第32話 獲物は僕!? バニー祭!
夏休みが終わり、授業が再開する。
僕の肌は少し日に焼けたように思うけど、クラスの女子たちの姿は変わらない。
スキンケアをしっかりとしているんだろう。
秋になってもまだ青い桜『アオノハジマリ』は咲き続けている。
きっと春夏秋冬、ずっとこの調子なんだろう。
不思議な花だ。
今日の授業は変則的で、タイマン以外の授業がない。
朝から1時間ぐらいいつものようにこなして、それで終わりなんだろうか。
そう思い、いつものようにアプリを操作してフィールドに向かう。
すると――。
「……え? えええええええぇっ!?」
僕の目の前には、バニーガールに扮したクラスのみんながいた。
そのとき、なぜか僕は反射的に物陰へ身を隠してしまう。
「な、なにがどうなって……」
こっそりとしながらも、目は勝手にいつものメンツを探してしまう。
芽那ちゃんに福里さん、先生と翠玲だ。
「あっ!?」
いた。
芽那ちゃんはピンク、福里さんは黒、先生は黄色のバニーガールになっていた。
胸元がいつも以上に露出し、大きな太ももが揺れている。
いつもの体操服もいいけど、これはあまりにも非日常的すぎる!!
「なんで……なんでみんなバニーガールになって……もしかして僕も!?」
慌ててスマホの鏡アプリを起動し、自分の姿をチェックする。
「これって……なんだろ? ……オオカミ?」
鼻が黒く塗られ、少し鋭い三角形の耳が付いている。
お尻のほうを見れば、それっぽいフサフサの尻尾まで付いていた。
「なんじゃこりゃ……」
コスチュームの意図がわからずに困惑していると、モニターが点灯する。
そこにはいつぞやに見た、サイドテールの髪をくっつけた青いイヌのパペットが映し出されていた。
「『やぁやぁ! 久しぶりだね、諸君!』」
パクパクとパペットに喋らせているのは京蓮寺さんだ。
「『今日集まってもらったのは、ほかでもない。そう、体育祭を行うためだ!!』」
「……体育祭?」
なんのお知らせもなかったけど、抜き打ちでするのがこの島のルールなのか?
いつものことながら、一体なにを考えているんだろ。
「『去年までは普通にやってたけど……ぶっちゃけつまらない! だから今年は趣向を変えてみることにしたんだっ!』」
京蓮寺さんの説明を聞いても、クラスのみんなも状況が受け止めきれていないようだ。
首を傾げながら、彼女に質問を投げかける。
「理事長~! なんでバニーガールなんですかー?」
「『うん、それはもっともな質問だ! それこそ、体育祭に代わって行うイベント『バニー
「ば、バニー祭……?」
聞けば聞くほどわけがわからなくなってくる。
みんなもその言葉を聞いてざわついていた。
「ではルールを発表しよう! 『バニー祭』とは、タイマンの延長にある競技だ。このシステムを流用して行うよ! しかし! 違う部分がある。それは、集団戦ということさ!」
その内容に、僕はハッとする。
このゲームの元になった『ベストバウト』でも、集団戦を行うことがあったのだ。
つまりゲームシステム的には可能なんだろう。
もっとも、それはすでに
「『勝者が敗者へ要求を行えるのは同じ。無論、武器も使えるよ。でも、勝敗条件が異なるんだ。キミたちのお尻に付いている可愛らしい尻尾があるよね? それを奪取した者が勝者となる!』」
要は小学校のときとかにやってた『しっぽ鬼』だ。
あれのセクシー版というか、バイオレンス版というか……そんな感じのはず。
「『そしてキミたちの着ているそのユニフォーム。それがチームだ! バニーチームと~……』」
モニターの向こうにいる京蓮寺さんと目が合ってしまう。
まさか――。
「『オオカミチームに分かれて競ってもらうよ……うふふっ』」
なにがチーム分けだ。
これのどこがチームなんだ。
僕一人しかいないじゃないか……!
