第21話 ギャルのお尻を叩こう!

 僕が男子でも寮はみんなと同じだったように、男子として来ている翠玲すいれんもまた、同じ寮に住まうことになった。

 そんな彼女に僕は寮の案内をする。


「ここがトイレで、あっちが大浴場ね」

「へー! 結構デカそうな風呂だな! あぁ、でも……どの時間に入ればいいんだ?」

「時間は決まってないよ。女子は同じ時間にまとまって入るから、それが終わったら入ってるんだ」

「そっか! じゃあ俺もそうしよーっと」


 翠玲はそう言っているものの、果たして本当に僕と同じようにするつもりなんだろうか。

 そうなると場合によっては鉢合わせてしまう恐れもある。

 僕は頷くような頷かないような、微妙な反応をするしかなかった。


「そういえばさ! さっき見てきたけど、俺の部屋って一人用みたいなんだよな~。二人一部屋じゃなかったのか? 青霄せいしょうも一人で住んでんのか?」

「いいや、僕は芽那ちゃんと一緒の部屋だよ」

「えっ? そうなのか? 男同士、一緒の部屋のほうがいいと思うんだけどなー。青霄もそう思うだろ!?」


 そう言って翠玲はまた肩を組んできた。

 胸があたっていることに気づいてないのかな。


「いや、それは――」


 返事をしようとしたとき、後ろから声がかかる。


「ダメだよ~? せいちんはウチと同じ部屋じゃなきゃ~」


 いつもよりトーンの低い芽那ちゃんの声が聞こえ、僕らは振り返る。

 彼女は目を見開き、張り付いた笑顔をしていた。


「め、芽那ちゃん……」


 僕は瞬時に、ヤバいときの芽那ちゃんだと察知した。

 けど翠玲は物怖じすることなく、彼女に話しける。


「なんでダメなんだ? 女子と一緒だと青霄も大変だろ? 男の俺と一緒のほうが、きっと気楽にできるって! な!」

「きゃははっ! ……なに言ってるの? せいちんはウチといるときが、一番リラックスできてるんだよ~? ねー、せいちーん?」


 二人とも、結局僕に話を振ってくる。


 冷や汗を流しながら、最善の回答を模索した。


「僕は芽那ちゃんと一緒の部屋、っていうのが決まってるからさ! これは変えられないんだけど、翠玲の部屋に遊びに行ったりは普通にできるよ! だから呼んで。遊びに行くから」

「おう! なにやるかなぁ~、男同士ですることといえば……やっぱ身体動かすことか!」

「え? あぁ……ははっ」


 どうも誤解されるような言い方をする翠玲にたじたじになる。

 芽那ちゃんもほうもそれで納得してくれたようで、うんうんと頷いていた。

 どうにか危機的状況は切り抜けられたようだ。


 男子だと偽っているのはどうしてかと聞きたいものの、まだ関係性が十分にできていない。

 目的が何にせよ、本人がそう自称している以上は聞くことができないのだった。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 ある日のタイマン授業中。


