第9話 窃盗団
島主が来てから数日が経ち、セラの体調も回復した。
「母さん、あの人たちは島の偉い人たちだったよ。最近、窃盗団がいるから見回りしているんだって」
「そうみたいね。でも、ノルド、名前も聞かずに家に上げてはいけないよ」
「ごめんなさい」家に人が来ることがほとんどなく、どう対応すればよいか分からなかったのだ。
「じゃあ、ノルド、この服を着てみて!」
ノルドの服装は、セラが作った特別な冒険者の服だ。急所となる首まわりや胸、関節にはパッドが入っている。ポケットも多く、ベルトにはポーチやダガーケースなどを装着できる。
「わぁ!ありがとう、母さん。」彼は姿見で自分の姿を見つめながら声を上げた。
「うん、かっこいいよ、ノルド。」
冒険者のセラならではの工夫が随所に見られる。素材にもこだわっているのだろう。
「森に入るときは、必ず着て行ってね」
セラたちは家の裏庭に移動し、戦闘訓練を始めることにした。
彼女は冒険者としての基本から話を始めた。
「周囲を警戒して進みなさい。ヴァルとノルドなら、ほとんどの敵より先に気づくはずよ。強そうなら、必ず逃げなさい。体力は常に全快近くしておくこと」
「はい!」
「じゃあ、武器の練習をしましょう。まずは短剣から。素振りを毎日してね」そう言って、彼女は腰の短剣をノルドに差し出した。その短剣は、大魔熊を倒すときに使ったものだった。
「こんなすごいもの、使えないよ」
「ううん。冒険者のジョブを得たら、ノルドの剣を渡すわ。少ししたら、打ち合いをしましょう。それと、これもね」
それは、この前、陶器市にセラと町に出かけた帰りに寄った武器屋で買ったダガーナイフの入ったダガーケースとダーツケースだった。
「ありがとう。」
「ええ、使い分けを覚えてね」
「クウーン」ヴァルが甘えた声を上げる。
「あら、ヴァルも戦いの練習をするの?偉いわね。ヴァルの武器は爪と跳躍よ。もう脚は痛くない?」
「クウーン」
「ふふふ、これはヴァルにね。ノルド、はめてあげて」
セラの手作りの、金属がついた首輪があった。
ヴァルは興奮した顔で耳を立て、尻尾を振り、目を見開いて「アオーン!」と嬉しそうに鳴いた。
セラは、ヴァルの耳元でこそっと何事かを呟いた。
※
汗がシャツに張り付き、全身が水を浴びたようだ。太陽の光は木々に遮られ、風も吹いているのだが、ノルドは必死に探し物をしていた。
「ヴァル、次はこの草を探してくれ!」彼は手に持った草を鼻に近づけた。
ヴァルは短く「ワフッ……」と一声あげたが、それにはどこか迷いが含まれていた。
「うーん。もう森の浅い部分には無いかもしれないな」
ノルドは今後のために、一般的に薬草と呼ばれる体力回復に使う薬草だけでなく、本で調べたさまざまな効能のある薬草を集めていた。
特に「エルフツリー」は、エルフの棲む森に多く生育しており、魔力を蓄える魔法樹木だ。その樹から採れる樹液は、さまざまな魔法薬の材料として使われるため、非常に貴重である。できれば見つけたかった。
「もう少しだけ奥に行こうか?」
ヴァルは「グルル」と唸り、拒否を示したが、ノルドはすたすたと奥に歩いていくので、しぶしぶ従った。
「ウッドサーペントだ!」と目敏く見つけると、腰に差しているダガーを手に持ち、投げつける。「的中だ!」蛇は木に磔になり身動きができなくなり、ノルドは近寄って短剣でとどめを刺した。
「どう? 上手いだろう」
「ウッ、ワン」と低く感心した声をヴァルは上げたが、何かに気がついたように顔を向けた。
「そこに投げたら、ダガー取れなくなるよ」
「キューン」とヴァルから指示が飛ぶ。
「わかった!」
高いところにいる蛇に向かってヴァルを放り投げる。
「ワオーン」小狼は爪を出し、凶暴になった前脚で蛇を地面に引きずり下ろす。
鋭い蛇の牙がむき出しになっても、彼は怯まずにその頭を押さえつけ、ノルドがとどめを刺した。
※
「人の足跡だ。幾つもある」ノルドは、地面を見ながら、人数を数えた。こんな小さな魔物の森に冒険者とも思えない。一体何の用だ?
