第14話 先生をわからせよう!

 先生が搭乗する形で顕現したロボット、カチカチクライシス。

『タイマンオンライン』ではもちろん、その類似作である『ベストバウト』をしていたときですら、ここまで大きい相手と対峙することはなかった。

 大きさがかならずしも勝利に直結するわけじゃない。

 でも大概は大きいほうが勝つ。

 それほどまでに、大きさとはアドバンテージになりうるのだ。


「よーしじゃあ、カウント始めちゃってー!!」


 先生のアナウンスが響き渡ると、音声が流れてくる。


「『Readyレディ ,Steadyステディ, Goゴー』」


 開始の宣言がなされると、先生はさっそく攻撃してきた。


「まずは~、これでドーン!!」


 マニピュレーターになっている左手を握りしめ、その巨大な拳を僕にぶつけてこようとした。


「……でっか!」


 視界をすべて覆うほどの大きさに驚きながらも、僕は横に跳躍して回避する。


「ニュフフッ! 羽黒ちゃん、虫みた~い! へなちょこー!」

「先生には言われたくないです!」

「なにをー!! 悪い子にはお仕置きじゃ~! それーい!!」


 今度は手のひらをパーにして、横に薙ぎ払ってきた。

 轟音を立てて地面を削りながら、急速に迫ってくる。


「せいちん、危ないっ!!」

「大丈夫っ!」


 芽那ちゃんのつい出てしまったであろう心配の声を聞きながら、僕は上に飛んで避けた。


「なかなかやるじゃ~ん! それじゃ、これはどうだー! ポチッ!」


 なにかのボタンを押したような声をわざわざ口に出した先生。

 すると、カチカチクライシスの肩にあるミサイルポッドが音を立てて唸りだす。


「まずいっ! あれが飛んでくる!」


 そして機体が反動で後退し、ミサイルが射出された。


 僕のほうへ揺らぎながら飛んでくる。


「っ……!!」


 咄嗟に回避する。

 だが、後ろで爆発した気がしない。


 振り向くと、ミサイルは折り返してやってきたのだ。


「追尾されてるっ」


 再び避けるもミサイルは方向を転換し、またもや僕のほうへ突撃してくる。

 ……かと思いきや、制御を失ったように地面に着弾した。


 その破壊力は凄まじく、辺りがクレーターになってしまった。

 引き起こされた爆風は、観客席にも吹き荒れる。


「きゃー!」


 女子たちの悲鳴。

 スカートが捲れるのを手で必死に押さえている。

 芽那ちゃんと福里さんも同じ。


「は、羽黒! 絶対にこっち見んなっ!」

「せいちんダメだよ! パンツ見たら、せいちんはよわよわになっちゃうんだから! 愛凪ちゃんと一緒に、あとで見せてあげるから我慢して!」

「ちょっ、芽那! アタシ、そんなこと言ってないって!!」

「ふぁいとー! せいちーん!」


 僕は見たい気持ちをグッと堪えて、下を向く。

 こんなにも苦しいことがあっていいのか。


 辛い気持ちを抑えながら、僕は冷静になって考える。


「あのミサイル……追尾に限界があるのかな……」


 確かに高性能なミサイルだけど、射出するまでに時間を要する上に、必中する優れモノでもない。

 ならどうにか対処できる。

 逆に利用することだって――。


「ちょこまかと動いてー! レーザーで焼き払っちゃうよー!!」


 右手のレーザーが赤く光り、エネルギーらしきものを充填する。


「ニュフフッ! いくぞー! おりゃー!!」


 ポインターのようなものが僕に当てられる。

 だが、あえて今は避けない。


 そして照射された瞬間、僕は前進して回避した。


 地面は大きく削れ、芝生が砂を含んだ風でなびく。

 当たればどの部位であろうと、一発でゲージを削り取られそうだ。


「くっ、すごい威力だ……」


 削られたフィールドを見たあと、再びカチカチクライシスに目を向ける。

 隠し玉でもなければ、これですべての武装を確認できたはずだ。


 どの攻撃も威力は高いし、本体の防御面も高いだろう。

 でも、先生の練度自体は決して高くない。


 キャタピラがついているのに、その場から動こうとしない

 フィールドは確かに広いとはいえど、動き回るには適していない。

 でもやっぱり動かなさすぎだ。


 ただ、あれはきっと動かないんじゃなくて

 攻撃するのがやっとの状況なんだろう。


 それに、ホバリングもおそらくできないんだと思う。

 キャタピラ移動よりも、操作が簡単だとはとても考えられないからだ。


「なら……攻めるべき場所は」


 僕は視線をカチカチクライシスの足下、そしてコックピットがあると思われる半透明の胴体部分に向ける。


「そこだっ!!」


 フィールドを駆け抜け、接近を試みる。


「きたな~! これでもくらえええ!!」


 ミサイルを射出しつつ、レーザーでも攻撃してきた。


 僕はそれを縦横無尽に避け、距離を詰めていく。


 手に持っているのは、もちろん枝一本。

 これでは機体に傷をつけることすらできないだろう。


 でも、今日の武器はこれじゃない!


