第4話

 そして、食事を終えて2人は食器洗いと食器の水滴を拭くことに手分けしてやっていた。最初は全て藍斗がするつもりだったが少女がしたいと言うため食器を拭いてもらっている。藍斗は不意に少女の方を見た。すると少女は思いのほか楽しそうに食器を拭いていた。

 (何で、そんな楽しそうにしてるんだ?退屈じゃないのか?)

 藍斗は少女に疑問を持ちながら食器を片付ける。そして食後の片付けや家事を終え、2人はリビングでゆっくりしていた。無論、この家は領主にもこの国の国王にも許可を貰い建てた物だ。藍斗は何も言わずにボーッとしていた。すると、少女は「あ、あの!」と言い真剣な面持ちで藍斗に話しかける。


「どうかしたか?」


「あの、その…わ、私のことどう呼んでくれますか?」


「そうだな、お前が良いなら彩夜さよ何てどうだ?彩りの漢字に夜って書く」


「彩夜、彩夜…!ありがとうございます!ご主人様、私は今から彩夜です!」


 少女…基、彩夜は満面の笑みで藍斗に抱きついた。藍斗は戸惑いながら彩夜を受け止める。すると、藍斗は久しぶりに人と触れ合い人肌の温かさに気づいたのだ。

 (人ってこんなに暖かったっけ?…まぁ、悪くはないかも)

藍斗はそう思いながら、喜んでいる彩夜を見ていた。すると、彩夜はハッとした表情をしながら藍斗に謝る。


「ア!?す、すみません!!すぐに退きます!」


「……別に、問題ない」


「?そう言えば、昼の1時であってますか?」


「ん、あぁ。そうだが」


 藍斗は時計を見て答えた。すると、彩夜は真っ青の表情になっていた。藍斗は何が何だか分からないという顔をしている。それもそうだろう、先程まで満面の笑みだった彩夜が時間を聞いた瞬間に顔色が悪くなったのだから。そして、藍斗は気づいた。彩夜の呼吸がおかしくなり、しゃがみ込みそうになっていた。それを藍斗が寸での所で彩夜を支え声を掛けた。


「彩夜、彩夜!」


「カヒュッ!カハッ……ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」


「彩夜、聞こえるか?」


「…ごめんなさい、ごめんなさい…!殴らないで」


 彩夜は過呼吸を起こしうわ言のように謝罪の言葉を述べていた。そんな彩夜に藍斗は、ソファーに座らせ深呼吸を促しながら黙って背中を強めに摩った。すると、少しずつ彩夜の呼吸が落ち着いてきた。

 (よし、これで大丈夫そうだな。まぁ、この対処法が合ってるのか分からなかったから落ち着いてくれて良かった)

 藍斗は彩夜が落ち着きホッとしていた。すると、落ち着きを完全に取り戻し彩夜は藍斗に話しかける。


「ご主人様、すみませんでした。このような見苦しい姿をお見せしてしまって」


「別に、気を遣うことは無い」


 藍斗だって訳ありだ。申し訳なさそうな彩夜の姿を見て藍斗はとりあえずは彩夜の精神を安定させ生活を落ち着かせることに専念することにするのだった。

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