第26話 ギャルたちと一緒の夏
夏休みに入る数日前の夜。
芽那ちゃんがお風呂に行っているタイミングで、着信が鳴る。
発信元は京蓮寺さんからだ。
次はなにを言われるのだろうと思いながら、通話に出る。
「もしもし……」
「『やぁやぁ! いい夜だねー、
「そうですね。今日はどうしたんですか?」
「『この島での生活にも慣れてきた頃だと思うけど、不便だなと思うところはないかい?』」
「不便なところ……ですか」
なにか当てはまるものを答えれば、それを改善してくれるんだろうか。
一番はやっぱりトイレとお風呂の不便さだけど、すぐに取り掛かるのは難しい気がする。
だとすれば――。
「服……ですかね? 制服以外、一着しかないんですよ……誰かさんが誘拐したお陰で」
「『アハハッ! そうだったそうだった! これは失敬』」
「笑いごとじゃないですよ。商店街はもちろん、ネットだって女性服しか売ってないですし……」
学校へは制服でいいとしても、休日に遊ぶとなっても一着だと厳しい。
それにこの一着は春服だし、暑くなると耐えられそうにない。
島は島外よりも暑さがマシなのが救いだけど。
「『そう言うんじゃないかと思ってね! このキュウちゃんが用意しておいたのさ!』」
「え? どこかにあるんですか?」
「『いいや、それも考えたんだけどね。やっぱりキミの好みってもんがあるだろう? さぁ、スマホを開いてくれたまえ!』」
「スマホ……?」
言われたとおりにしてスマホを見てみると、いつの間にやら見たこともないアプリがある。
青いシャツにキメ顔のデザインがされている謎のアイコンだ。
「なんですか、これ……というか、どうして勝手にインストールされてるんです?」
「『まぁまぁ! 細かいことは気にしちゃダメだ!』」
「細かくないですよ……」
やっぱり僕のプライバシーがないことを再確認しつつ、アプリを開く。
すると、男性用の服や日用品がズラッと並んでいた。
「これって……」
「『そう! キミ専用の通販サイトさ! 寝食を忘れて作ったんだ、褒めてくれてもいいよ?』」
「ありがとうございます。たくさんありますね……」
「『あぁ! なんでも好きなものを注文するといい。注文した日から数えて、翌日には届く手筈だ。あ、ちなみに無料だぞっ! キュウちゃんお金持ちだから!』」
「あはは、助かります」
ある程度のものは元から寮に用意されていたものの、これは随分と生活が快適になりそうだ。
とりあえず、服は最優先で買わせてもらおう。
「『さて、そろそろ夏休みに入るわけだけど……予定はあるのかい?』」
「はい。いくつか候補があるので、それを楽しめたらな……と」
「『そうか、そりゃ結構! 大いに楽しんでくれたまえ! それじゃ――』」
話が終わりそうだなと思ったとき、僕は彼女を引き止めた。
「待ってください」
「『ん? どうした?』」
「京蓮寺さんは……遊ばないんですか?」
「『キュウちゃんが? アハハッ、気を遣わせちゃったかな。天才は忙しいのだー! なんてね。まぁ、休息はしているから心配ないさ』」
「そうですか。でも、いつか……いつでもいいんで、僕と会ってくださいね」
「『……あぁ、そうだね』」
そう言った京蓮寺さんは、いつもとは違う落ち着いた声のトーンだった。
「『……おっと、そろそろ仕事に戻らないと。それじゃ、今度こそ~チャオ~!』」
僕からの別れの挨拶も聞かず、通話は切れた。
「サイトまで作っちゃうのか……すごいな」
改めて通販サイトを見る。
これだけじゃないけど、京蓮寺さんには色々としてもらっている。
だからこそ会ってみたい。
会って、ちゃんと礼を言いたいから。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
やってきた夏休み。
桜が咲いている夏なんて僕にとって初めてだ。
休みに入ったらしてみたいこと。
それは僕一人で考えるんじゃなくて、他の人とも考えていた。
芽那ちゃん、福里さん、先生に翠玲。
彼女らとやりたいことを話し合ったのだ。
そして今日、それができる場所へと足を運んでいた。
なんだか懐かしい塩素のニオイ、巨大なウォータースライダー。
水着に身を包んだ女性が行き交い、そこらで水しぶきが上がる。
そう、ここはレジャープールだ!
