第12話 チンピラにご注意!

 福里さんと引き続き商店街を練り歩く。

 人の多さは田舎のように少なくもなければ都会ほどでもない、というぐらい。

 島全体は大きさにブレがあって例えになっているかわからないけど、市町村一つって感じだと思う。


 女性しかいないことに目を瞑れば、島の外とそう違いはない。


 すると福里さんは足を止めて指をさす。


「ゲーセン、いい?」

「いいね、入ろう」


 横を見ると、僕の住んでいた場所ではもう少なくなってしまったゲームセンターがあった。

 レトロな感じではなく、チェーン店っぽい新しいデザインの外観だ。


 中に入ると、どこか懐かしいゲームのやかましい音が響いてくる。


「アンタ、ゲーム得意なんでしょ?」

「そうだね、大体は」

「じゃあ……アレやろ」


 福里さんの視線の先にあったのは、対戦型の格闘ゲーム。

 ムキムキの女性キャラばかりが出ている、オリジナルのもののようだ。


 この手のゲームはそこまでやったことがない。

 対戦する相手がいない、という単純な理由で。


 さっそくそれぞれの席につく。

 そしてルールを見て、対戦スタート。


 そして――。


「あーもう!! なんで勝てないの!?」

「もう一回やる?」

「あったりまえでしょうが!!」


 僕はまったく加減することなく、福里さんを負かしていく。

 お色気攻撃がないなら頑張れるぞ!


