第13話

 藍斗は今も尚心配そうに自分の言葉を待っている人に扮した九尾の魔物に話しかける。


「その勝負、受けて立とう」


 と。その一言だけで魔物は表情には出さないが尻尾振り喜びを表現する。藍斗は、その姿を見て一瞬自分の生まれた頃からの幼馴染みである亜希と重なったように見えた。それを頭の中から必死に消した。


「それで?刀や刃物はやめておいた方がいいか?」


「別にやめなくてもいい」


「そうなのか?怪我をするかもしれないぞ?」


「問題ない。その時は我が未熟であるというまでのこと」


「そうか、なら…行くぞ」


 藍斗は真剣な面持ちで背中から刀を一振取り出し、構えた。その際、藍斗は緊迫とした圧を放つ。そんな藍斗の圧に押され、1歩後ろに下がってしまう魔物だが何とかこの場にいることに成功した。

 (やはり、この少年は強い。だが、この少年と戦ったら我はもっと強くなれる)

 魔物は素手で戦おうとしていた。それを察した藍斗は刀を背中に戻し、彩夜に鞘ごと刀を預け魔物の方に向き直り構えをとる。


「……何だ、刀はどうした」


「こっちの方がフェアだろ?俺は不公平が嫌いでね」


「我は狐火を出せる。そのため、問題は無い」


「別に心配しないで良いさ。俺はこっちも出来るんでね」


 そして藍斗が話終わる前に魔物は藍斗の懐に入り、拳を放とうとしていた。藍斗は受ける体制を取ったが野生の勘に任せ、大きく後ろに下がり距離を取った。すると、魔物の拳には狐火を纏っており藍斗が受け止めていたら大火傷所ではなかっただろう。


「……思ったより、威力あるな」


「これを避けるか。我の目に狂いはなかった」


「よく言う。お前も本気を出してないくせに」


「それはそうだろう、最初から本気でやる奴がおるものか」


 藍斗は魔物の言葉に「確かに」と肯定する。その刹那、地面にクレーターが出来るほどの踏み込みを瞬時に魔物との距離を詰める藍斗。その速さに魔物は一瞬困惑の表情を浮かべるがすぐに精神を立て直し狐火で壁を作る。だが、それは藍斗はお見通しで狐火の壁に拳が突っ込む寸前で上に飛び魔物の背後に周り重力を利用した拳を魔物の脳天に叩きつける。それはモロに入り魔物は膝をついた。狐火の壁の弱点は、視界が見えないことである。藍斗はそれを瞬時に判断し上へと飛んだのだ。魔物が膝をついて尚、藍斗は警戒を崩さない。何故なら、戦いには油断は命取りなのだから。少しでも隙を見せれば、そこを狩られる。それが戦いの残酷な所なのだ。

 (くっ、やはり勝てなんだか。……だが、心配は無い。死なない程度に加減してくれたのだろう、何処までもお人好しな奴だ)

 そして魔物は察した。藍斗にはどう足掻こうが、勝つことはできないのだと。

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