第15話 緑野へ
「私も連れて行って下さい!」
会談
犬族の青年
会談当日は
陸繁も
陸繁は
「
突雨が当然の疑問を返すと、陸繁は頭を上げて──突雨を見上げて──答えた。
「
これもまた、当然の推測であった。
突雨とその兄──
次には
「今回は……なんだ、奥地まで行くわけじゃねぇ。
互市で取り引きされた物品は、
「ただ行きたいだけではないのです。お許し頂けるならですが、共に生活し、
熊族の国の
陸繁は突雨を見上げたまま、張り詰めた表情で続けた。
「私は
──美しい天下の全てを……周華に限らない、広大な天下の全てを、琥珀と一緒に見たい。
「私は、構いませんよ」
──それはきっと、美しいものだから。
結局は自らの欲望に過ぎない。しかし、互いのためになる欲望を否定する理由は
「ありがとうございますっ!」
突雨の左、やや後ろから口を出した玉英に、頭を下げる陸繁。……頭を上げながら、
「……
「覚悟の上です」
真っ直ぐに見返す陸繁。
「わぁった。んじゃ、一緒に食おうぜ」
決めてしまえば、あっさりしたものだ。
「ありがとうございます! 今度こそ、その……
「そう、そうらんれすよぉ、
陸繁は、
玉英や
ほんの数口で、
商談に影響するのでは、とつい心配してしまう程の
「あっはっは、そりゃあ
突雨はまだまだ酔ってはいないが、陽気に笑っている。
昨日陸繁の
玉英がある程度の
陸繁は後からそれに気付き、「むしろ儲かってしまっている」と
こうした
「ここまで信頼されると、むず
玉英が苦笑しながら
「玉英が言うのかや!?」
「玉英が言うのか、あっはっは、こりゃあいい」
「自分自身のことは、案外見えていないものだ」
等と口々に言われ、目を白黒させることとなった。
最後の希望として視線を向けた先の
準備には、丸二日掛ける予定だった。
墨全、突雨及び彼等の
この精鋭五百騎の指揮権──
「
雲儼が言うともなく
日当たりの良い練兵場にて顔を合わせた、雲儼に付く
雲理の子供達にとっては、
「
雲理が
「いや、頼りにさせてもらうぞ、爺。私だけでは、
会談ではどうにか無難に過ごしたつもりだが、座っていただけであるにも
それが何によるものなのかはわからないが、きっと田額ならば導いてくれよう。
「ええ、喜んで、若」
信頼と
肝心の軍の内実は、田額の他に、二百五十ずつを率いる副将
田額とその二名に補佐兼
五十を率いる隊長が各副将
雲儼と副将以下を含めれば正確には五百二十騎が、玉英麾下として加わることとなった。
なお、周華における将校は
名目上の身分はあれど、直接雲理に仕えてきた
また、流石に
朔原から東へ一日半。
昼を過ぎた頃、
竜河中流域の幅は
長城の各所へ駆け付けるため、あるいはその先の熊族領域へ打って出るため、雲理は
この津においては一度に最大二千──ということにしてあるが、本当のところは一万である。一行においては雲理から直接聞いた玉英と琥珀、子祐、雲儼、そして津の設計から関わっていた田額だけが知ることだ。
「これはまた……何とも
馬上で目を見開く琥珀。
「
顔を見合わせ、笑う玉英。
兵のみならず馬や
水に親しむ亀甲族と、商売を通じて輸送に精通した犬族とが、双方の強みを発揮して
舟自体にも、馬を安定して運ぶための工夫が
玉英等が感心している間に、猫族と
見える範囲の体毛全てが
「ようこそいらっしゃいました。
慣れているのだろう、温かみのある声で
合計一千騎を超える軍を半刻程で全て進発させる、というのは
玉英は雲儼に目で頷いて見せる。
「
雲儼が馬上から返答する。
雲理と相談した結果、
譲回は一度顔を上げ、
「光栄です、若君」
微笑みながら改めて深く礼をした。
自前の馬車で同行した陸繁や
作業の指示を出しているのは概ね犬族で、荷運びや馬の積み込みに従事しているのは亀甲族が多い。
渡渉は最初に墨全が熊族軍を率いて順次行い、その最後に突雨が、次いで田額が亀甲族軍──
舟に揺られる中で猫族の一部──若い数名──が不調を訴えたものの、
西から東への流れに幾分乗ることを考え、南岸の津よりもやや東寄りへ造られていると
