第36話 メス犬2匹のお散歩

 ある日のタイマン授業。

 僕は福里さんと翠玲にそれぞれ挑まれ、どちらにも勝利した。

 この2人は他の子のように色仕掛けを使ってくるわけではない。

 正々堂々と勝負をして勝とうとしてくるものの、負けるのも目的に見えてくる。


 僕としては勝負には勝ちたい。

 でも勝ったときの要求を考えるのが大変だと思っていた。


 フィールドに大の字になっている福里さん。

 そして僕のほうを見ながら微妙にいやらしい顔を浮かべる翠玲。

 二人を眺め、どういう要求にするか思案する。


 すると、バッと福里さんが勢いよく起き上がった。


「アタシ……いいこと思いついたんだけど」

「いいことって……要求のこと?」

「そう。妙案」


 前にもこういうことはあったけど、決まって彼女のマゾヒズムを刺激するようなものだった。

 今回もやっぱりそういう感じでくるんだろうか。


「……どんな内容?」

「……ペ、ペット」

「え?」

「だから! ペットになるって言ってんの!!」


 福里さんは焦りと羞恥が入り混じったような顔でそう提案してきた。

 説明をすっ飛ばしすぎて、なにを言っているのかわからない。


「ペットになるって……どういうこと?」

「まぁ、たとえば……さ、散歩してみたり?」

「散歩? 一緒に歩けばいいの?」

「それだとペットになんないでしょうが! ちょっと待ってて……」


 福里さんは観客席からカバンを持ってくる。

 そして中身を漁ると、なにかを取り出した。


「こ、これ……首輪とリード」

「えぇ!? なんでこんなのが……」


 大きめの赤い首輪とリードがカバンの中から出てきたのだ。

 ペットを飼ったことがないからわからないけど、たぶん犬用だと思う。


 僕と同じく、翠玲もその様子を見て呆気にとられている。


「や、安かったから買っただけだし……」


 福里さんは謎の言い訳をする。

 でもどう考えたって、今日使うために買ったんだろう。


「これを福里さんにつけて……散歩するの? 結構大変だと思うけど……」

「大丈夫だって! アタシのことは気にしないでいいから……」


 気にしない、なんてことができるわけがない。

 その行為自体もそうだけど、周りからどんな目で見られるのやら。


 黙って興味深そうに聞いていた翠玲が口を開く。


「愛凪ちゃん、それってまだあるか?」

「え? うん。予備も買っといたから……これ」


 そう言うと、もう一つ首輪とリードが出てきた。

 こちらは青色のようだ。


「よし、じゃあ俺も青霄のペットになるぜ!」

「えぇ!? 翠玲まで!?」

「いいだろ、別に~。どうせ要求は考えられてないんだろ?」

「そうだけどさ……」


 一人でも大変なことになりそうなのに、まさか二人相手になるとは。


 困惑する僕の手に、それぞれが首輪とリードを渡してくる。


「えっ……僕がつけるの?」

「そりゃ……それも醍醐味、っていうか」

「ほら、早くつけてくれよー! 飼い主だろー?」

「わ、わかったから!」


 首輪の構造は単純で、見ただけで付け方はわかった。

 手を伸ばし、まずは福里さんの首に装着していく。


「んっ……」

「痛くない? こんなもん?」

「大丈夫……もっとキツくしてもいいから……」

「だ、ダメだって……」


 調整のために締めると、彼女の顔は赤くなっていく。

 目もうっとりしているような気がするし、本当にこういうのが好きになってしまったようだ。


 もう一つの首輪も翠玲に装着する。


「あははっ! これで俺は青霄に逆らえないわけか~」

「そんなことないと思うけど……」

「命令されたら、なんでも言うこときかないとなー!」

「す、翠玲……」


 ニヤニヤと笑いながら、嬉しそうに首輪を付けられる翠玲。


 リードもそれぞれにくっつけると、2人は示し合わせたように四つん這いになった。


「えっ!? そ、それで散歩するつもり!?」

「ぺ、ペットなんだから当然っしょ……」

「そうだぞ! あははっ、青霄に見下されるなんて新鮮だな~」


 逆に僕はいつも見上げている2人が四つん這いになり、見下ろす側になっていることで、なんともいえない背徳感が湧いてきた。


 後ろへと回ると、大きなお尻が2つ並んでいる。

 それを凝視した僕は、ゴクリと生唾を飲んだ。


「膝とか手が痛くなると思うから、少しだけね」

「だから気にしないでって言ってんのに……」

「オッケー! 俺は適度に休ませてもらうぜー」


 そうして僕らのお散歩は始まった。


 2人がのっそのっそと歩く様子を、後ろから見る。