 結局、5回ぐらい勝負し、僕の全勝となった。


 福里さんは魂が抜けたように、席でぐったりとしている。


「ハァー……つまらん!! これでも勝てないとかー。……てか、なんでアンタってそんなゲーム強いわけ?」

「なんでって……ゲームするのが好きだったからだよ。それで続けてたら自然と」

「好きだった、って……今は好きじゃないっての?」

「え? いや、それは……」


 無意識のうちに口をついていた本音。


 僕は少し逡巡したあと、続ける。


「……好きだよ。でも昔以上じゃないってだけ」

「そうなんだ。なんで?」

「僕が『ベストバウト』ってゲームをしてたのは、福里さんもあのとき聞いてたよね」

「あぁ、タイマンに似てるやつっしょ」

「うん。で……ゲームが好きだから、僕はベストバウトで頂点を目指したんだ。でも……いざ頂点を獲って、全部終わったら……ゲームに対する熱も冷めちゃってて……」


 燃え尽き症候群、とは少し違う。

 好きだから始めたはずなのに、いつのまにか好きじゃなくなった。

 残ったのは義務感だけで、手に入れたのも誰に見せるわけでもない虚しい王冠ただ一つ。


 それで、もういいかと思ってしまったんだ。


「でもさ、そっくりな『タイマンオンライン』をしてたら……やっぱりゲームって楽しいな、って思っちゃったんだよね! なんでかな、自分でもわかんないや」

「そっか……ならよかったじゃん。エロいことできるからモチベーションが上がったってことでしょ」

「ち、違うよ……!!」

「フッ……どうだか」


 福里さんはそう僕に笑いかけてきた。


 その純粋な笑顔に、僕は見惚れてしまう。

 女の子に微笑まれるのって、どうしてこんなに嬉しいんだろうか。


 なんてことを考えていると、後ろから声がかかる。


「あれあれ~? この子って、よそから来たっていう男子~?」

「うわぁっ! ほんとだー! アハハハッ!」

「こんなとこでなにやってんの~?」


 振り向くと、いかにもやんちゃをしてそうな女子たちがきた。

 着崩した制服は、僕らの学校のものではない。

 みんな背丈は僕と同じくらいか、少し小さめ。

 色のついたサングラスから、鋭い目を見せてきた。


 僕よりさきに、福里さんが返す。


「なに? アタシらになんか用?」

「いや、あんたじゃねぇって! 私らはそっちの兄ちゃんに用があんの」

「そうそう! ちょっとコッチ来いって! 楽しいコトしようよ~!」


 まさかこんなベタベタなナンパを、される側になるとは思っていなかった。


 絡んできた二人は僕と福里さんを交互に見る。


「ほらほらー! アッチにいくよー」

「ちょ、ちょっと!」


 一人が僕の腕を掴んできた。


 すると福里さんがその腕を払いのける。


「なにやってんの? マジでやめてくんない? 邪魔すんな」

「はぁー? 兄ちゃんと私らの問題でしょ? あんた、兄ちゃんのなんなの? どういう関係?」

「どういうって……命令して、命令される関係?」

「……福里さん!?」


 福里さんは僕と自身を交互に指差し、なぜか事態がややこしくなるような言い方をした。

 間違ってはないけど、変な意味に捉えられかねない。


「うわっ! 不純どうのこうじゃん!」

「ハァ……なんでもいいけど、どっか行ってよ。うざったい」

「無~理ぃー! 兄ちゃんとイイコトするまで帰りませーん!」


 一向に譲らない二人。


 ここはそもそもの原因である僕から話すべきだ。


「わかった、これもなにかの縁。この対戦ゲームで勝負して、互いにどうするのか決めない?」


 僕はさっきまでやってた格闘ゲームを指す。


「ふーん? 私らが勝ったらどんなことでも聞いてもらうけど?」

「もちろん」

「アハハッ! 私らがここの常連って知って、勝負仕掛けてきたわけじゃないよなぁ?」

「そうなんだ、楽しいよねこのゲーム」

「超楽しいっ! でも兄ちゃんをいじくり回すほうがもっと楽しそうだけどっ、ハハハッ!」


 福里さんは呆れた様子で見ている。

 そして改めて席に座った僕を見て、一言。


「ぶちかましてやんな」


 その言葉に、僕は微笑み返した。


 一方、やんちゃ系の彼女らは仲間内でじゃんけんし、勝った者が対戦相手となった。


「それじゃ、始めるよ」

「かかってこーい!!」


 試合開始。


 相手は常連を自称するだけあって、動きも慣れている。

 間合いもしっかりと見て、的確に技を繰り出してきた。


 しかし――。


「うぎゃぁああああ!? わ、私が負けたぁああああ!?」


 対戦相手の子は、椅子から転げ落ちる。

 もし今覗いたらパンツが見えて腕が大幅に弱体化することを考え、僕は席で堪えた。


「絶対ズルだ!! チート使ってる!! そうだろ!」

「アーケードでチートってできるの? 僕は知らないんだけど」

「むきぃいいいいいいいいぃ!!」


 彼女は歯噛みし、台に腕を振り下ろすとする。

 でも常連だから悪い態度もできず、どうにかその拳を落ち着かせたようだ。


「僕の勝ちだね」

「そんなぁあ! 横のあんたも勝負しろぉ!!」


 福里さんを指す、やんちゃ娘。


「彼女は……僕より強いよ」

「うぇええ!? 本当!? ああぁもう! やってらんね!!」


 そう叫んで、相手は立ち上がった。


「クソぉお! 兄ちゃん覚えてろよ! 次は絶対に勝って、イチャイチャしてやるんだからな!」

「うん、ゲームをするならいつでも歓迎だよ」

「ふぅううんだ!」


 やんちゃ娘らは顔を怒りで真っ赤にしながら出て行った。


「なんか……カッコ悪いというか、大人げないことしちゃったな」

「フッ、いいじゃん別に。絡んできたのあっちだし。アタシは面白かったけど」


 福里さんは頬杖をついて僕を見ながら笑った。


「……てか、またお腹減ってきたわ。近くにクレープ屋があるから、そこまで来てよ」

「うん、行こっか」


 ゲームセンターを出た僕らは、福里さんの言うクレープ屋でクレープを買った。

 彼女はバナナチョコのLサイズ、僕はイチゴのSサイズだ。


 僕が誘拐された公園まで戻ってきて、そこのベンチに腰掛けて食べる。


「うま~! やっぱバナナチョコだわー」

「ははっ、それ好きなの?」

「めっちゃ好き。ちょうどいい甘さなんだよねー……まぁバナナの個体差? 的なのがあって、微妙なときもあんだけどー、今日は当たりだわー」


 美味しそうにクレープを食べる福里さん。

 そんな彼女を見ているだけで、心がぽかぽかとしてきた。


「……なんかこうしてると、芽那とかとあんま変わんないかも」

「……え?」


 突然のつぶやきに、僕は食べるのをやめて耳を傾ける。


「いや、アンタって男っしょ? だから……なんていうか、最初……怖かったんだよ」

「あぁ……」


 納得してしまった。

 そりゃそうだろうな、と。

 むしろ他のみんなみたいにグイグイくるほうが異端なはず。


「んー……見たときの印象を例えるなら、宇宙人……みたいな?」

「う、宇宙人……って」

「例えだって! そんぐらいよくわかんないけど、存在はするんだろうなー……みたいな。アタシにとって、男って生き物がまさにそれってわけ」

「なるほど……!」

「わかんないから怖かったし、どっかに行ってほしかった。でも……しばらく一緒にいたら、おんなじようなもんなんだなって……わかってきてさ」


 確かに福里さんから感じる警戒心は、顔を合わせるたびに薄まっていた。

 あれは、僕のことを知っていったからそうなったらしい。


「ま、違うところも……あったりするけど」


 そう言って、前に触ってきた僕の胸を見てきた。

 恥ずかしくなって耳が赤くなってくる。


「とりあえず、そういうことだから。で……まぁ、最初……アンタにキツく言ったのとか謝らせて。ごめん」

「いやいや! いいよそんなの! あれで当然の反応だって」

「……そう? ならいいんだけど」


 もしかして、これが言いたくて今日付き合ってくれたのかもしれない。

 やっぱり福里さんは律儀な子だ。


「で、どうだった? アタシの案内は。……っつても、その辺ウロウロしただけだけど」

「うん、楽しかったよ! 僕一人じゃできないこともできたしね。ありがとう!」

「フッ……そっか。よかった」


 頷いて笑った福里さんはベンチから立ち上がった。


 沈む夕日を見ながら、彼女は呟く。


「また……遊ぼっか」

「そうだね! 次はどこに行こうかな。まだ行ってないとこたくさんあるよね」

「アタシも考えとく。今度はチンピラに絡まれない場所とかさ」

「あははっ」


 僕らは笑いあって、ともに寮へ歩を進める。

 隣り合って凸凹に映る二つの影のあいだは、紛れもなく友だち以上の距離だった。


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