第33話 むっちりバニーサンド

 バニーガールとなった先生。

 でもさっき襲いかかってきた子たちのように、武器である巨大ロボ『カチコチクライシス』を使うような素振りはない。


 どう出てくるのかと思って構えていると、こちらに近づいてきた。


「わーしが欲しいのは~、その尻尾~!」

「……ダメですよ! これを奪われると、僕の負けになるんですから」

「いいじゃん、別に負けても~! ニュヒヒッ」


 両手を掴むような動きをしながら迫ってくる。

 そして、先生は僕を捕まえようと向かってきた。


「それっ!」

「っ……!! させませんよ!」


 バックステップして回避すると、彼女はむくれる。


「むー! なんで避けるの! わーしのものになって、好き放題されなさーい!」

「うわぁっと!」


 手を大きく広げて、ハグをするようにしながら捕獲してこようとする。

 そのたびに僕は避けるものの、やはりガバガバの胸元が気になって仕方がない。


 熱い視線に、先生も気づく。


「ニュヒヒッ! やっぱりここが気になるんだ~? 羽黒ちゃんは本当にへんたいだなぁー。ほれほれ、これが見たいんでしょー?」


 先生は顔を赤らめながら、胸元の生地を引っ張る。

 すると、小さな谷間のようななにかが見えてしまった。


「ああっ……!」


 こんなわかりやすい誘いに乗ってしまう。

 それほどまでに思春期男子にとって、この光景はあまりにも刺激的。

 あの柔らかそうなものに触れられたら……と考えてしまう。


「ニュヒンっ! 隙ありぃいい!!」

「しまった……!!」


 動けなくなった僕に目がけて、先生が突進してハグしてきた。

 可愛らしいバニーのふにふにとした感触が伝わってくる。


 そして彼女は僕のお尻のほうへ手を伸ばし、尻尾を取ろうとしてきた。


「取っちゃうよ~? 取っちゃうよ~? ニュヒヒッ」

「なんて卑怯なっ……!!」


 尻尾を取られるからといって、先生を押しのけることなんてできない。

 でもこのままだと僕は負ける。


 そこで選んだ答えは――。


「おりゃっ!!」

「んにゅうっ!?」


 僕は先生を突き放すのではなく、さらに抱き寄せた。

 それもかなり強く抱きしめ、ピッタリとくっついた僕の胸に彼女の温かい息が当たる。


 そう、これは逆の発想だ。


 突き放すのは心苦しい上に、きっと先生は諦めてくれない。

 ならいっそのこと抱きしめてしまえば、男子に耐性のない彼女の頭をショートさせられるのではないかと踏んだのだ。


「は、羽黒ちゃんっ……ちょっ、ちょっとぉ……」

「やめませんよ、先生……!」

「ま、待ってぇ……」


 抱きしめていくと、先生の身体から力が抜けていくのがわかる。

 作戦は無事に成功したといえるだろう。


 けど、これは諸刃の剣。

 僕だって先生と密着してしまっているわけで、ぷにぷにとした感触が襲いかかってくる。


 ここは我慢比べだ。

 僕と先生、どちらがよりスケベに耐性があるのかで勝負が決まる。


 でも、あまり時間を使うことはできない。

 他の女子に追いつかれたら詰みだ。


 僕は意を決し、ダメ押しをする。

 芽那ちゃんにいつもされている、頭撫で撫でだ。


「んぐにゃぁあ……」


 髪に触れられた先生は変な鳴き声をあげて、僕の胸の中で目を回してしまった。

 顔はもう見るだけでもわかるほどにアツアツ。

 ちょっとやりすぎたかもしれない。


「危なかった……」


 この柔らかさを手放すのは惜しいけど、ここは堪らえよう。

 彼女を観客席に寝かし、僕は逃走を再開する。

 尻尾を取るのを忘れたけど、終わるまでにこの状態になっていることを祈ろう。


 しかしフィールドを動くと目立ってしまうようで、早速女子たちが追いかけてきた。


「待てー! パンツ寄越せー!!」

「羽黒くーん! ヌードデッサンさせてー!!」

「なんて要求をっ!? ……勘弁して!」


 仮に僕をとっ捕まえて自由にできたとして、下僕のように扱う、なんてことを考えている子は一人もいないだろう。

 ほとんどが下心剥き出しだ。

 思春期男子がそうであるように、思春期女子も同じなのかもしれない。


 遠距離からやってくる弾や矢を避けて接近し、一人ひとりの首を狙って枝を振り抜いていく。

 そして鈍足状態に陥ったバニーたちは、一様に去ろうとする僕を引き留めようとしてきた。


「ねー! バニーと楽しいコトしようよー!!」

「こっちだよー! おいでー!」

「ご、ごめんっ!」


 絶対に色仕掛けをされると踏んだ僕は、尻尾を取るリスクを避けて逃走する。

 尻尾を取りに行けば頭数を減らすことができるものの、近づけばそれだけ身体に触れる可能性が跳ね上がるのだ。


 小さい身体を活かして隠れればいい。

 そう考えもしたけど、この尻尾が絶妙にはみ出す。

 バニーの尻尾は丸くて小さいものの、オオカミの尻尾は長くて大きいんだ。


 しばらく逃走していると、前方に大きなバニーが立ちはだかる。

 綺麗な褐色に、ピチピチのバニースーツ。

 そう、彼女は――。


「……羽黒、往生際が悪いんだっての! アンタはここで……食べられちゃうんだからさ」


 たゆんっと大きな胸が揺れる。

 凄まじい破壊力だ。

 こんなにムチムチしたウサギがいるもんか!


