第34話 バニーたちに食べられる

 翠玲の声を辿って走っていると、観客席の近くのロッカーからヒラヒラと振られている手に気づく。

 きっとあれだ。


「青霄、こっちだ」

「うん! 今行く!」


 足下を見ると、彼女の履いているズボンが見えた。

 やっぱりバニーガールにはなっていないらしい。


 そう思い、一気に安心して近づいた。


「はぁはぁ、助かったよ……あのままだと僕、本当に食べられて――」


 目線を上げて翠玲の全貌を見た瞬間、僕から出かかった言葉は詰まった。


「そ、その耳……」


 なんと翠玲の頭には、芽那ちゃんたちと同じようにバニーの長い耳がピンっと立っていたのだ。


 でも服装はバニーではなく、執事が着るような燕尾服になっている。

 これは一体……。


「あぁ、俺もバニーみたいなんだ。つまり……悪い、青霄。俺は……あんたの敵だ!」

「なっ……!?」


 一瞬にしてロッカーを背に、翠玲に壁ドンされてしまう。

 手だけではなく、長い脚の膝が僕の股のあいだに打ち付けられていた。


「嘘でしょ、翠玲!? だ、だって……服がバニーじゃないのに……」

「確かにバニーガールって感じじゃないが、オオカミでもないだろ? でもバニー要素はあるんだぜ? この耳に……この尻尾もな!」


 そう言うと翠玲は僕の手を掴み、そのままお尻を触らせてきた。


「ぬわぁああっ!?」


 柔らかくてでっかいお尻の感触が手を満たす。

 その興奮のなかでも、彼女が言ってたようにウサギの丸い尻尾の感触も確認できた。


 やっぱり翠玲はバニーチームということらしい。


「わ、わかったから! 手がっ……ちょっとっ」

「いいのか? 離して。青霄はこっちも好きなのはお見通しなんだぞ?」

「え……?」

「俺の尻が触りたくて仕方なかったくせに、あははっ。いつも後ろに立ったとき、俺の尻ずっと見てるだろ? 気づいてないとでも思ったのか?」

「あ、いや……」


 ガン見していた。

 だってしょうがないじゃないか。

 歩くたびにピチピチのズボン越しにバルンバルンって揺れられていたら。


 実際にこうして触らせてもらっていても感じる。

 このお尻の弾力と、ほどよい筋肉量。

 これを枕にして寝れば、どれだけ安眠できるだろうか……。


 なんてことを考えているのを、すべて看破されていたらしい。


「ほら、どうした? 尻尾を取らないでいいのか? ずっと尻を撫で撫でもみもみしてるだけじゃないか、あははっ」

「だ、だって……」


 尻尾を取れば、この場は僕の勝ちになる。

 でも同時にこのお尻も触ることができなくなるんだ。


 離せるわけがない、この桃尻を。


「そうだ……芽那ちゃんと愛凪ちゃんにはなにされてたんだ? こっちからじゃよく見えなくってさ」


 ニヤニヤと笑い、どう考えてもわかっているのに聞いてくる翠玲。

 僕は顔を赤くしながら、目の前の大きなおっぱいを凝視した。


「あははっ、そうだよなぁ……青霄はやっぱこれが好きだよな! 味わわせてやるよ!」

「んんぅっ!?」


 僕にお尻を触らせながら、おっぱいも顔に押し付けてくる。

 双方からの肉感に、身体がビクビクと動いしてしまった。


 このままじゃマズいと思い、僕は谷間から顔を出す。


「す、翠玲こそ尻尾は取らなくていいの!? こんなことしてる場合じゃないでしょ、はぁはぁ……」

「尻尾? どうでもいいな。俺は青霄とこうするのが目的なんだ。勝負に勝とうが負けようが、もう願いは叶ってるわけだ。ちょっと嗅がせろー……」


 そう言い、僕の髪の匂いまで嗅いでくる。


「スーハー……いい匂いだ。嗅いでるだけで身体が熱くなってきやがるぜ……」


 壁ドンしていた膝をゆっくりと上げながら、耳元で囁いてきた。


「いいよな、青霄……? 俺がいただいちまっても……」


 本日3回目の捕食の危機!

 抵抗しなきゃいけないのに、全身で感じる翠玲の肉に勝てない。


 万事休す。


 そう思った瞬間――。


「羽黒ちゃん! みーっけ!!」

「あぁ! せいちん、また翠玲くんとイチャイチャしてるー!」

「羽黒、アンタほんとにエロばっかなんだね」

「み、みんな!?」


 先生と女子たちに見つかってしまった。

 早く逃げなきゃいけない!


