第11話 褐色ギャルとの島巡り

 僕が芽那ちゃんに負け、みんなの前で触りまくられてから、当然のことながら色々と変化があった。


 僕の弱点がスケベなことだと知れ渡り、タイマンを挑んでくる子が色仕掛けをしてくるようになったのだ。


 もちろん、僕だって同じ手を通用させるつもりはない。

 できる限り近づくときは短時間、そして一瞬で勝負をつけるようにした。


 そもそも僕を芽那ちゃんが捕まえられたのだって、彼女が実質的にTierティア1相当の実力があったからであって、みんながみんなできることじゃない。


 でも下着や肌を見せられたりして、僕が鼻を伸ばしている隙に攻めてくる……なんて手を使ってくる子も出てきた。


 一方、福里さんは僕の攻略法が周知されてからも、正々堂々と勝負を挑んできた。

 そしてこちらが毎回勝利していたのだった。


 そんなある日の放課後。

 僕は島を探索することにした。


 この学校へ来てからしばらく経ったけど、まだ寮との往復をするに留まっていたからだ。

 大体のものが寮にあるため、買い物に行くこともなかったし。


 ただ、男子一人で出歩くのは心もとない。

 できれば芽那ちゃんと一緒に行きたかったけど、彼女は小テストの結果が散々だったらしく、居残りを余儀なくされていた。


「せいちんも一緒に居残りしてよー! むりー、せいちん成分摂取しないと勉強なんかできないよー!」

「芽那ちゃん、ここは踏ん張ってもらわないと。いくらなんでも2回連続0点はまずいって!」

「しょうがないじゃーん! せいちんの顔見てたら、テスト終わっちゃったんだもーん!」

「それ……カンニングだと思われるからほどほどにしたほうがいいんじゃない」

「むー!!」


 ここは心を鬼にして、勉強してもらうしかない。

 留年でもしたら大変だ。


 ふてくされる芽那ちゃんと別れを告げ、教室を出る。


 すると、福里さんが腕を組んで待っていた。

 胸が腕にぽよんっと乗っている。


「福里さん……?」

「あ、出てきた……。あんさ、このあと暇?」

「えーっと……用事ってわけじゃないんだけど、行きたい場所があって……」


 どうしてそんなことを聞いてくるんだろうか。

 疑問に思いながらも、僕は答える。


「ふーん、行きたい場所ね。で、どこなの?」

「具体的には決まってないんだけど、島のことまだあんまり知らなくてさ。適当に見て回ろうかなー……みたいな」

「そっか。でもアンタ一人じゃアレでしょ。男だし、外から来たってのもあるし」

「そうなんだけど……芽那ちゃんが居残りになっちゃって」

「……フッ、やっぱり」


 軽く笑った福里さんは、ちょっと間をおいてから口を開く。


「じゃ、アタシが……代わりに行ってあげてもいいけど?」

「……えっ、福里さんが?」

「なに、嫌って言いたいわけ?」

「そ、そうじゃなくて! なんか悪いなーって」

「今日アンタがタイマンで勝ったぶんの要求、まだ聞いてないでしょ。だからそれでいいって話なんだけど」

「あぁ……なるほど」


 今日のタイマンの時間は、福里さんが最後の相手だった。

 僕が勝ったものの、授業時間ギリギリに決着がついたために、次の授業へ遅刻する可能性を考えて後回しになっていたのだ。


 僕はすっかり忘れていたけど、福里さんは律儀にそれを果たすために待っていてくれたらしい。


「……じゃあ、お願いしていい?」

「へいへい」


 そう興味なさそうに返事をする福里さん。

 でも学校を出るまでの足取りは、彼女のほうが軽かった。


 校門を出て、外を歩く。

 ここまで出るのは、連れてこられた日以来だ。


 福里さんと一緒に肩を並べて歩くのは、なんだか変な気分。

 僕らのあいだの距離は、そこそこといったところ。

 出会った当初よりは……多少、気を許してくれているはず。


 しばらく歩いていると、公園が見えた。


「あ、この公園……」

「なに、来たことあんの?」

「うん。島に来たとき、目が覚めたらあのベンチの上で寝てたんだよね」

「あー……誘拐されたとかどうとかいうやつだっけ?」

「……あれ、話してたっけ?」

「芽那から聞いた」