逆方向の渡渉ではいくらか負担が大きくなるが、最も緊急性が高い
最後に到着した雲儼に、譲回と似た、譲回よりはやや大柄な灰毛の犬族が声を掛け、
「こちらの津の指揮を任されております、譲回の次男、
深く一礼した。
「雲儼である。
雲儼も頭を下げた。
譲続も再度頭を下げ、尋ねた。
「
既に夜闇が辺りを包み込んでいる。
舟は
「ああ、頼む」
「はい。では──」
「待て、先に馬の世話をしたい」
玉英一行の
「承知しました。こちらへどうぞ」
馬達は、いくつかの牧に放されているはずだった。
翌朝、譲続に見送られて津を後にし、更に一日半。
長城の数ある門の一つ……もとい大小
長城は防備の関係上、山や丘を利用している箇所が多い。
この門も例に
季節は春。しかしまだ、北の大地が
太陽は長城の
「ひとっ
しばらく
玉英が突雨の後ろ──左後方を振り返って見ると、熊族十騎
全員が
単に突雨を
「私
眉尻を下げて微笑む。
玉英も琥珀も、
熊族の馬は強く、
馬の中でも、
「ああぁ、そう、だなぁ……
切り替えの早さは、突雨の魅力の一つだった。
「はい、是非」
玉英も満面の笑みを返すと、
「良し! そいじゃあな」
「はい、お気を付けて」
「
突雨は十騎を引き連れ、風のように去っていった。
どこまでも続く草原。
雲儼軍が足並みを揃えて行軍する横──あるいは前──で、熊族軍が
馬が駆けたいように駆けさせ、休みたいように休ませる。
戦の最中ならばそうはいかない場面もあろうが、少なくとも
全く統率されていないようでいて、毎夜、雲儼軍より遥かに早く予定地へ集まり、休んでいた。
今回は役目が役目だったため異なるが、本来は各々の兵が何頭もの
ただでさえ個々の馬が疾い上、軍全体が早馬方式で移動するのだから、居るはずの無いところに軍が居る……といった状況が
長城が如何に重要な役割を果たしてきたかを、長城の北へ来て、改めて学んだ。
その、長城を越えてから九日。
朔原から数えれば十三日後の夜。
緑野へ到着した。
長大な城壁を誇る
まずは、いつものように馬の世話を終えてから、場所を借りて預けた。──家畜を管理するための区画は無数にあった。
次いで墨全、突雨に導かれ、玉英は琥珀、子祐、雲儼と共に特別大きな天幕へ入った。
中から見れば明らかだが、多くの柱や板、杭、縄等を組み合わせ、何重にも布を重ねたような造りだ。
夜はまだ冷えるが、火も使えるようになっており、意外な程に過ごしやすい。
内部にはやや不思議な形の椅子が多数並んでおり、それぞれに毛織物が
墨全と突雨は、奥に二つ並んだ大きい椅子へそれぞれ
「適当に座ってくれ」
墨全が手で示した。
「はい」「うむ」
玉英と琥珀は遠慮無く座った。
玉英は左、琥珀は右。玉英の前に墨全、琥珀の前に突雨、といった形だ。
「お前らも座れよ」
突雨が言う。
玉英が振り向いて頷いたことで、子祐、雲儼も席に着いた。──それぞれ玉英の左後ろ、琥珀の右後ろへ控えた。
一呼吸置いて。
「ま、なんだ。改まって言うことなんてのはそんなにねぇんだけどよ」
突雨が切り出した。
「まずは、良く来た」
玉英、琥珀……だけでなく、子祐や雲儼にも笑い掛ける。
「こちらこそ、ありがとうございます」
玉英も笑顔で
「来たかった場所の一つじゃからな」
琥珀も笑い、玉英と顔を見合わせて、花が咲いたように一層笑みを深くした。
「んなら、
到着した段階で既に夜。
そのまま解散しなかったのは、話すべきことがあったからだ。
「元々、
雲儼と、熊族の
「そりゃあ別にいいんだが……」
突雨にしては歯切れが悪く、
「
墨全があっさりと引き取った、が──
「戦……ですか?」
「どういうことじゃ?」
受け取る側の思考が、繋がらなかった。
「正確に言えば、
当然、雲儼軍のことだ。
「ええ。五百二十騎、ですが」
本来の編成に、指揮する者達を加えた数だ。
「その程度の端数は気にしなくても良い。問題は、雲儼の指揮で勝たねばならぬ、ということだ」
「誰に、いえ、何にですか?」
「
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