「……ぼ、僕は食べられたりなんかしない!」

「ふーん。だってさ、芽那!!」

「えっ!?」


 福里さんがそう叫んだとき、後ろから猛烈に迫ってくるなにかを感じた。


「きゃははっ!!」

「危ないっ!」


 超スピードで牛刀を振りかざしてきたのは、芽那ちゃんバニーだ。

 僕は避けながら彼女の手首を蹴り上げ、牛刀を奪取して構える。


「せいちん、お見事~! ……んはぁ、カッコいい。オスみ強くて惚れ惚れしちゃうなぁ……」

「チッ、せっかくの不意打ちもアンタには通じないみたいね」


 顔を赤くする芽那ちゃんと、眉間にシワを寄せる福里さん。

 表情は対極的なものだけど、考えていることは同じはず。


 ジワジワと二人はにじり寄ってくる。


「僕を捕まえて……どうする気?」

「えー!? それ聞いちゃうー? んへ、へへへっ……。愛凪ちゃんも言ってたよねぇ? 食べちゃう、ってさぁ……。頭の先からつま先まで……ぜーんぶしゃぶり尽くしてあげるよ~、ジュルリ……」


 ヤバい、本当に食われる!

 元から芽那ちゃんの愛は重たいけど、地元に帰ってからはさらに重くなった気がする。

 しかもバニーのことでスルーしちゃったけど、福里さんも僕のことを何気に「食べる」って表現してたけど!?


 このままだと二人がかりで貪られてしまう。

 それはそれで嬉しいけど……でも負けたくない!


 間近に迫ってきた白と褐色のバニー。

 突き出たおっぱいが顔の真ん前にある。


「ほら、バニーが二匹もいんだから……好きにしなよ」

「……えっ!?」

「そ、そういうもんなんでしょ? バニーって……。芽那からそう聞いたけど……」


 芽那ちゃんの入れ知恵により、バニーガールへの認識が歪んでしまっている!


「そうだよ~。バニーはぁ……こうやってぇ、甘やかしてあげるのがお仕事なの~!」

「んぶぅうっ!?」


 なんと二人は胸を僕の顔へ同時に押し当ててきたのだ。

 芽那ちゃんだけではなく、福里さんまで!


 せっかく奪った牛刀も、あっけなく落っことす。

 そして超弩級のおっぱいが、顔の左右から挟撃してきたのだ。


 その圧迫感で、僕の顔はぐにゃりと変形しそうになった。


「あっ、ちょっと! ヤバいっ、ああっ!!」

「……アンタ、これ好きなんでしょ? ほら、もうちょっとこっち向いて……」

「せいちんの大好きなおっぱいだよ~! きゃははっ、かーわいいー!」


 密着しているのは胸だけじゃなく、ぶっとい太ももやお腹まで密着してくる。

 もうどこもかしこもムチムチで、頭がバカになりそうだ!


 そうしていると、僕のお尻に二人の手が這っていくのがわかった。

 この状況下にあっても、尻尾を奪うという目的は忘れていないらしい。


 しかもその手つきもねっとりとしていて、揉みしだくように動いていく。


「よしよーし、そのままだよー」

「もっと色々したいんでしょ? ジッとしてなよ……」

「ダメだっ……それ以上はぁ! どぅわああっ!!」


 その瞬間、二人の手がピタリと止まる。


「……なんだ?」


 ふとおっぱいから顔を出して二人の様子を見る。

 すると彼女らのおでこに、見覚えのあるナイフがプスリと刺さっていたのだ。


「ちょー! なにこれー! めっちゃ刺さってるよ~、ウケる~!」

「クッ……身体が動かないってのっ!」

「うわっ、ほんとだー! これが鈍足効果ってやつー?」


 間違いない、あのナイフは――。


「青霄!!」


 どこからか翠玲の声が響いた。


 このおっぱいサンドを逃すのはあまりにも辛い。

 でもここは離脱のときだ。


「待ってよー、せいちーん! もっとイチャイチャしようよ!!」

「羽黒っ! まだアタシへのお仕置きが終わってないんだけど!?」

「ごめんっ! ほんとごめん!!」


 褐色と白のバニーを名残惜しくチラチラを見ながら、僕は声のするほうへ逃げた。



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