第39話 似たもの母娘

 芽那ちゃんのお母さんが夕ご飯を作ると聞き、僕もなにか手伝えないかと聞いた。

 でもやんわりと断られ、芽那ちゃんと一緒にリビングで待っていることにした。


 ぬくぬくのコタツに入りながらテレビを観ていたら、じわりと寄ってくる。

 そしてピットリと肩をくっつけてきた。


「ねぇねぇ、せいちん……いいね、こういうの!」

「そうだね。あったかくて最高だよ」


 そう言うと、コタツの中にある彼女の手が、僕の太ももに触れる。


「芽那ちゃん……!?」

「ごめ~ん、やっぱせいちん見てると我慢できないや……」

「ま、待って! お母さんもいるし……」

「大丈夫だって~、コタツで見えてないよ~?」


 サワサワと太ももを撫でられる。

 芽那ちゃんは身体の向きをこちらに変え、僕の側面が彼女の胸やお腹に当たってしまう。


「ほらぁ、こうするとも~っとあったかいよ~?」

「……あ、あったかいけどさっ」

「耳、真っ赤じゃ~んっ、きゃははっ!」

「しょうがないでしょ……こんな状況じゃ」

「可愛いなぁ……お耳、食べちゃおっ、はむっ」

「ぬわぁっ!?」


 なんと芽那ちゃんは僕の耳たぶを口に含んだのだ。

 唾液にまみれたヌメヌメとした感触が伝わってきて、思わず声が出てしまった。


 横目でお母さんのほうを見ると、まったく気づいていない。

 ……いや、逆に不自然だ。

 声まで出ちゃってるのに、気づかないなんて……。


「せいちんの耳、おいし~」

「……そうなの? じゃなくて! ちょっとっ、もう勘弁してっ……」

「はむはむっ、まだダメ~」


 温かい息を吹きかけながら、芽那ちゃんは耳たぶを吸う。

 手は太ももから下腹のほうへ移動し、そこをずっと撫でられた。

 小指だけを服の下へ忍び込ませてじかに触ってきたりと、やりたい放題だ。


 しかし、こんな状況だというのに、お腹が吸いてきた。

 グルグルという音が響く。


「ご、ごめん……」

「きゃははっ! お腹空いちゃったんだ? そうだよねぇ、お腹空くよね~」


 そう言い、芽那ちゃんは僕のお腹を撫でる。

 なんかこの母性のある感じ、お母さんとそっくりなんじゃないか?

 こういうところは遺伝しているのかもしれない。


「ウチのこと、食べちゃう~?」

「な、なに言って……」

「きゃははっ、なーんてねっ」


 芽那ちゃんにからかわれていると、お母さんが鍋を運んできてくれた。


「は~い、お待たせ~」

「うぉおおっ!」


 肉が多めでありながら、野菜もしっかり入っている寄せ鍋だ。

 すごい量があるけど、この島ならこれで標準。


「さぁ、召し上がれ~」

「いただきます!」

「いっただっきまーす!!」


 コタツと芽那ちゃんの温かさを感じながら、熱い鍋をかっ食らう。

 そうすると芯から温かくなり、充足感に満ち溢れた。


 寮の食堂で出るご飯も、もちろん美味しい。

 でも鍋を囲む、というのは家でしかできないことだ。


 そのありがたさに感謝しながら頬張っていく。


 すると、なにかが足に当たる。

 たぶんこれはお母さんの足だ。


「す、すみません!」

「ん~? いいのよ~、気にしないで。これもコタツあるあるよ、うふふっ……」


 彼女はなぜか嬉しそうな顔をしている。

 そして目を伏せた。


 すると、お母さんの足が優しく僕に当たる。

 ……いや、これは当たってるって感じじゃない!

