第20話 男装女子の距離感がおかしい
自称男子転入生の
例えば昼休み。
芽那ちゃん、福里さんと一緒に教室で昼ご飯を食べていると、翠玲が顔を出してくる。
「おぉ!
「す、翠玲……! ま、待って……! いちいち肩組まなくたって……」
「いいだろ~? 男同士、こうやって友情を確かめ合うもんなんだよ! たぶんな!」
友だちどころか、まだ知り合って数時間しか経っていない。
なのに、この距離の詰め方はなんなんだ。
友だちになってくれるのは嬉しいけど、僕からの距離の取り方がわからない。
そんな僕らの様子を、芽那ちゃんと福里さんは互いに顔を見合わせてアイコンタクトをしていた。
そして芽那ちゃんが口を開く。
「翠玲ちゃ……翠玲くんだっけ? せいちんと……知り合い?」
「いいや! 初めて会った仲だぞ」
「初めてにしては……めっちゃ仲いいような気がするなぁ~?」
「え? まぁそうだな! 運命の出会いってやつかもな! あははっ!」
その言葉に、芽那ちゃんはムッとする。
運命という言葉は譲らないぞ、って感じの目だ。
対抗心を募らせる彼女と入れ替わるようにして、福里さんが出てくる。
「自己紹介しとくと、アタシは福里
「そうか! 愛凪ちゃんと芽那ちゃんだな! 友だちの友だちも、友だちだよな! よろしく!」
翠玲は僕にするように肩を組みに行くのかと思いきや、ちょいちょいと手を振るだけ。
女子相手だから……ということなんだろうか。
「アタシはなんでもいいんだけど……でさ、
「おう、どうした?」
翠玲は福里さんが名字で呼んでも、下の名前で呼ぶことを求めなかった。
僕には訂正するように言ってきたのに。
これもさっきの理由と同じなのかな。
……というか、まだ肩を組んだままだ。
胸がずっと当たってきて、箸を動かす腕が止まってしまう。
「その……翠玲はご飯食べないの?」
「食べる食べる! そうだ、一緒に食べないか?」
「僕はいいよ。二人は?」
彼女らもそれは了承してくれたようで、首を縦に振った。
「じゃあ食べよう」
「おう! ありがとな! あぁ、でも座るとこがないな……そうだ! 青霄、椅子、半分こしようぜ!」
「……どういうこと? 半分こ?」
「青霄が右半分に座るだろー? そんで俺が左半分に座るんだ! な、いいアイデアだろ!」
確かに狭くて椅子は置きにくいものの、不可能じゃない。
それでも彼女は椅子を半分こ、という謎の提案をしてきたのだった。
僕が反応に困っていると、翠玲は買ってきたであろうパンを持ってきて、腰掛けようとしてきた。
「ほらほら早くしろー! 寄った寄った!」
「えーっと……これでいい?」
「いいぜ! そんぐらいあれば座れるかなっとー!」
翠玲は僕の左半身にピッタリとくっついて座った。
二の腕の温かさと柔らかさが伝わってきてヤバい。
「おーい、もうちょっと詰めてくれよー! 俺、ケツデカいからさー、はははっ!」
そんなことを言われると意識してしまう。
女の子の匂いもプンプンしてくるし、箸が全然進まない。
「せいちーん、ウチともあとで椅子半分こしよっかっ!」
「えぇっ!? 芽那ちゃんとも……?」
「うんっ! 座れなかったら~、お膝の上に乗せてあげる~!」
「そ、それは勘弁して……」
冗談で済まさないのが芽那ちゃんだ。
でも彼女の太ももの上で座ったら、どんなに気持ちいいんだろうか……。
ふと福里さんのほうを見れば、彼女は座っている椅子を見ながら、お尻をズラして半分にする練習をしていた。
福里さんも僕とあれをする気か!?
