第10話

 魔物がいるであろう森の中で木霊する彩夜の言葉を聞き、藍斗は驚きながら慌てて周りの気配を探った。すると、藍斗は彩夜の言う通り魔物がいないことに気づいた。

 (や、やばいやばい!ぜ、絶対怒られる!!あたしのせいで、変な警戒させちゃったわけだし)

 一方等の本人の藍斗は顔を俯かせて無言で肩を震わせていた。


「あ、藍斗…様?」


「……ムリ」


「え?」


 彩夜は藍斗のあまりにも意外過ぎる言葉に面食らった。藍斗の「無理だ」と言う言葉を聞いた事がなかった彩夜は藍斗の言葉に驚き困惑する。

 (無理?え、あたし捨てられる!?あたしといるのが無理だったら…どうしよ!!)

 すると、彩夜は藍斗が何かを言うまで待っていると「ブハッ」と吹き出し笑いだした。


「な、何よ!」


「いや、だって…こんな状況で笑わないの無理だろ!」


「はぁ?そんなに笑わなくてもいいじゃん!」


「ごめんごめん!」


 藍斗はそう言いながらも、大笑いをした。彩夜は自分の素が出てしまったことに内心で焦っていた。

 (やっば、思わず素が出ちゃった。敬語も忘れてたし…ま、いっか!本人は気づいてないだろうし)

 彩夜はそう結論付けながら、藍斗の笑っている顔に自分まで笑顔になってしまうのだった。

――――――――――――――――――――――――

 そして、藍斗が事前に用意していた昼食を2人で食べながら話していた。その際、藍斗は彩夜の口調や性格の変わり具合に少々驚いていた。

 (彩夜。やっぱり気が強い性格だったんだな。それにいつも話していた敬語まで抜けてるし。少しは俺のこと信用してくれたのか?)

 藍斗はそんな素を出してくれた彩夜に少々、安心をしながら会話をしていた。


「そう言えば、この後の修練はここでするの?」


「いや、流石に彩夜が危ないと思ったから俺が魔法で作った空間で修練してもらうことにしたけど良いか?」


「うん、それでいいけど藍斗様の魔力は大丈夫なの?」


 彩夜は不安そうに聞いてきた。それもそうだろう、空間魔法は非常に難易度の高い魔法として知られており魔力の消費が激しいのだ。彩夜が心配するのも無理はない。魔法を使う達人でも空間魔法を使うのは躊躇するくらい難易度とリスクが高い魔法なのである。


「ん?あぁ、言い忘れてたけど俺は人より魔力の回復が早い体質だから」


「え!?それ、1000人に1人の選ばれた人にだけ与えられた体質!!なんでそれを言ってくれなかったのぉ!?」


「いやぁ、何か忘れてた」


「何か、忘れてたってだけですまされないことなのよ!?」


 すると彩夜は、藍斗に少し小言を言う。彩夜は自分の素を出すことで怒られることは無いと分かったのだろう。そんな彩夜の様子に藍斗は再び安堵する。

 そして数十分後2人は昼食を食べ終えた。彩夜は鉄扇と寸鉄を手に持ち、藍斗の背後を警戒していた。一方藍斗は空間魔法を使っていた。だが、彩夜が危険な状態にならないようにしっかりと自分を含め彩夜の周りを結界魔法を張っている。

 (やっぱり、空間魔法と防衛魔法の同時に使用は面倒臭いな。まぁ、彩夜が安全なら別にいいけど)


「彩夜、終わったぞ」


「え、もう?早くない!?」


「え、これでも十分遅めだったんだけど…?防衛魔法も掛けてたから遅くなってな」


「……流石にスゴすぎるでしょ、藍斗」


 そして無意識に藍斗を呼び捨てにしてしまい、またしても肝を冷やす彩夜なのだった。

 

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