 スリスリと撫でてきているんだ。


「えっ、あっ……」

「ごめんなさいねぇ、足……当たっちゃうわねぇ」

「い、いいえ……」


 お母さんはモグモグと食べながら、器用に足を動かして僕を撫でてくる。

 しかも背も高いから脚も長く、どんどんと上のほうまで来るのだ。


 けど、僕を撫でてくるのはお母さんだけじゃない。

 芽那ちゃんも箸を持たないほうの左手で、隙あらば僕を触ってくる。


 この親子、やってることが完全に一緒だ。


 僕が腰を引くと、それを見てお母さんはニヤニヤとしていた。


 色んな意味でお腹いっぱいになる。

 洗い物も手伝わなくていいと言われ、ドキドキを静めることに努めた。


「そうそう~、お風呂も入っちゃってねぇ」

「……いいんですか?」

「もちろんよ~。あったかくて気持ちいいわよ~」


 頭の隅にはあったけど、お風呂までいただけるとは。

 いつも大浴場で短時間に済ませていたから、ゆっくりと浸かることのできる家のお風呂は助かる。


「それじゃあ、いただきます!」

「えぇ。もう少ししたら入ってきてちょうだいね~」

「ありがとうございます」


 ということで、お風呂をいただくことになった。

 しかも一番風呂。

 ここは謙遜せず、ありがたく入ろう。


 大きな一軒家ということもあって、お風呂も結構大きい。

 これに毎日入ることができるなんて、まさに極楽というのものだろう。


「ふぅ~」


 湯に浸かった瞬間、おじさんみたいな声が出てしまった。

 それほどまでに気持ちがいいんだ。

 リラックスしすぎて眠気までやってきそうになるけど、ここは堪えないといけない。


 目を閉じて癒やされていると、脱衣所に誰かが入ってくる音がした。


「えっ!? ……だ、誰?」

「あら、ごめんなさい! 洗濯物を整理しようと思っててねぇ」

「そ、そうですか……」


 なんだろ、洗濯物の整理って……?

 よくわからないけど、芽那ちゃんのお母さんだったようだ。


 ドア越しに彼女は僕に話しかけてくる。


「こ、これ……青霄くんの洗濯物~?」

「あっ、すみません! そのままで大丈夫です」

「そんな水臭いこと言わないで~。一緒に洗っちゃうわよ~?」

「あ、ありがとうございます……」

「いいえ~」


 服はともかく下着は寮に持って帰ろうかと思っていた。

 でも親切にも洗濯してくれるようだ。


 ゴソゴソ、と音がする。

 僕の服を洗濯機に入れているんだろうか。


「はぁはぁ……」


 それに混じって、なんか声が聞こえる……。

 お母さんの荒くなった息づかい、唾を飲む音。

 なんでそんなのが聞こえてくるんだ!?


 数分経過しても彼女は脱衣所から出ていかず、ドアから見えるシルエットはずっと小さく動いている。


「あ、あの……どうかしました?」

「えぇっ!? いえいえっ。男の子の服ってどうやって洗うのかなぁ~って思っただけよ~」

「そうですか。たぶん、同じだと思いますよ」

「そうよねぇ~、ははは……もう私ったら、イヤねぇ~」


 そう言って、ようやくお母さんは脱衣所から出て行った。

 僕もそれに合わせてお風呂場を出る。


 脱衣所はお母さんの匂いで充満していた。


「まさか……」


 疑いたくはないけど、洗濯機の中にある自分の服を確認した。

 上着とズボンは裏返しにしてもらっている以外は特に変化がない。

 ちょっとシワになっているような気もするけど。

 問題は……やっぱり下着だ。


 パンツを取ると、すぐに異変に気づく。


「こ、これって……」


 赤いなにかが付着していた。

 おそらく……お母さんのしていたリップのものだろう。


 つまり――。


 僕はこれ以上は考えてはいけないと思い、そのまま下着を洗濯機に放り込んだ。


 その後は他愛もない話をして、団らんの時間を過ごす。

 しかしそのあいだも、さっきのことがよぎってしまった。


 来たときに言われていたように、芽那ちゃんと同室で寝ることになる。

 いつもそうだとはいえ、妙に緊張するな。


 部屋に入ると、布団が2つ。

 しかもピッチリとくっつけて敷かれていた。


「なっ……!?」

「お布団はウチが敷いておいたからねー! 深い意味はないよ~? きゃははっ」


 他意しかない敷き方。

 寮にいるときはベッドだし離れているしで、ここまで密着することもない。

 これはまずい。


 興奮で汗が流れると、後ろから声がかかった。


「わ、私も……いい? その~、ママ寂しくなっちゃって……」

「いいよー! ママも一緒に寝よー!」

「ありがとう、芽那~。青霄くんは……どう?」

「僕も……だ、大丈夫ですよ」

「本当~? 嬉しいわぁ~」


 さらにマズい事態になってしまった!

 あろうことかお母さんまで一緒に寝ることになったのだ。


 これは……波乱の予感!


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