「……ふ~ん、青霄ってモテモテなんだな!」
僕の顔を間近で覗き込みながら、翠玲はニヤニヤしていたのだった。
結局、味をほとんど感じないまま昼食が終わる。
食事が喉を通らない。
……いい意味で。
そして午後一発目の授業終わりの休み。
翠玲が僕の席までやって来た。
「青霄! ションベン行こうぜ!」
「っ……!?」
彼女の言葉に、芽那ちゃんをはじめとした女子が一斉にこちらを見る。
この場で翠玲が男子だと偽れていると思っているのは、彼女自身だけ。
つまり他のみんなからすれば、僕が女子に連れションを誘われているようになっているのだ。
「な! 早く行こうぜ! 休みが終わっちまうだろ?」
「僕……さ、さっき済ませたんだ! だから大丈夫」
「えー? 連れないこと言うなよー! ほら、行くぞっ」
「うわっ、ちょっ……!」
翠玲に腕を組まれ、トイレに連行されそうになる。
でも芽那ちゃんなら助けてくれるはず!
僕は彼女に向かって叫んだ。
「め、芽那ちゃん!!」
すると彼女はニッコリと笑って――。
「せいちんがいっつも使ってる3階の北側の奥のトイレ、今日故障してるっぽいから、南側使ったほうがいいよー!」
「な、なんでそんなこと知って――」
「いってらっしゃ~いっ!」
「うわあぁあ!」
もう何から何までめちゃくちゃだ。
なんで僕の愛用している過疎トイレを芽那ちゃんが知ってるんだ?
しかも故障っていつ確認したんだ?
今日ずっと隣にいたはずなのに。
翠玲が女の子だってわかってから、芽那ちゃんの態度が明らかに変わった。
前に体操服を脱がされたときのような、僕をみんなでシェアモードに入ってる気がする。
トイレは完全に個室といえど、女子と一緒に入るのはものすごく抵抗感がある。
だからいつも過疎トイレを使い、寮でも誰もいないことを確認してから入っていたんだ。
「立ちションできるやつがあればよかったんだけどなー! 男子も二人になったわけだしよ、もしかしたら増設してくれるかもよ?」
「男子トイレは確かに欲しいけど……僕は座る派だから」
「そうなのか! 俺も座る派なんだよな~。立ってやるのって、どうやるのかもわからないぞ! あははっ!」
「ははっ……」
そりゃそうだろ、とは言えなかった。
苦笑いをして話を合わせることしかできない。
「そんじゃ、入ろうぜ~!」
「う、うん……」
彼女から一番遠い場所に入ろうと思って見ていると、あちらも僕を見たまま動かない。
「おーいー! 入れよー!」
「わ、わかったって……!」
端のトイレに入ると、その横の個室に翠玲が入る音がした。
「な、なんでわざわざ隣に入るのさ!?」
「えー? 連れションってこんな感じだろ?」
「知らないけどさ……」
僕には緊張からか尿意もなく、便器に座るとすぐに耳を塞いだ。
1分ぐらい経ったとき、ぼんやりと声が聞こえる。
ゆっくりと手を離すと、翠玲が話しかけていた。
ドアの前からだ。
「――って、聞いてんのか~?」
「えっ、ごめん! なんか言ってた?」
「だーかーらー! もう終わったのかって、聞いてんだよ~」
「終わった終わった! 今、出るよ!」
勢いよくトイレから出る。
すると顔に、ぶにゅっと膨らみがぶつかった。
「んむぅう!?」
顔が柔らかいそれに埋もれていく。
甘くてドキドキする匂いが広がった。
間違いない。
これは翠玲の――。
「……だ、大丈夫か!? 青霄……!」
そう声をかけてくれたものの、見上げると彼女の顔はジワジワと耳から赤くなっていった。
ドクンドクンと強く跳ねる鼓動も伝わってくる。
「ご、ごめん!!」
急いで距離を取ると、翠玲は服を整えながら八重歯を見せて照れ笑いをした。
「ははは……まぁそういうこともあるよな! ど、どうだ? 俺の胸筋? 鍛えてないからぶよぶよだろ? 青霄も一緒に鍛えるか? なんて、あははっ!」
なんで僕はこうも女の子の胸にダイブしてしまうんだ。
確かに好きだけど、気丈に振る舞わせてしまった申し訳なさが半端じゃない。
でもどうフォローすればいいのかもわからず、言葉が出てこなくなる。
気まずい空気が流れているのを察したのか、翠玲は気を取り直して口を開く
「いやー。それにしても、よかったな連れション! またやろうぜ! 今度は立ちションできるとこ探すぞ!」
「も、もう……勘弁してくれぇええ!」
「あははっ!!」
いつもは無音の過疎トイレに、今日は二人の声が響き渡った。
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