 僕はスルリと翠玲のホールドを抜け、逆サイドに走ろうとする。


 しかし――。


「おい、待ってくれって!!」


 翠玲の伸ばした手は僕の肩には間に合わず、そのまま下に流れていく。

 そしてちょうど尻尾に手が引っかかり、掴み抜かれてしまった。


「あぁっ!?」

「『Gameゲーム setセット matchマッチ』」


 尻尾がなくなった感覚とともに、ゲーム終了のアナウンスが響く。


「ま、負けた……?」


 普通ならありえない。

 でも翠玲からの殺気はあまりにもなく、偶然の事故によって尻尾を奪われることを許してしまったのだ。


 自分のお尻を確認して、彼女らのほうを見る。

 するとその顔は、これ以上にないほど欲にまみれていた。


 色々と察したとき、モニターが点灯する。


「『あちゃー! オオカミクンの負けだねー、どんまい! いいや、おめでとうと言ったほうがいいかな?』」

「京蓮寺さん……!」

「『キュウちゃんもご相伴に預かりたいところだが……バニー諸君! キュウちゃんのぶんまで思う存分、食べちゃってくれたまえー!』」

「なんてことを……!! あぁっ!? うわぁあああ!!」


 一斉に襲いかかってきたバニーたち。


「わっしょい! わっしょい!」

「ちょっと! 恥ずかしいからやめてー!!」


 彼女らに担ぎ上げられ、フィールドの真ん中まで連行される。


「ほ、ほんとうにやる気!? 冗談だよね?」

「観念しなさーい! ニュヒヒッ」


 先生もノリノリ。

 ここに僕の味方は一人もいないようだ。


 フィールドに寝転ばされると、ぐるりと周囲を女子たちが囲む。

 どデカいバニーを下から眺めるのは壮観としか言いようがない。


 芽那ちゃんが僕の服に手をかける。


「じゃあ脱ぎ脱ぎしよね~」

「うわぁあ! ちょっとぉ!」

「ジタバタしないー、きゃははっ」


 脚や腕を他の女子たちに押さえられながら、脱がされてしまった。

 そうすると黄色い歓声が上がる。


「うわぁ、えっちー!」

「んはぁ、美味しそう……」


 顔も紅潮しており、明らかにヤバい雰囲気だ。


 今度は福里さんが僕のズボンに手をかける。


「そ、そっちも!? さすがにそれは……!」

「別に痛いことするわけじゃないんだし、いいっしょ。ぱ、パンツを脱がすのは許しといてあげるからさ」


 変なところで良心を見せてはくれたものの、結局女子たちの前でパンツ一丁になるわけだ。

 多少マシになったとはいえ、羞恥をおぼえることに違いはない。


「いくよ……それ!」


 勢いよくズボンを引っ張る。

 僕の愛用、黒のボクサーがお披露目されてしまった。


「きゃぁあああ!!」

「うわぁあっ! すっごぉお……」


 初めて見るであろう男の下着に女子たちは大興奮。

 瞬きもせずにジロジロと観察しては声を上げる。


「あれが……青霄のパンツ」

「ニュヒヒッ、可愛いの履いてるねぇ」

「これ、ボクサーか。芽那の言ってたやつ……だよね」

「せいちんのおパンツ、せいちんのおパンツ……ハァハァ、ひひひっ」


 恥ずかしすぎて顔を覆いたいのに、腕が押さえられているせいでそれすらできない。

 ただただ女子たちの欲に満ちた視線が突き刺さるのを耐えるだけだ。


 芽那ちゃんは垂れた涎を拭きながら、手を合わせる。


「それじゃ、いただきまーす!」

「えぇっ!?」

「いただきます!」


 彼女の挨拶に合わせ、みんな口々にそう言った。

 そして惚けた顔のまま舌を伸ばし、全身を舐めてきのだ。


 顔、首、鎖骨、胸、腹、背中、脚。

 あらゆる場所を無数の熱くて柔らかい舌が走り、アイスキャンディーに負けないぐらい舐められる。


「ちょっ、うああっ!!」

「せいちん、動かないで~! うっまうっまぁっ、きゃははっ」

「脇っ、舐められるとくすぐったいから!!」

「アタシはお腹舐めよ……ぺろぺろ。おぉ、硬い。やっぱ鍛えてんだね。もうちょっと下も……」

「福里さん!? それ以上はっ、待って!」

「わーしは~、太ももなーめよ! ニュヒヒッ」

「先生っ……! 胸っ、胸も当たってますって!!」

「男の身体を舐めても仕方ないんだけどなー……よし、俺は手でも舐めてやるか!」


 そう言った翠玲は、僕の手に指を絡めて愛おしそうに舐めてきた。


 他の女子も好き勝手に僕の身体を舐めまくり、自分の身体もお返しと言わんばかりに当ててくる。


「本当はせいちんの身体、もっと堪能したいんだけど~……。まぁこういうのは徐々にやったほうがドキドキムラムラするもんなんでしょ? 次もきっとウチらが勝っちゃうと思うし、きゃははっ」

「め、芽那ちゃん……くっ」


 僕は確かに負けてしまったけど、状況的には勝利だ。

 たくさんのムチムチバニーに囲まれ、優しく舐められているんだから。


 しかし前に芽那ちゃんに負けたときよりも一段階過激になっている。

 このまま負け続けると、僕は一体どうなってしまうんだろうか。


 本当に食べられてしまう日が……来るのかもしれない。


 そうドキドキとしながら、僕は女子たちに好き放題されるのであった。



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