第44話 先代勇者の力

 初撃を受け止めたシーサーに、モレッドは休むことなく追撃を浴びせる。


 フェイントや体術も織り交ぜながら、シーサーの周りを跳ね回り、上下左右から絶え間なく放たれる攻撃に、ガウェンは感嘆の声をあげる。


「凄まじい動きだな、魔物と戦っていた時よりも更に速い。 スピードに関してはオレはおろか、シーサーすら上回っている 」



 モレッドの動きは更に加速し、シーサーは徐々に防御一辺倒になっていく。


「やるな、モレッドくん! 私に攻撃の暇すら与えないとは。 だがっ! 」


 シーサーがスキルを発動させ、勇者の剣が光を放つ。

 モレッドが警戒して距離をとると、シーサーの周りに魔力が集まっていき、いくつもの光の剣が形作られていく。


「光刃展開!! 」


 12本の光の剣がシーサーの周りを囲み、あたりが光の魔力で満たされる。

 その剣の一本一本が勇者の剣のような巨大な魔力を放っており、まともに食らえば致命傷となることが簡単に想像できる。


 だが、モレッドがシーサーと12本の剣に恐れを抱くことはなく、それどころか勇者に憧れる少年のように目を輝かせている。


「す、すごい、、、 とんでもない魔力だ。 そ、それになんていうか勇者の奥義って感じがして、めちゃくちゃかっこいいです、シーサーさん! 」


 モレッドの心からの称賛にシーサーは思わず顔をほころばせる。


「むむっ!? そ、そうか、かっこいいか。。。 20年ぶりの憧れの視線というのと、なんともむず痒いものだな。 あ、ありがとう、モレッドくん、、、 」


 光の剣に囲まれたまま顔をほころばせて固まるシーサーを見て、今度はモレッドも恥ずかしくなり赤面する。


 もじもじしながら斜め下を向いている2人を見て、リッツはガウェンの袖を引く。


「ガウェンさん、なんか2人とも戦うのを止めちゃいましたけど、、、 」


「ああ、、、 シーサーは昔から真っ直ぐ褒められるのに弱いんだ。 勇者になって何年かたってからでも、子供に褒められただけで顔を赤くしていたからな。 リッツ、一発元気づけてやってくれるか? 」


「わかりました! 」


 リッツは大きく息を吸うと、両手で口の前にメガホンを作って大声で叫ぶ。


「モレッドー! 頑張ってーーー! 」



 その声に2人がはっとなり、シーサーが仕掛ける形で戦闘が再開される。


「おっと、少し話し込んでしまったね。 じゃあ、私の方から行くよ! 」


 シーサーが手のひらを翳すと、6本の剣がシーサーの前方にすーっと浮かび上がる。


「行け、光刃! 」


 掛け声と共にシーサーがモレッドに向けて手のひらを翳すと、6本の光の剣が急加速し、モレッドを取り囲むかのように高速で周囲を旋回する。


「さあ、モレッドくん、君はこいつを乗り越えられるか!? 受けてみよ、勇者の剣! 」


「舞え、光刃! 」


 瞬間、1つの光がモレッドに迫り、反射的に傾けたその頬をかすめる。

 ほんのわずか、毛先ほどにかすめただけのその頬の肉が大きく抉られ、あたりに血飛沫が飛び散る。


(かすっただけで!? これは1発たりともくらえないぞ! )


 モレッドの視界に前後左右を飛び回りながら高速の斬撃を見舞ってくる3本の光の刃が映る。

 うち1本を暁の短刀で弾き、残る2本を飛び上がりながら身体を捻って回避すると、着地の瞬間を狙って次の刃が襲いかかる。

 モレッドはその刃も暁の短刀で弾き、息つく間もなく側面から斬りつけてきた6本目の刃を

身体を反らして躱す。


(なんだろう? すごく身体の調子がいい。 とんでもなく速くてするどい攻撃なのに、なぜだか当たる気がしない )




「なんと! シーサーの光刃を初見で凌ぎきるのか! 」


 ガウェンが感嘆の声をあげる横で、リッツは心配そうに両手を合わせ、モレッドの戦いを見守っている。



「やるな! だが、これならどうだ!? 」


 シーサーがもう一度手のひらをかざすと、今度は12本の光の刃がモレッドを襲う。


 モレッドは先ほどと同じように暁の短刀と身体能力による回避で光の刃を捌いていく。


(わっ、さっきの倍か。 でも、なんだろう? さっきより攻撃がよく見える。 それに左手が、、、 )

 

 何度か白と赤の刃がぶつかり、モレッドの身体をかすめるようにして白い刃が次々と空を斬る。

 少しずつ光の刃の軌道が狭まり、攻撃の密度が上がっていく。


「モレッド、危ない! 」


 リッツが叫び、四角から迫る1本の刃がその身体を貫こうとしたその時、モレッドの左手は何かに導かれるようにして光の刃を掴む。

 光の刃はモレッドの左手を拒否するようにバチッと音をたてて火花を散らすが、すぐさまスキルを打ち消す効果が発動する。

 すると、光の刃は瞬く間に粒子になって掻き消えていく。


「なっ!? その左手は、私の光刃を打ち消すほどのアンチスキルなのか!? 」


 驚くシーサーだったが、それでも攻撃の手は緩めない。

 残った11本の光の刃はまるでモレッドを包む球体のように激しく動き、凄まじい密度の攻撃が繰り出される。

 だが、それでもモレッドは暁の短刀で光の刃を弾きながら、ひとつまたひとつと光の刃をその左手で掻き消していく。


「とんでもない反応速度だな、モレッドくん! もはや、アンチスキルだけで可能な芸当ではないぞ! ならばっ! 」


 シーサーが勇者の剣を構えると、その剣は更に強い光を放ち、白く巨大な光の剣を形成する。


「かあっ!! 」


 シーザーは掛け声と地面を強く蹴り、高速でモレッドへと斬りかかる。


 光の刃による上下左右からの攻撃と、シーサー自身の剣、勇者としてもち得る力を全て使った総攻撃だ。


 モレッドが残る9本の光刃を捌き、着地したその瞬間、シーサーの剣がモレッドを捉える。


 モレッドは咆哮と共に暁の短刀で勇者の剣を受ける。


「うおぉぉぉーーー!! 」


 その咆哮に答えるかのように暁の短刀が赤い光を放ち、勇者の剣の白い光と共にあたりを目映く照らした。



 


 


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2025年1月11日 09:12
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勇者パーティーを追放された遊び人だったけど、死の淵でチート職業&チートスキルに目覚めたので非道すぎる勇者に逆襲します ~勇者は今回も魔王を倒さず撤退するようです~ 鈴木となり @tonari373

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