「4人かな。どっちに行ったのかな?」明らかに足の大きさ、形、歩幅だけでなく、4人には靴の形にも違いがあった。
「アウッ!」ヴァルは、警戒をしながら、彼を誘導して進む。
ばっと、森の中に、明るい場所が現れた。小さな湖に、かかるように一軒の小屋があった。
「知らなかった」隔離された静かな空間で、誰かが昔住んでいた家だろう。母さんなら知っているかも知れない。
小屋の中からは、大声の人の話し声が聞こえている。ノルドやヴァルは、その聴力で話の内容も迄きちんと聞こえる。
「じゃあ、島主達が近くに来てたのか?」低い男の声だ。貫禄がある話し方でリーダーらしい。
「ああ、窃盗犯だと思って魔女のところに行ったらしいぜ。森も調べずに帰った癖に、ローカンが俺達警備隊宿舎迄来て自慢げに話していた」
「ふん。魔女ねえ。どうせ、醜女でしょ」女の見下した話し方が聞こえる。
「ああ、見るに耐えないと噂だぜ」警備隊員だと思われる男が同調する。
「だが、体は良い具合かも知れねぇ。味わって見るか」若い男の声だ。
「あんたはすぐそれだ。私にしとき」
小屋から聞こえてくる会話に、ノルドは、烈火の如く怒り、短剣を抜こうとして、ヴァルに手を抑えられた。ノルドは冷静になり、近づかずに、木々の中に身を隠し耳をそばだてた。
「じゃあ、そろそろ出かけるか。商人は、迎えに来てるのか?」
「ああ、いつもの所だ」
「それで警備は?」
「問題無い。俺の仲間が夜警だ。後始末も上手くやるよ。それで分前はいつものように頼むぜ」
「ははは、期待しておけ、しかし、お前達も大変だなぁ。」
「ああ、新しい島主ときたら、やたら厳しくてな。ちょっと、俺達が警備料貰うだけで、首にしやがる。島主に同調していた奴らは痛い目にあってもらうよ」
ごそごそと準備をする音が聞こえた後、小屋から4人が出て行った。ノルドは少し離れた場所から鋭い視線で様子を伺っていた。
厳つい大男、ふらつきながら歩く痩せた小男、腕に鮮やかな刺青を施した女、そして島の警備の正装を整え、険しい表情を浮かべる男。
「あいつらが窃盗犯だな。どうしよう」警備隊にも、窃盗犯の仲間がいる以上、告発しても逃げられてしまうだろうし、恨まれるかも知れない。
「とりあえず、小屋を見てみよう。行くよ、ヴァル」小屋には、鍵もかけられておらず、すんなりと入ることが出来た。部屋の中は、掃除もされておらず、埃も溜まっているが、食べ散らかした食事の残飯と、窃盗団の荷物がまとめられていた。
荷物の奥に、持ち運びできる宝箱が置いてあった。ヴァルが匂いをかく。
「お金が入っているね」「ワオーン」
ノルドは、彼らを捕まえる準備を始めた。
【後がき】
お時間を頂き、読んで頂き有難うございます。⭐︎や♡等で応援頂きますと、今後も励みになります。又、ご感想やレビュー等も一行でも頂けますと、飛び上がって喜びます。 引き続きよろしくお願いします! 織部
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます