モンスター高校生
練習に復帰した新堂は存外にサボることもなく、真面目に練習を続けた。伊吹に完膚なきにまでやられたことと、彩音や菊池をはじめとした叱咤激励が効いたのかもしれない。
彩音が来る前はサボりがち言われた練習にも毎日来るようになった。それどころか、修行僧並みのストイックさを持つ伊吹と程近い内容の練習量をこなすようになった。
新堂は宣言通りに心を入れ替えた。まるで別人のようだった。
周囲は「彩音ちゃんに会いたいから毎日来るんだ」とからかっていたが、それだけでは説明がつかないほど練習に身を入れるようになった。
鬼のような練習は毎日続いたが、新堂が精神的に「化けた」せいもあってか、部員達は良い意味で触発された。だから誰一人として脱落者は出なかった。
むしろ互いを鼓舞し合い、誰よりも努力しようという者の方が増えていった。この高校ボクシング部には修行僧のような奴らが何人もいる。
練習の中で最も実戦に近いのは本気で殴り合うスパーリングになる。この練習でどれだけの動きが出来るかで、実地のパフォーマンスを見積もることが出来る。
スパーリングは毎日行うわけではなく、日々の練習ではマスボクシング程度に留めるのが通常だ。本気で毎日殴り合えば、いくら元気のあり余った高校生でも壊れてしまうからだ。
だが、毎日行われる伊吹と新堂の「マスボクシング」はスパーリングに程近い内容となった。これは二人が憎み合っているからではなく、良い意味でのライバル関係があった成立したからだ。
つぶし合いとまではいかないまでも、交わされるパンチは強く、速い。これが並の選手であれば容易にノックアウトされる。二人は冷静さを保ちつつ、自身の課題をこなして改善点を探っていく。それこそ修行僧のように自分を高めていくのであった。
上位になればなるほど選手の力は拮抗してくる。その中で抜きん出るには日々の練習で自分の限界へと挑戦して、少しでも引き出しを増やしていくしかない。
結果として二人のマスボクシングは技術戦でありながらしばしば物騒な内容になった。時折菊池が止めないとエキサイトし過ぎるきらいもあり、ギリギリの練習をしながら二人で高め合っていった。
リングの上では、超高校生級の新入生がフェイントをかけ合い、恐ろしい速度でパンチを交錯させていく。10年以上前の高校生ボクサーであれば、誰がやってもこの二人には勝てないだろう。
「こりゃあ、同じ高校でインターハイの決勝もありえるな」
菊池がニヤリと笑った。
彩音も全国の強豪選手を研究するようにしていた。実物ではなく動画サイトやスマホで撮影したものを見ただけだったが、それを差っ引いても伊吹と新堂はバケモノだった。
菊池の声が聞こえたのか、リング上の「マス」がより激しくなる。目の前の二人は、本気で全国を獲るつもりのようだった。
『もしかしたら、わたしは本当にすごい選手と同じ時代を生きているのかもしれない』
彩音の胸が高鳴った。
目の前の二人は変わらずパンチを交錯させる。その姿に、輝ける栄光の予兆を見た気がした。
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