京蓮寺さんの作ってくれたサイトを通じて、僕は無事に水着を購入していた。
ありふれたデザインのトランクス型のものだ。
もちろん更衣室などないため、あらかじめ下に履いてきてから脱いだだけ。
今は人目につかないところでみんなの着替えを待っている、というところだ。
どんな水着を着てくるのか、それを想像するとドキドキしてきた。
ちなみに翠玲は別行動しており、彼女らとは違う場所で着替えてくるとメッセージがあった。
「スー、ハー……」
興奮を落ち着かせるように息を吸って吐いてをしていると、後ろから声がかかる。
「羽黒……?」
バッと振り返る。
そこには福里さんがいた。
「おぉ……はぁあぁ……」
黒をベースとしたオシャレでセクシーな水着だ。
胸が零れそうになっていて、紐が重さではち切れそう……。
下もかなり際どいビキニで目のやり場に困る。
そしてなにより、褐色になっていない部分との日焼け差の破壊力が凄まじい。
「……マジマジ見すぎ」
「ごめんっ!」
福里さんはほっぺを赤くし、そう言った。
でもこの姿を前にして見ないなんてことはできない。
僕は横に並んだ彼女の身体をしげしげと見てしまう。
油断していると鼻血が出てきそうだ。
「なんかないの? ……感想とか」
「に、似合ってるよ! すごく……」
「フフッ……あっそ」
そう言った福里さんの横顔は、誇らしげなものだった。
そしてしばらく待っていると、また声がかかった。
「おーい、青霄ー!」
「翠玲……どぅおわっ!?」
手を振りながらやってきたのは翠玲。
上はシャツを着ており、下は僕と同じようなトランクス。
パッと見、ギャル男にも見えなくもないけど、そこから伸びるムチムチの脚があまりにも綺麗すぎる。
これを男子だと言い切るのは難しい。
というか、よく見れば胸も動いてしまっているけど……。
「青霄? 大丈夫か?」
「だ、大丈夫大丈夫!」
またもや目が釘付けになってしまい、会話が疎かになっていた。
でも仕方ない、こんな状況じゃ。
僕のテンパり具合を見て、翠玲は耳打ちする。
「シャツの中は二人っきりのときに見せてやるからな……」
「……っ!?」
甘い囁きに、僕の身体は飛び跳ねる。
それに対しニヤニヤする翠玲。
すると福里さんが首を傾げた。
「……なにやってんの? アンタら」
「な、なんでもないよ!!」
そう取り繕い、汗を流した。
福里さんと翠玲に挟まれるようにして、他の二人を待つ。
右を見ても左を見ても美女。
視線が迷子になる。
するとペチペチと歩く小さい音が近づいてきた。
これは間違いない。
「わーし到着ぅー! 夏休みも先生として、ビシバシ指導していくよー! ニュヒヒ!」
「先生……ほぉ……」
先生の水着は大方の予想どおり、子供用のもの。
フリフリしたスカートで、『魔法少女もちもちプリンセス』のプリントがしてある。
頭にはゴーグルをかけており、それがなんだか可愛らしい。
でもこうして先生のプロポーションを見ると、彼女は細いわけではないらしい。
小さいけど、全身がちょっとぷにぷにしている。
それは胸にも当てはまり、その絶妙な膨らみがスケベ心を煽ってきた。
「羽黒ちゃーん? わーしの水着に見惚れちゃってるんでしょー? いいのー? こーんなちっちゃい身体なのにー、ニュヒヒ」
先生にからかわれても言い返すことができず、僕は顔を赤くする。
彼女はこちらを見上げてくるものの、胸元がガバガバすぎて中まで見えそうになった。
咄嗟に顔を逸らすも、その先には福里さんのでっかい胸。
ヤバい、と思って180度顔を回転させれば、今度は翠玲の胸。
僕は手で目を覆った。
ここはおっぱいパラダイスだ。
そうしていると、僕を呼ぶ声が聞こえてくる。
「せいちーん! おっまたせー!!」
「芽那ちゃ……んぁっ!?」
小走りする彼女の胸が、ボヨンボヨンと躍動する。
ピンク色の際どい水着が、豊満ボディに対して悲鳴を上げている。
そこらじゅうの紐が今にも千切れそうだ。
抱きつきでもしたら失神するほど気持ちがいいんだろうなとわかる肉感。
鼻の穴が自然と開いてしまう。
「どうかなぁ~? 似合ってるー?」
「う、うんっ! 似合ってるよ……」
「やったー! せいちんにほーめらーれたーっ!」
飛び跳ねて喜ぶと、またドタプンと揺れる。
僕がその光景に見入っていると、芽那ちゃんは舌舐めずりをした。
「今日はいっぱい、せいちんで遊んじゃうんだから……」
その蠱惑的な言葉に、僕の全身がゾワゾワとする。
タイプの異なる四人の水着美女。
僕は彼女らと無事にプールを楽しむことができるのだろうか……。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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31話以降のお話になります
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