第43話 聖域の守護者
古ぼけた墓標と向かってガウェンが歩き出すと、先ほど入ってきた扉がバタンと音をたてて閉まり、辺りに舞っていた光が勇者の剣へと集まっていく。
「よし、これで邪魔は入らんな 」
ガウェンはモレッドとリッツを呼び寄せると、古ぼけた墓標を指差しながら説明を始める。
「説明が遅くなって悪かった。 さっきまで教皇の部下達がこそこそと後をつけてきていてな。 あいつらにここの秘密を知られるわけにはいかなかったんだ 」
モレッドとリッツは「えっ!? つけられてたの!? 」と驚くが、ガウェンは気にせず説明を続ける。
「オレの相棒はこの墓の下で眠っている。 今は聖域の守護者と呼ばれ、このダンジョンのボスとなっているが、本当の名はシーサーという 」
「えっ、シーサーって先代の魔王様と戦ったっていう、、、 」
思わず呟いたリッツの言葉に、ガウェンは深く頷く。
「ああ、シーサーは20年前に魔王と戦って破れた勇者だ。 そしてオレは勇者と共に魔王と戦った戦士であり、先代の調停者でもあった。 モレッド、おまえと同じな 」
「ここは勇者のお墓、、、 そして、ガウェンさんが調停者、、、 あれ? でもそれならガウェンさんもぼくと同じスキルが使えるんですか? 」
「いや、調停者のスキルはその役割に応じたものになるから、オレのスキルはおまえのそれとは別物だった。 それにオレに調停者としての力はもうないよ。 調停者は勇者側と魔王側にそれぞれ1人しか存在せず、役割を果たすとその力を失うんだ 」
「役割、、、 ぼくにも何か役割があるんですか? 」
「おまえの役割がどんなものかはオレにはわからない。 だが、思い出すきっかけを作ってやることはできる 」
ガウェンはそう言うと、勇者の剣を指差す。
「モレッド、これから勇者の試練を受けろ。 試練を通して失われた記憶を取り戻すんだ 」
「試練って、勇者が受けるはずの試練をぼくが受けられるんですか!? 」
「ああ、本来は勇者のための試練だが、調停者のおまえだけは試練を受けることができる。 それに、試練を越えればシーサーはここから解放され、エレナの呪いを解くことができる。 おまえが聖都に来たからこそ、この手段が取れるようになったんだ 」
ガウェンの説明にモレッドはなるほどと頷き、勇者の剣へと視線を移す。
「試練の内容はシーサーに打ち勝つこと。 魔王に破れたとはいえ、その力は今代の勇者に勝るとも劣らない。 気を引き締めて戦えよ 」
モレッドは勇者の剣へと歩みより、その柄に手をかける。
すると、辺りに漂っていた光の玉が勇者の剣に吸い込まれていき、やがて墓標からぼんやりとした人影が現れる。
モレッドがその場を飛び退いて警戒姿勢をとっていると、人影はゆっくりと勇者の剣を墓標から引き抜き頭上に掲げた。
勇者の剣から光が走ると、真っ黒だった人影が描かれる絵画のように、かつての勇者シーサーへと変貌していく。
白銀の鎧に身を包み、金色の髪をなびかせたその姿はどことなくサイオンに似ているが、纏う雰囲気はとても柔らかく、それがかえってモレッドの警戒心を強める。
その時、モレッドの背からリッツの声が響く。
「モレッド、頑張って! 」
モレッドはこくりと頷くと、深く息を吸い、シーサーに向かって暁の短刀を構える。
シーサーはそっと目を開くと、辺りを見渡し、ガウェンの姿を見つけて優しく微笑む。
「ガウェン! かなり時間がたったようだけど、元気にしてるかい? 」
「ああ、19年ぶりだな、シーサー。 もちろん元気にしてたさ、おまえをこんなところに閉じ込めたままでくたばるわけにはいかないからな 」
「ははっ、あれだけオレのことは気にするなって言ったのに君らしいな。 さて、そうすると、そこにいる赤毛の少年は勇者の試練を受けに来たのかな? 見たところ勇者ではないようだけど 」
「ああ、こいつは調停者だ。 いつもの影ではなく、おまえが表に出てこれたってことは、試練を受ける資格も持っている 」
「なるほど、そういうことか。 そうすると今回も人族にとってはなかなか苦しい展開のようだね。 赤毛の少年、君の名前は? 」
「ぼくはモレッドです。 よろしくお願いします 」
そう言って頭を下げるモレッドにシーサーは笑顔で答える。
「こちらこそよろしく、若き調停者モレッド 」
「さて、そうしたら少し話をしようか。 勇者の試練とは過去の勇者と戦い打ち破ることで、その力を自身のものとすることだ。 おそらく君が得るものは勇者の力とは違ったものになるだろうが、それでも試練を受けるかい? 」
「ぼくが得るものの中にシーサーさんがエレナの呪いを解くことに協力してくれることが入っているなら試練を受けたいです 」
「ああ、それなら協力は惜しまない。 ただ、試練を乗り越えなければ私はここから解放されないよ。 自信はあるかい? 」
「わかりません。 でも、エレナを助けられるならなんとかします。 よろしくお願いします 」
モレッドの言葉を聞いてシーサーはまた笑みを浮かべる。
「ふふっ、なんとかする、か。 君は守りたいもののために戦うのだね。 よし、それなら早速始めようか 」
モレッドはシーサーにぺこりと礼をすると、暁の短刀を構え戦闘態勢に入る。
心配そうに見つめるリッツの視線の先で、モレッドがゆっくりとシーサーに向かって歩き出す。
2人の距離がシーサーの間合いギリギリまで狭まった時、モレッドの赤い髪がゆらりと揺れ、疾風の如く急加速する。
次の瞬間、暁の短刀と勇者の剣が交差し、辺りに目映い火花を散らし、勇者と調停者の戦いが始まった。
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