 動くとさらにお尻は揺れて、そこから目が離せなくなりそうだ。


 しばらくフィールドを散歩していると、当然ながら他の子に見つかる。

 大きな声で騒がずに、遠巻きに見てヒソヒソと話しているのが聞こえた。


「ねぇねぇ、見て見て! 羽黒くんが……」

「えっ、ほんとだ……なにやってんだろう?」

「そういうプレイ、ってこと? なんかエロいなぁー」


 そう感想を言われてしまうと、意識しないでおこうと思っても意識してしまう。

 2人も同じようで、後ろから見える耳が赤くなっていった。


「福里さん……こんな感じでいいの?」

「うん、いい感じ……はぁはぁ」

「そ、そっか」


 なにはともあれ、喜んでくれているならよかった。


 散歩を続けていると、芽那ちゃんの姿が目に入る。

 彼女はこちらの様子に気づいて近寄ってきた。


「きゃははっ! せいちんってば、そういう趣味あるんだー?」

「い、いいやこれは……」

「否定しなくてもいいでしょー? ペットとご主人様ごっこって感じ? いいなぁ、ウチもせいちんのペットになりたいかもー」

「芽那ちゃん……」

「あっ! でもせいちんがウチのペットになって、たくさん可愛がってあげるのもいい! ペットだからぁ、色んなお世話してあげてー……うへへ」

「じゃ、じゃあ、僕らはこの辺で……!」


 涎を垂らして妄想する芽那ちゃんにビビりながら、僕らは先に行く。


 その後も歩き続けていると、福里さんが左右にプルプルと震えだした。

 そろそろ膝や腕が限界なんだろう。


 ということで立ち止まる。


「福里さん、大丈夫? この辺で終わろっか?」

「いや、そうじゃなくて……」

「ん? どうかしたの?」

「と、トイレに行きたくなってきて……」

「行ってきて、行ってきて!!」


 僕は慌てて首輪からリードを外そうとした。

 しかし、彼女は真っ赤になった顔でその手を止める。


「このままでいいから……」

「こ、このまま!?」


 驚く僕の横から、翠玲が顔を出す。


「そっか! ペットだから外でするんだよな! 電柱にぶっかけるアレだ!」


 彼女の言葉を聞き、福里さんと僕は赤面する。


「す、翠玲! そんなのダメに決まってるでしょ!」

「えーなんでだー? 俺は構わないぜ?」

「ダメだって! それ軽犯罪だから!!」

「ちぇー」


 天然なのか狙って言っているのか。

 どちらかわからないけど、翠玲の爆弾発言にはよく振り回される。


 一度タイマンのフィールドから、学園へ帰って来る。

 そしてそのまま2人を校舎の中で歩かせながら、トイレへと向かった。


「じゃ、行ってくる……」

「う、うん」


 福里さんは首輪に繋がれたままトイレに入った。

 小刻みに動くリードにドキドキとしてしまう。

 リードを持っているため、耳を塞ぐことができない。

 色々と生々しい音が聞こえてくるものの、グッと我慢した。


 翠玲は外で僕と待つ。

 でも立っているわけじゃなくて、犬が後ろ脚で立ち上がるときのようなポーズをしていた。

 人がそれを真似ると、まぁ……当然、スケベなものになる。


「どうだ? 上手くできてるだろ!?」

「そうだね……?」

「そうだね、じゃなくて! 上手くできてるって思うんなら褒めてくれよー! 飼い主だろー! ワンワン!!」


 そう急かされ、彼女の頭をよしよしと撫でる。

 すると満足そうに口元を緩めるのであった。


 トイレからでてきた福里さんはスッキリとした顔をしながら、当然のように四つん這いで帰ってきた。


 すると同時に授業終了のチャイムが鳴る。

 なんかホッとしたような、名残惜しいような。


「あっ……もう終わりか」


 福里さんはかなり残念そうに呟いた。

 僕はそれを励まそうと声を掛ける。


「その……またしてあげるからさ! そんなに気を落とさないで」

「マジ!? ……じゃなかった! まぁ? どうしてもっていうなら……いいけど」

「俺はいつでもいいぜ! 結構楽しかったしな! 次はコスプレとかもアリじゃないか?」

清藤きよふじ……アンタ、いいアイデア出すじゃない」

「そうか? あははっ!」

「豚、牛……アタシ的にはその辺がいいかも……」

「おっ、いいな! ペットというか家畜だけど! あははっ!」


 妙に意気投合してしまった2人。

 依然として犬のように四つん這いになる彼女らの姿を見ながら、僕は将来的に待ち構える特殊プレイにドキドキするのであった。


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