四章 部活し〼

4-1

 遠藤君たちの言うとおり、教室で見る浜田君は少し怖く見える。皆より背が高くて、目つきが鋭く、無口だった。よく言えばクールだが、悪く言えば無愛想だ。ただ、口で人を動かすよりも、有効な手段を浜田君は知っていた。なによりそれを恥ずかしがらずにこなして、クラスの雰囲気すら変えることができる。遠藤君にとって浜田君は、学級委員の立場を奪われかねない目の上のたんこぶのような存在なのだろう。皆が浜田君のことを認めているから、なおさらその危機感は強いのだと思う。


 そんな遠藤君に遠慮をして、浜田君は必要以上にしゃべらないのではないだろうか。授業中も、先生にあてられた時には答えるが、自分から挙手して答えることはなかった。ただしその解答は、先生の解説がいらないくらい完璧だった。班ごとの話し合いでも、浜田君はずっと黙って人の話を聞いていて、最後に「俺もそれでいいと思う」と、うなずくだけだった。話し合いが脱線しそうになったり、迷走したりした時だけ、「こうじゃないか?」と疑問形で意見を言って話を元に戻す。給食の時も、誰かと話すことはない。ただ黙々と咀嚼して飲み込み、誰よりも早く片づけを終える。そして当然のように、他の男子が参加する余り物をかけたじゃんけん大会に加わることもなかった。掃除の時、役割を与えられた時だけ、「はい」と言ったのを聞いた。


 今日から部活の体験入部が始まる。子安先生に出した仮入部届は、この体験入部を終えてから変更がなければ、本提出となる。僕はいそいそと体育着に着替える。深い緑色に白い線が映える半ズボンと、白い半袖の胸元にはやはり緑色の雪の結晶をモチーフにした校章が入っている。冬用の長袖と長ズボンのジャージも深い緑色で、白いラインが入っている。なかなか凝った体育着で、僕はSの物よりこちらの方が好きだった。


「その後、何もないが?」


 浜田君が突然話しかけてきたので、僕は少し驚く。僕は着替えた服の上にランドセルを置き、お守りを見せた。


「婆ちゃんが作ってくれたんだよ」


「なるほど。どちらも手作りで、願いのこもった呪物か。このお守りは、祈祷したり中身にちゃんとしたモノ入れたりしてんなが?」


「中身は刑事さんの名刺。名刺に祈祷は普通やらないよ」


 僕が苦笑すると、浜田君は眉間にしわを寄せて深刻そうに顔を歪めた。


「それはまずいかもしれない。俺の思い込みであればいいげど」


 お守りに触れていた浜田君が、お守りをゆっくり放した。名残惜しそうな扱い方に、僕は浜田君を優しい人だと思った。


「一緒に体育館に行っもいい?」

「いいけど、出部落とかかわるな、って言われなかったが?」

「言われたけど、浜田君はいい人だから」

「お前、それでよく今まで生活できたな。少しは警戒したり怖がったりするもんだろ?」


 浜田君はあきれた様子で溜息を吐いた。


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