「こ、こっちにくるなぁあ!! おりゃー!」


 近づけば近づくほど、先生の操作は不正確になっていく。


 大きすぎる機体は、近くにある対象を捉えにくいのだ。


「こっちです、先生!!」


 機体の足下まで到達した僕は先生に向かって叫ぶ。


「そこかあああ!!」


 エネルギーを充填させ、レーザーを発射。

 それとともにミサイルも射出する。


 僕はそれをかわしつつ、機体の凹凸を足がかりにして駆け上がっていく。


 一方で先生は間近でレーザーを撃ち、外したせいで近くの地面は大きく削れる。

 その影響で土埃が舞い、コックピット越しに彼女の視界を覆った。


「うわぁあ!? 見えない見えないー!」


 マニピュレーターで土埃を払う。


 すると開けた視界の先に、僕が迫る。


「ふーん! そんな枝でなにができるのー? ざーこ!!」

「僕の武器はこれです!!」


 僕は彼女の前から姿を一瞬にして消す。


 次に先生の目に入ったのは、自らが射出したミサイルの弾頭であった。


「うぎゃぁあああああ!?」


 ミサイルはコックピットを直撃、その衝撃で機体は派手にぶっ倒れて爆発四散した。


「ぬわぁああああううっ!!」

「『Gameゲーム setセット matchマッチ』」


 先生のゲージは0になり、終了のアナウンスがされた。

 機体が倒れたことで、爆風で飛ばされそうになる。


「うっ……」


 それが止むと、巨大なカチカチクライシスは跡形もなく消えていた。


「ふぅ……勝った」


 一息つくと、観客席から歓声が上がる。


「せいちーん! ないす~!」

「やるじゃん、羽黒」


 僕はそっちのほうへ手を振ると、フィールドで大の字になって寝転ぶ先生のほうへ向かう。


「大丈夫ですか、先生」

「わーしが、わーしがよわよわ羽黒ちゃんに負けるなんてぇ……ぬぬー!」


 減らず口を言うぐらいには元気そうだ。


「じゃあ先生、約束どおり……お尻ペンペン、いいですか?」

「ほ、本当にやるのー!? このえっち!!」

「言い出したのは先生じゃないですか……」

「むぉおおう!」


 先生はほっぺを膨らませながら、立ち上がる。

 みんなも観客席からフィールドに上がってきた。


「えーっと……やり方って、どうやるんですかね?」

「んー、羽黒ちゃんの膝の上にわーしが寝転んでー……ペンペンする」

「なるほど……じゃあ」


 僕は正座し、膝をポンッと叩く。


「はぁ~……」


 先生はため息を吐きながら、膝の上にうつ伏せになって寝転んだ。

 わかってはいたけど、めちゃくちゃ軽い。


 薄くて柔らかい胸が、ぷにゅんと膝に当たる。

 こんな小さい子相手に意識してはいけないと思いつつも、やっぱりダメだ。


「せいちん、やっちゃえー!」

「アタシ、写真撮っとくわ……フッ」

「うわぁあ! 撮るのをやめなさーい!!」


 ジタバタと暴れる先生を押さえながら、僕はお尻を見る。


 ぷりんとしたお尻だが、身体に対して大きめに思える。

 しかしパジャマ越しでもハッキリとわかる綺麗な形だ。


 叩くといえど、それは触ることを意味する。

 今さらながら緊張してきた。


「……じゃあ、いきますよ?」

「さっさとやれーい!!」


 僕は手を広げ、優しくお尻を叩いた。


「えい」

「あふんっ!!」


 ポヨヨンっと、可愛らしいお尻が揺れる。


「えいえいえい」

「あふっ、んあっ、はひっ!」


 すごくモチモチとした感触で、ついつい叩いてしまう。

 左右のお尻を交互に叩くと、先生は変な声を出すのだった。


「それっ!」

「あふんっ! 先生ぇええ! 羽黒ちゃんがイジメてきまーす!!」

「先生はあなたでしょうが……それ!」

「ぬわふんっ!」


 お餅みたいなお尻。

 普通に触ってみたくなり、人差し指を埋めてみる。

 めちゃくちゃ柔らかく、指がどんどん沈んでいった。


「それペンペンじゃなーい! えっち!」

「すみません、つい……」


 気を取り直して、ペンペンを続けていく。

 すると、ギャラリーから声が聞こえてきた。


「いいなぁー……ウチもせいちんにお尻触られたーい」

「もしかしてアタシも負けたら次は……お尻ペンペン!?」


 芽那ちゃんと福里さんは口々に感想を言う。

 他のみんなも、なぜか羨ましそうに見てきた。


 赤くならないぐらいにペチペチと叩いたあと、手を休める。


「……はい。それじゃ、これぐらいでいいですよ」

「ふーふー、弱っちくせに生意気なー……」

「えい」

「んあふん!!」


 またもやお尻を叩かれ、僕の膝の上で跳ねる先生。


 恥ずかしい思いをすれば態度を改めるかと思いきや、この調子ではまだまだ先生の態度は変らなさそうだ。


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近況ノートにてSSをそのうち書くと思うので、作者フォローもよろしくお願いします!

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