第12話

 魔物が沢山いる森の中にキィンという鉄が交差するような音と木々にぶつかる音が木霊する。彩夜は魔物の攻撃を受け止める度に遠くの木々達の方へ吹っ飛び服がボロボロになっていた。いや服がボロボロになっているのである。身体には一切怪我をしていなかったのだ。流石の彩夜もそれに気づき困惑する。

 (何で、怪我してないの?服はボロボロなのに?魔物の仕業?いや、この魔物にメリットはない。じゃあ何で?)

 彩夜がそう考えていると魔物が呆れた様子で口を開く。


「戦闘中に考え事か?随分と余裕なのだな」


「いや、申し訳ないけど服だけボロボロなんだよね」


「……怪我をしてないのか?どおりで何回もぶっ飛ばしても動けてるわけだな」


「うん。服だけ」


「そ、そうか」


 魔物はそう言い冷めた表情で藍斗がいるであろう場所を見る。そう、魔物は今気づいたのだ。極めて遠い距離からずっと彩夜に防衛魔法を施している者の存在に。それに気づいた魔物は恐怖を覚える反面、敬畏の意を示す。

 (いつか、この娘を助けに来ると思っていたが…俺が思っていたより早く来ていたようだな)


「小娘、もうお前と戦う理由はなくなった」


「は?それはどう言う...」


「…さっさと出て来ると良い。我はお前と戦いたいだけだ。この小娘を殺そうなどとは思っておらん」


 魔物は後ろに振り返り、遠くにいるであろう強者に話しかける。その時には魔物は彩夜の存在など気にも止めてはいなかった。彩夜は攻撃をしようとするが足が動かなくなっており足の拘束から藻掻いていると、目の前に明らかに雰囲気の違う藍斗の姿があった。


「藍斗..?」


「彩夜、初めての戦闘でよくここまで出来たな。君は少しここで休むといい」


 藍斗は魔物を見向きもせずに彩夜に声をかけ、指を鳴らす。すると、足の拘束はなくなり、ボロボロになった服が瞬く間に綺麗な状態に戻った。そして藍斗は魔物の方に向き直り彩夜と魔物の間に入る形になっていた。そんな急にここにいる藍斗の存在に彩夜の疑問に思っていた。

 (....いつからここにまで来たんだ。全く気づかなかった。……相当な実力者だな)

 魔物は藍斗から距離を取った。その刹那、藍斗は魔物がいたであろう場所に凄まじい斬撃を放つ。それは確実に魔物の命を刈り取るものだった。魔物は冷や汗を噴き出しながら藍斗の動きに警戒していた。


「今のを避けるのはいい判断だったな。まぁ、今のは勿論…挨拶代わりだが。それにしても、俺に用があるようだが何の用だ?」


「……我と勝負しろ」


 魔物は藍斗に懇願した。藍斗は魔物の言葉を聞き拍子抜けし刀を鞘に戻しながら心底、考えたことを口に出した。


「え、なんで?」


「我は、弱い奴が嫌いだ。弱い奴を見ると、反吐が出るのだ。だから、我は今まで強くなる努力してきたんだ!その力試しをさせて欲しい」


「……そうか、なら殺し合いでもいいはずだが?」


「いや、お前なら我くらいはすぐに殺せるはずだ。今相対して気づいた」


 藍斗は魔物の言葉に納得すると同時に魔物…彼の強い意志を察し少し考えを巡らせる。

 (俺は別に良いが、彩夜はなんて思うだろうか?彩夜は彼に負けている。勝負というのは彼女がなんて思うだろうか?)

 藍斗は彩夜の方をチラリと見た。すると彩夜はそれに気づき藍斗の方を向き、頷く。その表情は「私は問題ないわよ」と言わんばかりである。そして藍斗は察した。彩夜は化ける…と。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る