3-5

「偉かったってこと?」

「違うよ。服が透明で、恥ずかしい思いをしたってことだべ?」


 無知には見えない服を着て街を練り歩く王様に、一人の子供だけが、王様が裸であることを指摘する。周りの大人たちや王様は、自分が無知と思われたくはないから、「服」が見えるようにふるまっていたのだ。僕も同じだ。自分の無知を知られたくないから、皆に海外のお土産をわざわざ買って、一目置いてほしかったのだ。本当は隣県の事すら何も知らないほど、無知だったにもかかわらず、クラスでの自分の地位を安っぽいお土産で買おうとしていた。僕は自分自身の浅はかさと、そんな僕を受け入れようとしてくれる今のクラスの皆に、込み上げてくるのを感じた。


「僕はS市で、本当のことを言ってくれるような友達がいなかった。だから僕は、何か勘違いをしていたんだと思う」


 それは、僕の本心だった。


「だったら、浜ちゃんに気軽に声をかけない方がいいよ」


 僕は遠藤君が浜田君のことを「浜ちゃん」と親しげに呼ぶのを少し意外に思った。


「何で?」


「だって、必要最小限しかしゃべらないから、つまらないよ。いつだったか、隣のクラスの女子にマジ切れして、超怖かった」


「おとなしい人ほど切れるどヤバイって、言うべ?」


「確か姫野とか言う奴だったよな。いきなり怒鳴られて、泣いて戻っていったの」


「え? そうなの?」


 僕は「姫野」という名字にびくついた。昨日は、姫野が浜田君を呼び捨てにして、叱責していたように見えた。一体姫野と浜田君はどういう関係なのだろう。あの話し方から察すると、姫野も人形供養を知っているようだった。もしかしたら、オカルト的なことを知る仲、ということだろうか。


「ねえ、出って三人とも知ってるの?」


 三人が顔を見合わせて、妙な間が出来た。僕は何も言わずに黙っていた。


「ああ。浜ちゃんがそこの部落から来てる」


何故か苦虫をかみつぶしたかのように、遠藤君が言った。


「でも、婆ちゃんも爺ちゃんも出の話しは、あんまりしたがらないんずにゃ」


「んだにゃ。うぢもだ」


「姫野って人も、元々出の出身だったりしない?」


 僕が何気なくそう言うと、三人は驚いたように顔を強張らせ、絶句していた。


「婆ちゃんがら聞いだんが?」


「ううん」


 三人は不思議そうな顔をした。まるで僕がそのことを知っていることが不吉であるようだった。


「んだよ。姫野って出の端っこだったんだって」

「姫野が幼いうちに六日町に引っ越したって言ってた」

「んで、姫野と浜ちゃんが……」

「でも、ただの噂だろ?」

「いや、もしかするがもよ」


 三人がまるで悪だくみをしているように笑っていた。先ほどまでの緊張感は影も形もなくなって、そこにあるのは子供っぽいにやけた顔だけだった。


「何? どうしたの?」


 今度は僕が不安な顔をする。何か浜田君にとって、不利になるようなことを言ってしまっただろうか。遠藤君が僕の耳に手をあてたので、僕も体を傾ける。


「浜ちゃんの家、許婚を決めてるって」


 ヒソヒソとした声で遠藤はそう言うと、笑いながら離れた。僕は「許婚」という、時代劇やドラマに出てくるような単語に、耳を疑った。しかも今の話の流れから推測すると、浜田君と姫野という女の子が許婚同士のようではないか。完全に固まった僕の横で、三人が笑いをかみ殺していた。




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