲儼。
「妾も聞きたいのじゃ」
「私も聞きたい……
「うむ!」
「「ハッ!」」
誰からともなく笑い合ううちに、およそ二十万の民を抱える
入城手続きは簡素なものだった。
長城と同様
至る所にある修復の
「よくぞ来た、雲儼」
深みのある声も似ている。
二段高い位置の巨大な
「
雲儼が頭を下げた。──「兄」とは言っているが、
「父上は、
「はい、このところは、
「そうか、それは良かった。……田額も、久しいな」
老将に視線が向いた。
「
「ああ、そなたもな」
「
「せっかくだ、ゆるりと旧交を温めたい。
しばしの後、子祐と雲儼、田額が周辺を
「殿下、大変に
「良い。私の案だ。何を責めることがあろう」
既定の方針に付き合わせた形なのだ。
「
再度、額を打ち付けている。──
「良いと言っておる。それより、話すべきことを、話そう」
そう言いながら、玉英は立ち上がった。
場所を移した。
雲仁の私室である。
出入り口以外、全ての
玉英の指示で、子祐や田額、それに別の間から呼び寄せた
「改めまして、
「雲仁、
「ハッ! 光栄に御座います」
玉英は眉尻を下げて笑い、
「
「しかし……」
「良いから座れ。雲理もそうした」
「ハッ!」
各々が着座したところで、一行の者達を紹介していった。
三百年の
「安心しろって雲仁。
最初はいつもの軽口のように、最後は玉英と琥珀へ視線を向け、芯に重いものがこびり付いた声で言った。
旅の中で玉英等は既に聞いていたが、あの
玉英
玉英が突雨、雲仁へそれぞれ頷いて見せると、突雨は
玉英はもう一度頷き、紹介を続けた。
「どの程度、出せる?」
玉英が問うた。
兵力についてである。
話は既に本題──恵陽、
国家
塩は、『神』にとっては
主な産地は海に面した地域──周華北東部の王家直轄領『三つ子半島』やその南の
各産地の製塩業者は
これに
が、最近になって、その塩池周辺へ明らかに良からぬ目的を持った鬼族軍──『三つ子半島』代官の軍が
もう一方の鉄に関しては、良鉄を算出する『三つ子半島』からの移入を
鉄製農具が農業生産を飛躍的に伸ばすことは明らかとなっており、塩
太西の数箇所では近年鉄鉱石が発見されているものの、製鉄業と呼べるまでになるかはまだわからず、
民を
「最大限動員すれば、
「六万五千か」
「
玉英軍は、雲儼と玲の一千騎、突雨の麾下ニ千騎、移民軍三千騎、歩兵一万から
合わせれば、八万一千。
「
燕薊は三つ子半島を管轄する、にも
民の数、五十万。
鬼族領域には鎮戎公領域の
「ハッ! 通常十二万の兵を
「将兵の
「我が方は……」
雲仁はやや言い
「
古参兵が、である。
『三つ子半島』と称される地域の北辺は、鬼族領域としては
条件としては鎮戎公領域に近いが、燕薊は長城
「将は? 代官は
幼い頃、当代の代官とその娘には会ったことがある。娘の方は当時、今の玉英よりも若いくらいの子供に過ぎなかったが、父の方は極めて厳格な男に見えた。
「いえ、
玉英は目を見開いた。
──何故。
と一瞬思ったが、民から
楽家は民を
玉英は民の
「
「御意」
戦に
個々の兵を鍛え、集団としての動きを身に付け、各隊の力を理解した将校が率い、それらを将軍や王が
無論、
「私の軍は、
この四月半、いや、緑野から考えれば半年間、ただ行軍していたわけではない。
行軍しながら各陣形を身体に覚えさせ、夜には──馬は休ませつつ──
玉英自身の実戦経験の
彼等の力を
「殿下、太西、太東の軍から一万騎、お借り出来ませんでしょうか? それと……
「ああ……そういうことか。
「我が
雲仁が
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