「あ……そういうこと」


 京蓮寺さんが雇ったのかなんなのか知らない女性の集団に誘拐され、ここで目を覚ました。

 そういえば最近、京蓮寺さんから連絡がきていない。

 そのせいもあってか、もう普通に学生生活を満喫している気がする。


 また歩いていると、商店街のほうに近づいてきたようで人が増えてきた。

 男である僕を見て、すれ違う人がみんな見てくる。


「アンタ、どこに行っても有名人だね」

「ははっ……そうだね。なかなか慣れないよ」

「一人だったら間違いなく……手、出されてたっしょ」

「そんな……無法すぎるでしょ」


 そう言いながらも、福里さんの言っていることはあながち間違っていなさそうだ。


 同い年ぐらいの子、年上のお姉さん、マダム。

 それぞれが完全にオスを狙うメスの目をしていたから。

 これはもう、学校の中であろうと外であろうと関係ないらしい。

 僕はどこへ行っても草食動物だ。


 ブラブラと歩いていると、コンビニが目に入る。

 島の外にあるものと似てるけど、やっぱりオリジナルの店だ。


「あー、腹減った。なんか買っていい?」

「うん、もちろん」


 一緒にコンビニへ入った。

 無論、お客も店員さんもみんな僕を見る。


 福里さんは真っ先にレジに行き、ホットスナックを注文し始めた。


「からあげのLサイズ2つとー……ポテトのLサイズ2つとー……アメリカンドッグも2つで、チーズとケチャップでお願いしまーす」


 なんだかたくさん注文しているようだ。

 できあがるまでに飲み物を買う。


「アンタ、何飲むの?」

「僕? えーっと……オレンジジュースかな」

「フッ、お子ちゃまって感じ」


 そう笑って、福里さんはオレンジジュースとコーヒーを手にとってレジに行った。


 会計を済まし、外のベンチに腰掛ける。

 ホットスナックのいい匂いが漂ってきた。


「はい、これアンタのぶん」

「ありがとう……! でっかいね」

「食べらんないぶんはアタシに寄越しな。全部食べたげるから」

「ありがとう……あっ、これいくらだった?」

「レシート捨てたからわかんないわ。タイマンで負けたからいいよ別に」

「いや、でも……」

「……ハァ、アンタいっつも要求がヌルすぎなんだよ。張り合いもないっての」


 福里さんの呆れたような言葉に、僕も少し思うところがあった。


 相手を気にして、あるのかないのかわからないような要求をしてきたけど、本当にこれは正しいのだろうかと。

 ゲームっていうのは、ある程度失って惜しいものを賭けるからこそ、燃えるものがある。


 僕は自分の身という特大のものを賭けているけど、みんなはそうじゃない。


 ここは僕も考えていかないといけないかもしれない。


「そっか……わかったよ。じゃあ、ありがたくもらうね」

「どうぞー」


 ベンチに座って、二人でモグモグと食べる。

 やっぱりまだ落ち着かないけど、どこか安心するのはなぜだろう。


 チラッと福里さんのほうを見る。

 本当に綺麗で、色気のある健康的な褐色肌だ。

 こんなにクッキリと焼けているのは、やっぱりサロンに行っているからだろうか。


 再び正面を見ると、工事現場に大きなロボットが動いているのが目に入る。

 キャタピラで移動しており、その上に女性型にデザインされた本体が載っていた。


「あれって……」

「ん? あぁ、ルーテナント……とかいうやつっしょ。島外にはないの?」

「ないよ。ここの教科書で見たのが初めて」


 あのロボットがいることで、女性だけでもやっていけている部分があるらしい。

 教科書に載ったいた島を開拓したロボットというのは、これのプロトタイプのよう。

 ちなみに最新型はホバリングも可能なようだけど、明らかにオーバーテクノロジーだ。

 あれも京蓮寺さんが考えたらしい。


「……で、他にもどっか行く?」

「そうだね……もうちょっとだけ遊びたいかも」

「ハァ、しょうがないなー……」


 そうめんどくさそうに言いつつも、福里さんの目は確かに笑っていた。


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