 僕は体操服を着た小さい先生のお尻をポンポンと叩いていた。


「あふんっ!」


 可愛い声を出して、先生は僕の膝の上で跳ねる。


「先生……なんで教師なのに僕にまたタイマンを挑んでくるんですか? 前は先生がピンチだっていうから、例外的に協力しただけなんですけども」

「だって悔しいんだもーん! わーしと一緒でちっさいくせにー! ……んあふんっ!!」


 先生は前に僕に負けてから、何度か再戦を申し込んできていたのだった。

 そのたびに勝利し、こうしてお尻ペンペンをしている。

 同じことをしてはいけないというルールがあるので、例えば『お尻ペンペンをしながら頭を撫でる』といった感じで適当に付け加えていた。

 ちなみに今日は背中を撫でながらだ。


「お尻ヒリヒリするー!」

「いや、しないですよね? 全然力入れてないですよ」

「するのー! するったらするのー!!」

「むずがらないでくださいよ。どうすればいいんです?」

「ヒリヒリするから撫でなさーい! ニュヒヒ~」

「な、撫でるって……」


 いくらなんでもそれはマズいんじゃないかと思ってしまう。

 みんなが見ている前で、教師のお尻を撫でるなんて。


 そもそもお尻を打っている時点で変わらない気もするけど。


 僕はゆっくりと、手を先生の小さいお尻に近づけていった。


「じゃあ、撫でますよ……」

「うん……」


 犬とか猫の背中を撫でるように、先生のお尻を撫で撫でする。

 するとさっきまでやかましかった彼女はすっかり大人しくなった。


 手には柔らかい感触が伝わり、顔を埋めたくなるほど心地良い。

 直で触ったらどれだけ気持ちいいんだろう、なんて考えてしまう。


 すると足音が近づいてきた。


「次、アタシなんだけど? いつまで先生のお尻触ってんの?」

「福里さん!? ごめんごめん、準備するよ」

「えー! もっとー!」

「先生、もう終わりです。ほら、観客席に戻ってください」

「ちぇー!」


 先生は不服そうにしながら、席に戻っていった。


「そろそろアタシ、勝つかんね。覚悟しなよ」

「うん、全力で行くよ!」


 そして――。


「はいはい、アタシの負け負けー」


 ドサッと地面に寝転ぶ福里さん。

 開き直っているようなムードを出しているけど、彼女の動きはかなり洗練されてきていた。

 福里さんだけじゃない。

 他のみんなもタイマンの腕は着実に向上している。

 偉そうに思われるかもしれないけど、それが嬉しかった。


「で、要求は何にするんの?」

「えーっと……どうしよっかな」

「……アタシが考えてあげよっか?」

「うん。いいのがあるんだったら教えてくれると助かるな」


 ムクリと彼女は身体を起こし、こちらに近づいてくる。


「その……さっきみたいにやってみたら?」

「さっき? もしかして……先生にしたみたいに、ってこと?」


 そう聞くと、福里さんは目を逸らしながら頷く。

 つまりお尻ペンペンをしろと言っているのだ。


「い、いいの? そんなことして」

「先生には散々やっといて何言ってんだか。……そこ、寝転べばいい?」

「う、うん」


 福里さんは耳まで赤くしながら、僕の膝の上にうつ伏せになってくる。

 太ももに大きな胸がぐにゅっと当たり、身体が動きそうになった。

 さらに露出したサラサラのお腹も脚に触れてきて、こっちも危険だ。


 お尻も先生と違って大きく、触れるのにもまた違った背徳感がある。

 体操着のズボンが食い込んでいて、パンツが見えそう。


「じゃあ……いくよ?」

「うん……」


 確認を取った僕は、福里さんのお尻を軽く叩く。


「くっ……!」

「い、痛かった!?」

「いいや。それぐらいでいいけど……」

「そっか……」


 少しお尻を叩けば、体操着越しでも揺れるのがわかるほどに弾力がある。

 福里さんは身体を跳ねさせ、新鮮な感触に驚いているようだ。


「なに上の空になってんの……一回で済ませる気?」

「ま、まだするの?」

「……当たり前だっての」


 彼女はそう恥ずかしそうにリクエストしてきた。


 それに応えてペンペンし続ける。


「はぁはぁ……もうちょっと強くても大丈夫」

「つ、強く? わかった……」


 福里さんは脚をモゾモゾと動かしながら、僕に指示してくる。

 なんか気持ちよさそうにしている気がするのは、きっと思い違いじゃない。


 すると観客席から声が聞こえてくる。


「せいちーん! それ、あとでウチにもしてよー?」

「め、芽那ちゃんまで……」


 これ、一応は軽い罰ゲームというくくりのはずなのに、なんだかご褒美みたいになっている気がする。

 僕は当然嬉しいけど、されている彼女らも明らかに喜んでいるのだ。

 正直、これで構わないのならこれでいいと思ってしまう。

 前に福里さんは僕のタイマンでの要求がヌルいと言ってたけど、こういうのがして欲しかったんだろうか。


 何度か叩き終わった頃には、福里さんも静かになっていた。

 僕の膝から起き、紅潮した顔を見せる。


「んはぁ……ありがと。……じゃなかった! つ、次は覚えてなよ!?」


 そう誤魔化しながら、ピューッと走り去ってしまった。

 揺れるお尻を見ると、またペンペンしたくなってしまう。


 なんてことを思っていると、背後に気配を感じて振り向く。

 そこには翠玲が立っていた。


「青霄」

「ん? どうしたの」

「俺、確信したよ」

「……え?」

「あんたは……羽黒青霄は、こんな島で腐ってていいやつじゃないってことをな」


 そう呟いた翠玲の顔からは、初めて笑顔が消えていた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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31話以降のお話になります

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