第12話 鎮戎公
馬はしばしば、『走るために生まれてきた』と称される。
しかし長期的には、速度を抑えて移動した方が、長い距離を少ない日数で
『走る』だけではない。地形こそ選びはするものの、『移動』そのものが得意な動物なのだ。
実際、
その騎乗修練では、
玉英は幼い頃に指導を受けていたため、馬へ話し掛けながら
猫族のうち、唯一体格的な問題の無い
残る猫族は
ともあれ、その後も各々が修練を積みつつ、広大な荒野を抜けて
朔原の
既に、三つの月が出ていたのだ。
「皆、共にここで待つのじゃ」
だが、一行が馬から降り、銀泉で叩き込まれた『休む際には
「そこな
騎乗の
四名連れているが、全員が騎乗しており、
それぞれが兵として十分な体格と立派な
「
玉英に
一挙に見つめられ、見上げられた四名はいくらか
「確かに言葉は悪かった。
と落ち着いた声で言った。
巡邏隊の側からすれば、見慣れぬ二十名の、種族が入り混じった、それも全てが騎乗可能な一団を警戒するのは、当然の責務である。
「うむ。じゃが、
各自が馬の首をゆっくりと
「わかった」
男は、警戒こそ解かなかったが、読むことは拒絶しなかった。
それどころか、いくつも数えぬうちに読み終え、
「大変失礼
無論、断る理由は無い。琥珀は玉英と軽く
「良かろう。頼むのじゃ!」
と笑った。
朔原。
かつて周辺の支配者だった
激しい実戦を前提とした外城壁は高さ
同様に
城塞都市の南西から西、北、そして東へと周囲を取り巻くように
朔原の場合は更に、都市内水路としても整備され、移動、輸送、連絡と、様々に活用されている。周華のほぼ北限、荒野の都市とは思えぬ光景だ。
「なんとも不思議な光景じゃのう」
琥珀が目を輝かせ、笑っている。
琥珀の故郷では湯こそ
「ああ、本当に」
玉英にとっても、伝え聞いた以上の水路の細やかさは
雲儼は、求められれば説明し、されど余計な口出しはせず、馬を引きながら先に立って歩いている。玉英等も同様に続いた。
都市中央を
その道幅は、小さな
対熊族の前線付近にありながら、五十万を超える民が暮らす、
鎮戎公のお
ここまで世話になった馬達を精一杯
鎮戎公の
琥珀が立ち寄ったことで馬房の馬達が
雲儼が声を掛ければ兵達は即座に道を開けた上、
鎮戎公。
周華北部を
周華王室の最も信頼厚き盟友にして、英雄。
果たしてその
既に休んでいたためか、着物はゆったりとしたものだが、
その、山頂だけはほぼ黒に近い
「よくぞ、お越し下さいましたな、殿下」
「「っ!」」
元より鎮戎公には全て話すつもりだったが、一目で見抜かれ、片膝を立てて
背後で控える子祐は流石に
紅水の
「
鎮戎公も
「まこと、お久しゅう
十五年前……玉英が誕生した直後、鎮戎公が王城を
玉英の記憶にあるはずもないのは互いに承知の上。
鎮戎公は、深めた皺を維持したまま、続ける。
「災難でしたなぁ、
それも
玉英も、合わせるようにして答える。
「うむ、
つまるところ、『甘える』のだ。
天下の
鎮戎公の瞳を真っ直ぐに見つめながら、玉英は、自身の
今、この瞬間が、これまでの旅の……いや、『あの日』から続く日々の、一つの
鎮戎公を味方に付けられるか、
鎮戎公の
だが、万が一、ということはあり得る。
もしここで鎮戎公が
それが、周華に
最悪の事態を覚悟し、鎮戎公の次の言葉を待って、いくつ数えただろうか。
子祐よりも更に背後、部屋の入口に立つ雲儼の、
「殿下の
鎮戎公は、玉英等の緊張に気付かぬふりをしつつ、あっさりと立場を表明した。──僭称とは、身分に見合わぬ称号を名乗ることである。即ち、
「
鎮戎公は微笑みつつ立ち上がり、その巨体を玉英の前までゆっくりと動かして、跪いた。
「殿下が周華の民の王たらんとする限り、
ここで
民を
加えて言えば、『鎮戎公は』とすることで、玄家のみではなく、北部を
玉英は立ち上がり、
「感謝する。……よろしく頼む」
微笑んで言った。
「ハッ」
鎮戎公はどうにか玉英を
「殿下、
「玉英だ、雲理」
「まだ、公にはなさらないおつもりで?」
「動きにくくなろう」
いくら鎮戎公──雲理の
仮に『玉英ここに在り』と今すぐ天下に示した場合、周華の民の血がどれ程流れることになるか、わかったものではない。
その上、北部は熊族と接している。
鎮戎公──雲理は、その程度のことは当然理解した上で、
「しかし……殿下のお立場を使わせて頂きたい
と、巨大な身体に見合わぬ
そうすることで、
「策とは何だ?」
「北の、熊族への対処に御座います。実は近いうちに
「何だと!?」「何じゃと!?」
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