第9話

 『亜種』を含め、色々な魔物が居ると言う明らかに初心者の修練には向いていないこの森で1人何かを考え込んでいる藍斗を心配する彩夜。彩夜は自分が弱すぎて藍斗が困っているのだと勘違いをしていた。

 (私……いや、あたし…そんなに弱かったの!?そ、そんなわけないじゃん!あたしは、五体満足だったら奴隷商人なんて屁じゃないんだから!)

 実際、彩夜がまともに食事をさせて貰えなかったり怪我をさせられた理由は彩夜の素早さと振り下ろす力や横に薙ぐ力が異常に強かったためである。


「彩夜」


「ひゃい!?」


「……そ、そこまで驚く?」


「す、すみません…」


「いや、別に良いけど」


 藍斗は驚く彩夜に驚くと言う驚きの連鎖のようになっていた。そして、再び2人の間に沈黙の時間が流れた。

 (うぅ、びっくりしちゃった。藍斗様に引かれたかもしれないよぉ。どうしよ)

 彩夜は恥ずかしそうな顔をしながら再度考え事をしている藍斗に話しかけようとする。


「「……/藍斗様/彩夜」」


「あ、藍斗様!話しをどうぞ!」


「え、彩夜も何か言いたかったんじゃ…?」


「いえ、あた…私は大丈夫なのでお先にどうぞ!」


 藍斗は「そうか、分かった」と言い彩夜に話し始める。その内容に彩夜は驚いた。それは、修練場所を変えると言うものだった。藍斗は彩夜にこの場所にいると思われる『亜種』について説明をする。それを聞き彩夜は言葉を失っていた。

 (え、あたし…死ぬところだったの!?あの『亜種』がいる場所で修練してたのあたし…)

 普通の人間ならこの森の中に入ることも『亜種』と呼ばれている魔物を1人で撃破出来るはずがないのである。『亜種』は、国の兵士を動かさざるを得ないくらいに厄介な魔物だ。そのため、一年に一回だけ人や家畜を生贄として捧げて一年間手を出さないようにお願いするという国も少なからずある。無論、『亜種』という存在は流石の彩夜も知っている。何故なら、その生贄は奴隷商人から買った奴隷の場合が多いためだ。


「すまないな、彩夜。もっと安全な場所でするべきだった」


「い、いえ。仕方の無いことですよ」


 藍斗が申し訳なさそうにしている、彩夜の腹が大きく鳴った。その音を魔物の鳴き声だと勘違いした藍斗が彩夜を庇いながら刀を手に持ちながら臨戦態勢になっていた。一方、彩夜は腹が鳴ってしまったことへの恥ずかしさと藍斗が守ろうとしてくれている嬉しさや申し訳なさで複雑な気持ちになっていた。

 (うぅ、お腹の音を魔物の音だって勘違いされたぁ。…てか、今見たらもうお昼の1時じゃん!何でこんな時に鳴るのさ!前は2日くらい何も食べなくてもお腹なんてならなかったのに!!)

 そして、彩夜は藍斗が毎日昼の1時に食事を作ってくれていたということを思い出し納得した。


「あ、あの…藍斗様」


「ん、どうした?今は魔物がいるから大人しくしてろ」


「えっと、その…魔物の鳴き声は多分あたしのお腹なんで!」


「……え?」

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