でもまだ翠玲の姿を確認していない。
一応、彼女は男子としてカウントされているはず。
なら僕と同じオオカミチームであっても不思議じゃない。
「『チームの尻尾がすべてなくなったほうが負けだ! あと、オオカミチームは制限時間内に逃げ切ることができたら勝ちにしてあげよう!』」
せめてもの温情、ってことなんだろうか。
勝たせる気をこれっぽっちも感じないけど。
「『武器を使い、相手にダメージを与えると鈍足効果を発生させられる。動けなくなった獲物は……もう狩られるのを待つことしかできない』」
攻撃を
その瞬間に勝負が決まるといっても差し支えないだろう。
「『どんな手を使ってでもいい、相手の尻尾をもぎ取れ! ふふっ、さぁバニーたち……可愛いオオカミクンを食べちゃおうか!』」
そう京蓮寺さんが叫んだ瞬間、会場のスポットライトが一斉に僕を照らす。
光の集まるほうへ、みんなの視線も引き寄せられた。
「……まずい!」
草食動物のはずのバニーたちの目が、肉食動物丸出しのものになる。
「『じゃ、頑張ってねオオカミクン! チャオ~!』」
プツンっと映像が切れる。
その瞬間、試合開始のアナウンスが鳴った。
「『
同時に、バニーたちが猪突猛進してくる。
「やっば! 逃げないと!!」
物陰を飛び出し、フィールドを駆ける。
といっても、ここに逃げ場なんてない。
広大なフィールドだけど、袋小路になっている。
走りながらモニターを見ると、制限時間が表示されていた。
1時間。
それを超えることができれば、僕の勝ちだ。
クラスの人数は30人超。
彼女らの尻尾をすべて取るプランもあるけど、あまり現実的とは思えない。
分断して各個撃破できるならともかく、その数が一気に来るとなると押し負ける。
なぜかって?
近づけば間違いなく、お色気攻撃をされるからだよ!
走っていると、武器を呼び出す音声が聞こえてきた。
「『
次の瞬間、こちらに銃弾や矢、手裏剣などの飛び道具が飛んでくる。
「うおっと!!」
身体を捻り、ときには屈めてそれらを避ける。
「羽黒くん、あっちに行ったよ! こっちから囲もう!」
「うん! タイミング合わせるよ!」
日々のタイマンへの取り組みで、やっぱり彼女らの腕は上達している。
連携を取りながら、罠へ追い込むような動きを見せてきた。
「くっ……させるか!!」
「『
枝を取り出し、僕は逃げるのをやめて急停止する。
そして切り返し、追ってくる彼女らを引き裂いていった。
「きゃぁああっ!!」
「いやーんっ!」
振り向くと、バニー衣装が裂けていた。
たわわなものが見えそうになり、僕は急いで顔を背ける。
「ううっ……こ、こっちの機能は健在なのかっ!? やばいって……!!」
幸いにも僕がダメージを与えたお陰で、鈍足効果を付与された彼女らはこちらを一旦は追えなくなった。
でもこれはその場しのぎにすぎない。
どれだけのクールダウンがあるのかはわからないけど、また再起してくるはずだ。
こうして逃げて、時間を稼いでいくのが僕の勝機。
逃走していると、目の前に小さな影が手を左右に広げて立ちはだかる。
「スタアアアップ」
急ブレーキをかけて止まる。
そこには可愛いバニー衣装に身を包んだ先生が立ちはだかっていた。
「先生……!」
「行かせないよー、羽黒ちゃ~ん?」
「なんで先生も普通に参加してるんですか!」
「だってー、楽しそうなんだもーん! 一対一で戦うなら勝ち目ないけどさー、みんなでかかれば……わかんないよねぇ?」
胸元がガバガバのバニー服に目が釘付けになる。
それをわかっているのか、先生はさらに前屈みになった。
僕はそれに応じるように目と鼻の穴をかっ開く。
「……ぼ、僕は絶対に負けませんよ!!」
「へー? すごい自信、ニュヒヒッ! 絶対に落としてあげるからねー、ざこざこの~は・ぐ・ろ・ちゃんっ」
ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべる先生。
僕は勝ちたいというゲーマーとしての信念と、スケベをしたいという本能のあいだで揺らいでいた。
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